お茶会と野郎会
ジュリエッタとの居残り勉強を境に、別格貴族達からのアプローチが途絶えた。我らが喪女さんフローラにしてみたら、何がどう転ぶか分からない別格貴族達との接触は無いに越したことはない。束の間の平和を謳歌していたのだ。
「お茶会、ですの?」
「ええ! そうですわ! 私、フローレンシア様をお茶会にお誘いに来たのですわ!」
「フローラとお呼び下さいな。そもそも、上階へ供に赴いた際、あの場にてフローラと呼んで下さってたではありませんか」
「あ、ああ、ええと……あの時はその、色々限界でしたの! 咄嗟に口に出た、というか……でも、お許し頂けるなら……フローラ様」
上目遣いでチラ見するミランダ嬢。
「ええ、改めてよろしくですわ、ミランダ様」
「(パァッ!)こちらこそですわ! フローラ様! ……それでお茶会なのですが(チラッ)」
ミランダ嬢がフローラの友人達を見る。
「ああ、こっちは気にしないで良い。お茶会得意じゃない」
「わ、私も少し苦手、なので……」
視線を向けられたベティとメイリアがすかさずフォローする。自分達が誘われていないことを察したのだろう。
「ええ、お二人がそういうのを苦手とされているのは存じ上げております。ですので……」
ここでフローラがミランダの気遣いを察知し、それを受けて二人に目配せをする。二人はすぐに察してくれたらしく、頷きが帰ってくる。
「そうですわね。この二人とのお茶会には、ミランダ様の方をお誘いさせて頂きますわね?」
「(パァアアアア!)楽しみにさせて頂きますわね!」
わぁ、めっちゃ良い笑顔。あれ? 突っ掛かって来てたあの子と同一人物?
(同一人物よ。超素直なのよ、色々と。貴族でそれはどうかと思わなくもないけど、メイリアは好意的に見てるから大丈夫ね。ベティはどっちでも良さそうだけど)
「んー。ねぇミランダ」
「え、あ、はい? 何ですの?」
ベティが突然話しかけると、余り接点がなかったからか、ミランダがキョドる。
「ミリーって呼んで良い?」
「 ! (フリフリ)ええ……是非!」
何故そこまで照れた……。
(ああ、内実ぼっちの人か)
何その言葉。
(友達は居るけど知ってるレベルか表面レベルで、気安い友人とは言えない実はぼっちの人)
なんだ、フローラさんか。
(私、友達居ますけど!?)
中の人ー。
(ごめんなさい!)
ま、そんなこんなでミランダ嬢はフローラを茶会に誘い出すのに成功したのだった。
………
……
…
で、当日。
「本日はお招き頂き……」
「やー、そんな堅っ苦しい言い方無しで行こー」
「え? え?」
「そんな言い方してるのミランダだけなのよー」
「まぁ! 私は何時如何なる時にも高い志を持たんとこうして……」
「ハイハイ、堅苦しいのは良いっての。よろしくねー、フローラさん。あ、フローラ呼びで良かった?」
「ええ、構わないけど……どういうあれなのかなぁって」
「そうねー。説明は要るよねー」
フローラの招かれたのは、男爵家が主に使う小さなサロン。そこに入るなりぶっちゃけモードで迎え入れられた。
「まず、私はエライア・フォーゼット」
「私はーレベッカ・ソーントンだよー」
「そして私がヨセット・バルモンテ。勿論皆男爵家の出よ。学年は違うけどね」
「先輩方だったのですね」
「だからー堅いのーナシナシでー」
「えっと、それでこのお茶会の趣旨は……」
「私達の妹分、ミランダが帰ってきて嬉しいなパーティよ!」
「どんどんぱふぱふー!」
「は、はぁ……」
「もう! お姉様方ったら!」
要約するとこうらしい。ミランダは下級貴族であっても貴族らしくあろうと頑張る真面目さん。しかし見知った者達は上級生であるため、共に行動できるわけではなかった。そこで新しく友達を作ろうとしたのが、あの時一緒に突っかかってきたアンポンタンズ。
(アンポンタンズて……)
おだてられれば木にも登りそうなミランダの性格と相まって、高飛車グループが形成されていったんだそうだ。
そんなグループなもんだから、ミランダを可愛がってるお姉様方はイメージを壊したら駄目だと距離を取っちゃったらしい。それが悪循環を呼んで、ミランダの中心でありつつ孤立したグループが生まれたんだと。
「だからー。ミランダを担ぎ上げて、あわよくば上手い所を吸おー、ヤバければ盾ないし捨て駒にしよーって奴らを蹴散らしてくれたフローラちゃんには感謝しか無いよー」
「ミランダは素直過ぎるからな。まぁそこがカワイイんだが……」
「真面目過ぎて馬鹿正直なのよねー。でもほっとけない可愛さっていうのかな?」
「も、もー! お姉様方! もー!」
ミランダ嬢が恥ずかしさの余り語彙力が崩壊してる。
(……うん、カワイイね)
「ねぇミリー」
「 ! はいっ!」
「「「 !! ミリー!?」」」
「私の友達がミランダをミリーって呼んで良い? って聞いてたので私も倣ってみたんですが」
「ミリー……ミリーかぁ。私達の妹分にも気の置けない友達が出来たんだねぇ」
「ミリー……良いね。ミリー。私達もそう呼ぼう」
「ミリー、ミリー? えへへ、何照れてんだよー」
「も、もー! またそうやって……もー!」
「でね、ミリー。私もミリーのお姉様方みたいにぶっちゃけてて良いのかな?」
「え? 勿論構いませんわよ? どうしてですの?」
「いや、貴族らしくあろうと頑張るミリー相手に、ぶっちゃけモードで相対して良いのかなー? って。失礼に思ったりしない?」
「勿論思いませんわよ。この振る舞いは私自身の矜持であり、人様に押し付けるものでは御座いませんもの。むしろお姉様方やフローラ様方お三方の有り様を、羨ましく思ってすらおりましたわ」
「だからミリーもー、そーゆー喋り方止めちゃえば良いのにー」
「「ねー」」
「もう染み付いて離れないのですわ。今更戻そうとも思いませんし……」
「そうね。ま、私はもうどういう子か分かったから、中身が変わりでもしない限りこのまま付き合っていくけどね」
「(パァアアアア!)フローラ様!」
堕とした?
(人聞き悪いわ。お友達になったのよ。)
堕友達か。
(やめろっつってんだろが!)
………
……
…
とまぁ、フローラ達が割と和やかなお茶会を楽しんでいる頃、男共は殺伐とした集会を開いていたのだった。
「……言い残すことはあるかねバモン君」
「言い残すも何も、何故呼び出された挙句に吊るし上げにあってるのか知りたいんだが……」
「黙れ! このハーレム男!」
「ハーレム男!?」
「ただの乱暴者の調子こきかと思いきや、あっという間に女を侍らせやがって……」
「待て? 待て! 待て!? 何を、どう見たら、そうなる!?」
「男爵家令嬢の中でも指折りの綺麗所を囲っといて言い訳は見苦しいぞ!」
「……お前ら」
バモンの目が座った! 男爵家令息達は身震いしている!
「お前らが言っているだろう令嬢を挙げていこうか? 一人目フローレンシア嬢! ……なるほど、少なからず懸想しているものが居るようだな」
ギリッ! という音でも聞こえてきそうなくらいの嫉妬の目が突き刺さる。フローラも中身はともかく、外身のフローレンシア嬢は見目麗しい……と言うか可憐な見た目だからな。
「……近付かんがためにお前らは何をした?」
バモンを囲む令息達の気炎が揺らぐ。特に何もして来なかったのだろう。
「蹴られる覚悟のある奴は前に出ろ!」
ビクッ! ザザッ!
バモンの問に、前屈みな後退りで答える令息達! 団体行動か! ……虚しい。
「蹴られる覚悟もないくせに俺に突っかかってんじゃねえ! 次! エリザベス嬢! ……意外に多いな」
エリザベスの普段があれなので気付かれないが、静かにしている分にはカワイイ。あれかな? 妹キャラ的な可愛いかな? それとも危ない方のアレかな……。喪女さんが居ないとツッコミが無いから寂しい。
「アレはそもそもが武闘派の主家を持つ、家臣繋がりの幼馴染だ」
「アレ呼ばわり」「アレ……」「気安すぎるぞバモン!」等の罵倒が飛び交うも、バモンが一睨みすると静まる。虚勢も張れないとか弱過ぎないか? こいつら。
「お前らも知っての通り、アレは……戦闘フェチだ。しかも魔法で華麗に戦うより、ガチムチのガチバトル派だ。女子に人気の見目麗しい男性より、厳つい騎士共の方がよっぽど脈がある」
そんな事実を再確認させられた令息達の幾人かが崩れ落ちる。
「俺にもビビる程度のお前らが! 騎士達の練習にも混じれないお前らが! あの戦闘マニアを満足させられるのか!? いや! 無い! 断じてだ!!」
バモンの口撃が令息達にクリーンヒット! 効果は抜群だ!? さっき迄耐えてた奴らも横たわっている! 息はしているか!?
「最後にメイリアだが……」
メイリアの名前を口にしたバモンに、コレまで以上の怨念の篭った視線が向けられる。
「あいつは人の本質を見抜いてしまう。本人の望む望まないに関わらずな……。そんなあいつに避けられてる時点で希望のカケラも見込みも砂ひと粒分も無いと知れ!!」
ズガガーン!
令息達はトドメを刺された!
「この前の夜会でメイリアを踊りに誘いに来た子爵家令息の方が余程貴様らより男気がある! こんな風に俺に八つ当たりする位しか能が無いなら諦めろ! メイリアの気に留まる以前の問題だ!」
ズッドゥーン……!
良いぞーもっとやれー、令息達のHPは0だー。目指せダブル、いやトリプルスコア!
……飽きたな。帰るか。
………
……
…
てことでツッコミじゃないとフローラに存在意義を感じない。
(帰ってきて何いきなり意味不明なことでディスってるの!?)
コレだよコレ。和むなぁ。
(和むな!?)