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 胡散臭い。その話を聞いたとき、そうとしか思わなかった。有り体に言えばありがちな噂話というか、与太話の類いに過ぎないと、思っていたのだ。けれど、ふと思い立って尋ねてみた祖父母は、いっそ引くくらいにそれを信じ切っているようだった。しかも聞いていれば、伝承として信じている、と言うよりは実体験、事実として認識しているらしい。——そんなこと、あるか?
 まぁ、昔は双子が忌み子とされて殺されたりとか、今では信じられない根拠ゼロの慣習がまかり通っていたわけだし、そう言った怪談話や伝承が広く信じられていても、不思議ではない。そんなことを考えながら、オレは境内に続く石段を登っていた。
 ここの石段は結構急で、その上段数もそこそこある。参拝者の多くはもう年寄りになっているのに、バリアフリー化する気配もない。と言うか実際、何か整備するべきではないかと議題に上がったことはあるらしいのだが、高齢者の多くが拒否したそうだ。機械の臭いのするものをあそこに持ち込むのが嫌いらしい。結局、階段の脇に手すりが付けられて、一応の解決を見た。でも、石段自体も老朽化し始めているし、結局そろそろ大規模な補修工事なりをしなければならないんだろう。その時も高齢者の多くから反対が出ると思うと、今から彼らの苦労が浮かぶ。お疲れ様です。
 ようやく登り切った石段、段数も聞いていたとおり。見回しても、普段と変わっているところは特にないように見える。——やっぱ、眉唾か?

——少年。

「はっ!?」

 耳を通さない、脳に直接語りかけるような声が、突然響いた。無垢な少女のようでもあり、年老いた老婆のようでもあり、かと思うと精悍な青年のようでもある、不思議な声。声、だろうか。

「……伝承の、妖怪か?」

 声に出してから、タメ口はヤバかったかとも思ったが、手遅れだ。いきなり祟られるようなことにならないと良いなと現実逃避しつつ、反応を待つ。

——ほう、幼子が、我が伝説を信じるか。

 幼子なんて呼ばれるほど子どもじゃねぇし、オレ16だし。あと別に信じてる訳じゃない。確かめてやっても良いかと思っただけだ。そして、タメ口は咎められなかったようだ。

「文芸部の肝試しみたいなもんなんだ。眉唾かと思ったけど、マジだったんだな」

——面白い」

 それまでテレパシーのように響いていた声が、突然耳を通した肉声になった。バッと振り返ると、茶色の猫が行儀良くお座りしている。首に付けている鈴も、二股の尻尾の先が黒いのも伝承の通りだ。お出ましらしい。——茶色?

「あれ、白じゃねぇの?」
「ん? 白ネコだぞ?」
「いや、茶色じゃん」

 思わず突っ込む。意外とお茶目なタチらしい。ゆっくりと近づくが、逃げる気配もない。頭を撫でると、目を閉じてすり寄ってきた。正直、かなり可愛い。

「ホントだったんだな……。ってか、お前臭いぞ」
「ここ数年、我を信じる人間も減った故な。薄汚れていく一方だ」
「……いや、待て。マジで臭い。お前……えーっと、名前なんだっけ?」
「我に名前はない。好きに呼べ」
「じゃあシロ。シロ、神社出たらヤバイ? ウチ連れて帰って洗いたいんだけど」
「構わぬ。というかむしろ頼む」

 あっさりと認めてくださった妖怪サマを、脱いだパーカーに包んで足早に階段を降りる。臭い。かなり臭い。そりゃ何年も洗われなければこんなもんだろうけど、その辺妖怪パワー使えないのか? 知らないけど。

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