第九話 避難訓練
カルラとアルバンとエイダは、俺が出した条件をクリアした。
ギリギリだったようだが、クリアしたのだから、共和国に一緒に行く。
「カルラ。移動手段の準備は?」
「はい。馬車の手配をしています」
「解った。ダンジョンの設定を変えられる
「かしこまりました。アルバンは?」
「おいら?」
「そうだな。エイダにウーレンフートの街を案内してやってくれ、エイダはアルと一緒に街に出て、ダンジョンの外での活動を確認してくれ」
「うん!」「わかりました」
「俺は、
カルラが、思い出したかのように下げていた頭を上げて、話しかけてきた。
「あっ・・・。マナベ様。お食事は?」
「うーん。何か適当に食べるからいいよ」
倉橋さんの生活していた部屋には厨房も備え付けられている。食材は、カルラたちが持ってきているからなんとかなるだろう。スープでも作っておけば、簡単に食べられる。どうせ動かないのだから、簡単に食べられる物で十分だ。
さて、遠隔監視は作ったけど、遠隔での設定変更が行えない。
リモート接続を行って・・・・。あ!違う、発想を変えよう。エイダがやっていたことを、複数のヒューマノイドにやらせればいい。
そうなると、機械学習の入っていないタイプを作成して、それぞれに役割を与えればいい。
ログをチェックするような役割だ。アラートはすでに組み込んでいるけど、アラートに連動して制御を行う部分は組み込んでいない。
制御に負荷がかかるが、使う魔力とルーチン用のサーバを増強してからは、負荷による問題は出ていない。
もう少しサーバを増強しておくか・・・。
リソースメータを見ると、各サーバの負荷率が3割り程度になっている。できれば、1割五分から2割り程度に落ち着かせたい。
控えていたヒューマノイドゴブリンに、在庫ナンバーを伝えて、3台のラックサーバを持ってきてもらった。設置を手伝ってもらって、接続を行う。
魔素の使用量は上がるが、サーバの負荷が下がったことを確認できた。
さて、一組、同じ物を作っておくか・・・。
コールドスタンバイ状態にしておこう。そっちは、負荷率を5割り程度に抑えるようにしておけばいい。コールドスタンバイは使われないシステムになるのが一番いい。
制御系のサーバを切断すると、ダンジョン内に居る魔物が暴走の状態になってしまうのが解っている。制御を戻せば、順番にタスクに割り当てられていく、ゾンビタスクとして残る場合があるので、制御を取り戻せなかった魔物は暴走の状態で放置されてしまう。ゾンビタスクとして残ってしまった魔物は、討伐する方法しかないので、ゾンビタスクの近くに確実に討伐出来る魔物を配置して討伐させる方法を採った。
コールドスタンバイの環境が作り終えて、
やはり、全ての魔物の制御を取り戻すのは無理で、ゾンビタスクが発生してしまった。ダンジョンに潜っていた者たちは、タグ付けがされていて、タグの情報は別になっているので、問題にはならない。データの保存用のサーバは二重化している。
ヒューマノイドゴブリンに、新しいヒューマノイドの作成を命じた。
全部で5体だ。
ネットワークのリソースを監視するヒューマノイド。
サーバのリソースを監視するヒューマノイド。
データ領域を監視するヒューマノイド。
全ての監視が出来る予備のヒューマノイド。
ヒューマノイドの情報をまとめて報告を行うヒューマノイド。
5体のプログラムを作成する。
ベースは、通常のヒューマノイドで十分だ。制御系のプログラムは、冗長なくらいにしておこう。ハードウェアに余裕がある状態だし、人の命に関わる部分だ。問題が発生してからでは遅い。ヒューマノイドは監視がメインになるし、避難訓練も行ったし、問題にはならないと思う。
”マスター”
「ん?」
ヒューマノイドゴブリンが話しかけてきた。
”最後に、お食事を摂ってから、19時間が経過しております”
「え?そんなに・・・。そうか、パンは残っていたよな?」
”はい”
「ありがとう。食事にするよ」
”かしこまりました”
パンに、ハムのような物を載せて食べる。
冷えたエールで流し込む。”食べた”という事実を残すだけの食事だ。
作業に戻る前に、カルラから連絡が入った。
制御室を出て、打ち合わせが出来る場所に移動した。執務室のように使っている部屋だ。
「マナベ様」
「どうした?なにか、報告があると連絡をもらったが?」
「はい。クリスティーネ様からの情報を併せましてのご報告です」
「そうか・・・。カルラには悪いけど、少しだけ待ってくれ」
「はい。大丈夫です」
報告を受け始めると、数時間は拘束される。
クリスへの連絡をしなければならないだろう。避難訓練をしっかりと完遂させておきたい。
カルラには、執務室に残ってもらって、制御室に戻る。
ヒューマノイドたちは問題なく動作している。アラート部分の作り込みが甘いのは解っているので、正常ケース以外は割り込みを排除しておく、その上でアラートに余裕をもたせる数値設定を行う。
問題は、アラートではなく、一部のシステムが落ちた場合のバックアップが動作出来るかだが、ヒューマノイドの動きの確認を含めて、いくつかのパターンを定義した。
所謂テストケースだ。実際に全部の制御システムがシャットダウンしてしまった状態では、ダンジョンのセーフティーネットが働かなくなる。安全装置が効かなくなるので、魔物の出現率の調整や強さの調整が行えなくなってしまう。その結果、低階層でいきなり強い魔物が出現してしまったりする。
ホームに、連絡できる方法を作っておいたほうがいいだろう。
セーフティーネットがなくなった状態で、ダンジョンを放置しておくと、スタンピードが発生してしまう可能性がある。ホームに連絡が入って、スタンピードに備えさせる方がいいかもしれない。ホームの上層部にだけでも、伝えられる方法を考えておこう。
テストケースを書いていくと、ダンジョン・システムの問題点が解ってくる。
ウーレンフートのダンジョンでできそうなことはやり尽くしたが、危険を完全に排除できていない。他のダンジョンと繋いで、バックアップのシステムとして他のダンジョンのシステムを流用出来るようにした方がいい。システムが両方とも落ちてしまう危険度は、かなり極小だろう。
”監視の監視は誰がやる”状態になってしまうが、複数の離れた場所にあるシステムで監視を行うようにしよう。
ネットワークが簡単に構築できるのは嬉しい。問題は、ダンジョンの制御室を作ることが出来るのかだが、倉橋さんにできたのだから、なにか方法があるのだろう。ダンジョンを攻略してみればわかるかもしれない。
テストケースで作った、正常なシステムの異常系をチェックしていく、システムの一部を無理やり切り離したり、負荷を増大させたり、ネットワークの切断や機材の故障を擬似的に起こさせる。
閾値を低く設定してのテストなどを行って、問題が発生した場合での対処を確認していく、ダンジョンの制御を行うプログラムの問題がないことを確認する。ハードウェアの問題が数箇所見つかったが、避難訓練で見つかってくれてよかった。
さらにテストケースを作り込んでいく、新しくダンジョン・システムを作ったときにも参考になるだろう。
魔物の異常な配置を行ってシステムが正常に”異常だと判断”するか確認していく、やはり一度システムが落ちて、切り替わったシステムで魔物を把握していくと、動きが止まってしまうが、しょうがないと諦めよう。システムが完全に落ちたあとにスタンピードの最中に、システムが再稼働するパターンを考えると、動きが止まる方が良いように思える。
モンキーテストをヒューマノイドにまかせて、避難訓練を終えて、制御室を出た。
執務室に向かった。