メアラという人物
「困ってるのは末の子なのよね」
「バモン君? ですか?」
「あの子はあの子で大事なんだけど……ええ、本当に肝を冷やしたわ」
「アーチボルドをもう一度養子に出す話が再燃する所だったな」
「そうねぇ。私なんて直接将軍様の所に顔出しちゃったわぁ。その説はどうもぉ」
「ふん。気持ちは分かる故、不問に付したであろう?」
「(ギリギリギリ……)」
(超歯ぎしりが聞こえてるんですが!?)
しかし4女お姉様以外のお姉様方も笑ってはいなかったりする。
(うひぃ! 聞いてたより大丈夫そうとか思ったのは気のせいだった! 話を、話を変えねば!)
「っとなると! ……えっと、メアラ先生の事ですか?」
「ええ、そうよ。あの子はね、どのお見合いも受けてないの」
「ええ? いれぐいなのに?」
「(ニッ)」
(あ、無口なお姉様が笑った。あの人お姉様方の中ではちっさいから、ちょっとかわいい……)
誰でも行ける口なんですね風呂オラさんは。
(そろそろその呼び名、止めない?)
やめなーい。
「話を戻すわね? メアラって、私達と少し年が離れてるの。私達は2つ違いだけど、メアラとバミーは6ずつ離れてるのね。私達は結婚して早くから家を出てるもんだから、長く一緒に居るバミーの事を溺愛しちゃっててねぇ」
「え? メアラ先生の話では、お姉様方は自分より凄いって……」
「それは権力のことを指しているのだろう」
「勿論、バミーに何かあったら、全力で潰しに行くわよ?」
「全力で持ってぇ、叩き潰してあげるわぁ」
「(シュッシュッ)」
(ぬあ、無口なお姉様、シャドーボクシングやってる! カワユス)
「だけどね。メアラは苛烈なのよ。何に置いても、何をするにしても、ね」
「あれはきっとバミーを守れるのは自分しか居ないって思っておるのだろうな」
「(ボソッ)間違いじゃ、ない」
「そうね……一番近くにずっと居たんだものね」
お姉様方がしんみりしている。そんなところに鬼将軍が爆弾を投下するのだった。
「だがお主らの懸念する後継問題にしても、攻め入ってくるであろう仮想敵国の王があの時の小童である限り、ザルツナー辺境伯家周辺は安泰であろう? ご丁寧にどこぞの狂犬が、隣国の領都で領主一族を皆殺しにしたからな」
「ハトラー伯!」
「どういうことだ……。オランジェ! 何を知っている!?」
(どゆこと?)
分からん。俺の知ってる情報ともずれてる。
「ねぇハトラー伯ぅ? あれってぇ、ザルツナー辺境伯家にたまたまエリオット君が逗留してたからぁ、公爵家の剣が出張ったのでは無くってぇ」
「それも事実ではあるが、真相はもっとややこしいのだ。あの襲撃で、当時身重だったグラジアス夫人に負荷がかかりおったらしくてな。激怒した狂犬が一匹、飛び出していったのよ」
「……それがメアラだと?」
「うむ、メアラであるな。当時儂も領都へと雪崩込んでおったのだが、異様な素早さで駆け抜けていくチビ助を見かけてな。最初はお主の言うように公爵家の剣の仕業であると思いこんでおった。しかし領主邸に踏み込むと、ある一人を除いて惨たらしい死に様を晒しておったのだ。内容は口にするのも憚れるがな」
(うわ、うわぁ……)
えー? メアラ含む教師陣のお話では、公爵家の剣の話までしてたのにぃ? 犯人はシンシアじゃなくてメアラ先生だったとかどういうことぉ?
(そんな話してたんだ……)
それどころか、しれっとシンシア一人の凶行だったって説を後押ししてた。その上でオランジェがシンシアをあっさり組み伏せた話までしてたぞ?
(それって自分から血生臭いイメージを遠ざけるため? 割りとっていうか、やっぱり? メアラ先生は腹黒キャラなのかしらね)
「公爵家の剣はな。暴走するメアラをこそ押さえつけておったのよ。戦争の幕引きを描いておったのでな」
「一人を除いて……って言うのは?」
「向こうの第二王子、今の隣国の王だな。最上階の自室より儂の攻め入る様を見ておったらしく、これは助からぬと目を回しておったらしい。それが幸いしてか、メアラの目を引かなかったようだ」
「……何故今の今まで黙っていたのだ、パーリントン夫人」
「あれは私にとっても大事な生徒なのでな。矯正案件であった」
「うちの妹に……っ!」
「………………」
言い募ろうとする長女お姉様に、無言で冷たい視線を向けるオランジェ。長女お姉様はその視線に射抜かれて声も出ない様子だ!
「私の生徒であるうちは、指導する権限を持つのは生家ではない。この私の、私だけのものだ。本来貴族同士の争いは無いに越したことはない。だがお前達が本来なら受けるべきお咎めを受けることもなく好き勝手やってきたツケが、そういう風に生きて良いと思い込んだメアラの……危険な才能を開花させてしまったのだぞ?」
「「「「………………」」」」
4人のお姉様方は黙り込んでしまった。
「あれでも大分ましになったのだ。今回死人が出てなかったことに私がどれほど驚いたか」
「待て待て。あれはまだそんなに不安定だったのか?」
「そうだと言っているが?」
鬼将軍がオランジェの言葉を受けて思わず口を挟むも、事実の確認がなされただけであった。
「バモンに問題が無かったからこそ大丈夫だったのか? そこまでは不明だが、少なくとも今回人死は出ていない。であれば今まで通り接するのが良かろう」
「……ちなみにパーリントン夫人ならメアラを止められるのか?」
「……どういう意味だ?」
「激昂していたとはいえ、鬼将軍の部隊が隣国の領都を攻略中、その隙間を駆け抜けていけるほどの実力だ。当時ですら私などよりよっぽど強かったろう?」
「儂より強いかも知れんな?」
「なるほど。そういう意味で聞いたのなら止められると答えておこう」
「……そうか」
「お主が理性的で良かったわい」
(それは現時点で私の知る限り、最高戦力であるオランジェ様が敵対する可能性が低いことに安堵、ってことで宜しいのですよねお祖父様)
(『恐らくそうだわよね。ってかこの人達人間なのよね?』)
色々おかしな強さをしてるが、カテゴリーは人だなあ。
(でもね乙女様、いえ魔王様。魔族は一人でオランジェ様並に強いと思うわ)
(『……そうなのね。だから特化型の光魔法が必要になってくるわけね』)
(そうなのよ。でも今の魔王様の様子だと敵対する可能性は低いわよね?)
(『勇者様の危惧、魔王の体っていう器には何か別の悪意が宿っている可能性がある、ってのを除けばね』)
そんな話もあったな。やっぱり壊すのが最善か。
コンコン
「む? 『話し合い』が終わったか? メアラか? 入れ」
「はぁい。失礼しますわね……って、え!? ステラ、様?」
「あらあら、メアラちゃん、久しぶりねぇ」
「お、お久しぶり、ですわ」
「……どうしたメアラ。何故困惑気味なのだ?」
「それはな、ザルツナー辺境伯夫人」
「ちょま、オランジェ先生!」
「こいつ、ステラが苦手なのだ」
「あ―――っ!」
「「「「「「「………………」」」」」」」
「あらあら、まぁまぁ」
(な、)
なんですとー!?
(セリフ盗んなや!?)
「そ、それはどういう……ステラ?」
「あら貴方、どうして一歩下がったの?」
「いや、それはその……なぁ?」
「うふふ、ご心配なさらずとも、強さが関係しているわけではございませんよ? 知っての通り私は、戦闘力からっきしですからね」
「だ、だよね?」
「メアラちゃんてね? とってもカワイイの」
「あ、まっ、ちょ―――っ!」
「悪意のない相手には全然強く出れないの。不思議よね? 普段は人付き合いが良さげに見えて、全く他人に興味を持たない上に、少しでも敵対する可能性を嗅ぎ取ると豹変しちゃうのにね。ね? メアラちゃん?」
「酷いですわ! 私は色々殻を被ることで自分を守っていますのに!」
「あら? 酷いの? 嫌いになった?」
「あう、あ、いえ、そのようなことは決して……」
「ね? 見た? カワイイでしょう?」
「くっ―――!」
あれっすかね? くっころ?
(誰この人……)
「ステラ。余りいじり過ぎると本気で拗ねるぞ?」
「うふふ、だってこの子の怖い話ばかりするものだから、そうじゃないのよって自慢したくって……」
「え? は? 怖い話って……まさかオランジェ先生!?」
「私ではないぞ。ハトラー伯だ」
「ハトラー伯……ぅ?」
「おいおい、カワイイメアラちゃんなのだろう? 牙を剥くでないわ」
「あなっ……!?」
「んもう! お父様。メアラちゃんを虐めるなら暫く帰りませんからね!」
「えっ!? ちょ、すまんかった! メアラ嬢! 勝手に話をして!」
ステラがメアラの頭をぎゅっとフローラにはない豊かな胸に抱き、鬼将軍にお叱りを飛ばす。驚いた鬼将軍が慌てて謝罪するの図。メアラは目を白黒させるも嫌がる様子はない! むしろ少し頬を赤らめて照れてる感じだ! お姉様ズが戸惑っている!?
……ここでフローラの母ちゃん最強説浮上?
(……ないわー)