野郎の宴+α
同日、修練場にて。
「おおおおお!」
「気合だけかお前は。うるさい」
ガンッ!
「うぐう……」
「つ、次は俺だ! テェリャアアアアア!」
「大振り過ぎる。コンパクトに、確実に。大技でどうこうなる程の差じゃないだろう」
コンッコンッ……ドボッ!
「うげぇ……」
立て続けに二人沈めたのはバモンだった。女子会の後は男子会? って言わねえなこれ。
「うえ、マジであいつ強かったのか……」
「ただのいばりん坊じゃなかったのか……」
「これで何人抜きだよ?」
「おい、次お前行けよ」
「嫌だよ! 痛いのは苦手なんだ」
「そらどうした! 次、来い!」
「では僕が行っても良いかね?」
「……パーカー様」
名乗りを上げたのはエインドル子爵家令息、パーカーだった。
「当然ながら無礼講といこうじゃないか。手を抜かれてはこちらも立つ瀬がない」
「ご配慮痛み入ります」
二人が睨み合う中、ギャラリーから「誰だあいつ」とか「誰狙いなんだ」とか「うほっ! 良いお肉」とか聞こえてくる。……助けてフローラ。
「では参る!」
パーカーの繰るのは細身の剣、レイピア。バモンの扱うのはショートソード、小剣と言うやつだ。
キンキンキンキンキキン!
パーカーのレイピアが目にも止まらぬ速さでバモンを襲う! が、バモンは焦らず全ての剣撃を弾いていく。
「くっ! これでも同格の家の者の中では上位に入るつもりだったのだが、さすがは武門の家のものだけある! レイピアには一家言あるつもりだったが、通じないとはな!」
「中々お強いですよ……しかし」
キンキキンキンッ! ギンッ、ギンッ、ギンッ、カァンッ! ……ットス
「その武門の家の出、としては負けるわけには行かないので」
「くっ……」
パチパチパチパチ
「「 !! 」」
二人が振り返るとグレイスが楽しそうに微笑みながら拍手を送っていた。
突然の別格貴族の登場に、いつものことながら見事な海割れならぬ人割れが出来ていく。……寂しい。
「いやぁ、良いものを見せてもらった。もし良ければ私も挑戦させて欲しいのだが?」
「グレイス様……」
「ご冗談を……。グレイス様相手なら、私の方が挑戦者でしょう」
「で、受けてくれるかね?」
「……一手ご教授願います」
バモンが受けると場が騒然とする。両家とも武門の家柄。しかし、それが男爵家と侯爵家ともなれば……。
グレイスが選んだ武器はレイピア。わざとなのかたまたまなのかは分からないが、その構えに隙はない。共に構えを取った次の瞬間、
ギィインッ! ギャリィッ! ゴッ! ズンッ!
およそ金属同士がぶつかったとは思えない、非常に重い音が修練場に響く。
「ふふっ、やるなぁバモン君! 久しぶりに楽しめそうだ!」
「ぐうっ! ……おおおおお!」
余裕を見せるグレイス嬢と、どことなく必死さが滲み出ているバモン。どちらが劣勢か、誰の目にも明らかだった。
ギィィンッ! ガッ! ゴッ! ジャリィンッ!
「さぁそろそろ決めさせて貰おうか!」
「舐……めるなぁあああっっ!」
パッキイィィンッ! ……ザスッ!
「おやおや、折れてしまった。私の負けだね」
「「「「………………ウオオオオオオオオオオオオ!!」」」」
「ハァッハァッ……」
「中々良い勝負だったよ」
「バカにするのも……大概にしろ」
握手を求めるグレイスに対し、バモンの吐いた言葉で場が凍りつく。「おいおい馬鹿かあいつ」だの、「何考えてるんだ!」だの、「やっぱり男が良いのね!」だの、聞こえてくる。
うおおおおい! 何故フローラは何故ここに居ないんだ!? ネタ満載じゃないか!
「困ったね。馬鹿にしたつもりは……」
「レイピアのような横の衝撃に弱い剣で、大剣や長剣を扱うように振るったことの何処に侮りが無いと言える!」
ビリビリビリ……!
詰めるような叫ぶような、それでいて悔しさのこもった嘆きのように絞り出した声。真っ直ぐな気持ちをぶつけられて、グレイスも笑みを消してじっとバモンを見る。
「……なる程。言葉にして聞いてみると、侮蔑と捉えられてもおかしくないな。素直に謝罪する。済まなかっ……」
「謝罪が欲しいんじゃない! ちゃんと本気で剣を取れ! あんたも武門の家の娘なら、本気で戦ってもらえない事の悔しさは知ってるはずだ!」
「……そうだな。ではもう一度レイピアでお相手しよう。今度は本気で」
「……ああ。それで良い」
二人が距離を取って構えると、ピタリ……時が止まったかのように静寂が場を支配する。1分……3分……。誰かの息を呑む音がゴキュリと妙に修練場に響いて……
「フッ……!!」
「 !! 」
……ドサッ。
勝負は一瞬で着いた。誰の目にも止まらぬ速さで、グレイスのレイピアがバモンの意識を奪った。何が起きたのか察知できたものは居なかっただろう。気付いたらバモンが倒れていた、そんなところだ。
パチパチパチパチ
「やはりお強いわねぇ、グレイス様。みぞおちに正確に突き入れるなんて。防具をクッションにしたとはいえ、凄い衝撃だったでしょうねぇ」
「メアラ先生。すみません、弟御を……」
「良いのよ。本気でやって負けたのなら。その子も本望よ。……どうだった?」
「彼はまだまだ伸びるでしょう。……羨ましい限りです」
「羨ましい? 貴女の方が余程強かったじゃないの」
「彼にはまだ魔法に関しても伸び代がある。……私にはそれがない」
「違うわね。でも、言わせてもらえば立つ場所が違うだけだわ」
「立つ……場所?」
「この子はどうあっても前線に立たざるを得ない子。貴女は後ろでどっしり構えて指示を出す側。貴女の下まで敵を上げた時点でこの子にしたら負けなのよ。でも、強い貴女ならどうにかなるかもしれないという信頼があれば、この子は信じて戦い続けられる。違う?」
「……そうでしょうか」
「そういうものよ。上の者は私達を上手く使いなさいな。その上で生き残りなさい。それが責務ってものよ」
「……はい。心に刻んでおきます」
グレイスが軽く頭を下げると、メアラは手をフリフリ振って返すに留め、伸びたバモンを片手に担いで連れて行った。
「アーチボルド」
「おう、何だ?」
何時の間にか近くまで来ていたアーチボルドにグレイスが問う。
「メアラ先生に勝てるビジョンは持ってるか?」
「うんにゃ、3:7か2:8で負けるな」
「うん? ではその3や2は何なのだ?」
「相打ち」
「ああ……」
「何であの人、武術担当じゃないんだろうな?」
「さぁ……ね」
……メアラはどれ位強いんだろうか。と思ったとこで俺には聞く相手が居ない! どうやら俺は喪女さん欠乏症らしい! なんてこと!? あの子、やゔぁいクスリだったなんて!
………
……
…
「何か凄い試合を見そびれた気がする!」
「うわぁ! 何っすかいきなり!?」
「ベティ、またなの?」
「え? 突然こんなこと言い出すのって、度々なんですの!?」
「そうなんですのよ」
ベティアンテナすげーな。
(あ、帰ってきた。あんたといいオカマ王といい、自由過ぎない?)
俺はともかく、あいつは趣味に走ってるからなぁ。
(趣味って何さ!?)
イケメン巡り?
(……え? は? マジで何やってんのあいつ。でベティアンテナって何よ? 何かあったの?)
お前の見てないところの情報は
(あんたは「教えなーい」と言う)
教えなーい……絶許。
(いや、今のはあんたが悪くない!? 読め過ぎだろ。過去にもそんな話聞いたことあるし)
やられると超腹立つな。こんな喪女如きに。こんな喪女如きに。こんな以下略×100。読まれる俺だったなんて。
(私への怒りかと思ったら自分への怒りだったの!? ってか、どれ程下に見られてんの私!?)
フローラさんや。
(何だよいきなり、ノーコンさんや)
喪女さんの存在は習慣性のある薬物だったみたいです。
(存在を貶められた!? 何よそれ!?)
メアラ先生ってどれ位強いんだろうな?
(話が変わっちゃったぁ!? っつか、メアラ先生は教養の先生なんだから戦闘とか無関係じゃないの?)
喪女さんは勝てる?
(無理)
即答だな。じゃあ、誰だったら勝てそう?
(……オランジェさん)
まぁそうだよな。喪女さんの強いってのはキャラとか立場の話だよな。
(私に分からない話振らないでー)
なお喪女さんとの無駄話中、他の女子ーズはずっとベティアンテナの話題で盛り上がってた。
翌日のバモンの欠席理由を聞いてベティが「やっぱ見逃してたー!?」と絶叫したのは余談である。