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その小さなクマは、起き上がった。
目がクリクリに大きくてサイズ的にもクマのぬいぐるみみたいだ。
何とも可愛らしい姿だわ……。
クマは、涙をポロポロと流していた。
「俺の父ちゃんを返せ!!
父ちゃんは、人を噛み殺して追放者にされたけど……あれは、俺を守るためだったんだ。
俺が捕まりそうになったからで……。
それでも家族で山の奥でひっそりと暮らそうとしていたのに……。
なのにお前ら妖精が父ちゃんを殺したんだ!!
だから俺は、お前らを許さねぇ……」
泣きながらも必死に訴えてきた。
えっ?ちょっと待って。
確かに追放されたクマが妖精界の結界を破ろうとしてキョウ様に殺されたけど。
でも、この子の話だと微妙に違う。
まるで、誰かにそそのかされたかのように妖精族のせいに話を変えられていた。
そんなはずがないわ。
クマは、あの時に獣族に操られて正気ではなかったのよ!?
「ちょっと待って。話が違うわ!!
アレは……獣族が、わざとあなたのお父さんを操って妖精界の結界を破ろうとしてしたから
だからキョウ様が仕方がなく……」
「嘘をつくな。妖精族は、獣族が憎くて仕方がないんだ!!
だから父ちゃんを殺したんだ!?」
「違う……」
話は、平行線のままだった。
この小さなクマの男の子は、妖精族が父親を殺したと思い込んでいる。
その誤解を解かないとやめる気はないらしい。
このまま揉めて他の妖精達に気づかれたら、この子もただでは済まなくなる。
何とかして早く誤解を解いて立ち去ってもらわねば……。
「おい、どっちが正しいんだ?」
「それは……もちろん」
そう言いかかった時だった。
いつの間にかクマの男の子の後ろにセイ様が立っていた。
まったく気配も無かったので驚いた。
セイ様は、包みを持ったまま黙ってクマを見下ろしていた。
「……ここで何をしている?」
「あっ、いつの間に!?お、俺は……」
振り返り慌てるクマの男の子を無視してセイ様は、その子の顔を片手で掴んできた。
えっ?ちょっと……!?
あの小柄で細い腕に、よくあんな力が!?と思うほど凄い腕の力で持ち上げてしまった。