第3話~フエーナのような男~
「見つけたぜぇ。イングジャミィッ!」
俺が紐を引いてイングジャミの死骸を運ぼうとした時、声が聞こえた。ミリアに上げさせた火柱に気づいた男だろう。だが俺はその声に聞き覚えがあった。どうしてこう纏わりつくのか
「シューイン!」
「お?勇者サマじゃねえか。なあそのイングジャミどうしたんだ?」
「倒した。」
「倒したァ?てめえが?冗談はその辛気臭え面だけにしてくれよ!アッハッハッハ!」
どうせそう答えるだろうとは思っていたがシューインたち3人は腹を抱えて笑っている。まあ何と言われようが倒したのは俺とミリアだ。これ以上話しても無意味だと思い俺は奴等を無視してイングジャミを引き始める。
「なア勇者サマぁ。俺たち、そのイングジャミを殺せって任務なんだよォ。」
「……。」
「だから俺に寄越せって。なあ?」
冗談ではない。本当に受注しているのかは分からないが受注した仕事を奪う形になったのはたしかだが、今回のことは不可抗力だ。それを任務を受けていたからといって譲る必要も理由も全く無い。
俺は無視をし決め込み前に進むがシューインは剣を抜いて俺の身体を狙って突きを放ってきた。俺は後ろに飛んで剣を躱してから
「気は確かか?」
「大人しく渡しときゃよかったんだ。」
後ろに避けた際紐を手放してしまっていた。そしてその手放した紐を持ったシューイン。ニヤニヤとこちらを見下し笑っている。そして紐を見ながら
「きったねえ紐だなあ。道具すら用意できねえのか。なっさけねえ。エリサ!ダーシャ出してくれ!」
「あいよ!」
「自分で準備したものでもないのに随分と偉そうだな。」
「何?」
「そのダーシャは俺が用意したものだ。」
「ハッ!てめえが弱えから悪いんだ。」
「そこまで言うなら闘おう。ここなら誰にも迷惑が掛からないだろう。来いよフエーナ!」
「お、俺がフエーナだとォッ!ぶっ殺してやる!」
俺の荷物をほとんど全て持って行っておいて偉そうに言って笑うシューインに対し、俺は思っていたことを言い返す。だがこの男は完全に俺を格下と見ているようで変わらず嘲笑しながら答える。
俺も我慢の限界が来た。それにこの草原なら特に誰にも迷惑は掛からない。俺は奴をフエーナと呼んだ。フエーナは魔物の1種で別の魔物に狩らせた獲物を横からかっさらって行くことがよく知られている獣の魔物。そしてそのような行いをする者への蔑称として使われることも多い。
一応仲間だった男。勇者を名乗る俺の志を共に目指してくれた男。それ故にそれを口にするのは今まで控えていたが、重ね重ねの屈辱に最早そうとしか思えなくなった。
俺は喝破して戦闘態勢を取った。