epilogue:ハルカ、カナタへ
「え?」
動じる俺にふふってルカは笑みをこぼす。
「ルカ、だよな?」
「後藤 悠《はるか》です」
手を差し出してきたルカの手を俺はぎゅっと握った。心地よいあたたかさがつながった手から伝わってくる。
「なあ、これってどうなってんだ。俺たち、戻れたってことでいいのか」
「その通り。私たちは二人ともちゃんと戻ってきたの。感謝してね、私のおかげなんだから」
「叶う願いはひとつだけって」
目をぱちくりさせる俺に、ルカこと悠は俯きながら苦笑する。
「ああいう展開になったらお人好しの君は必ず私を送り帰すなんてお見通しだったってこと。君を酔い倒した時に願いは先に叶えさせてもらったの。願いが二つ叶うようにって。宝玉には変更した内容を口外しないように釘さされてて言えなかったんけどね」
「頭が良いね、相変わらず」
「呆れるほど……お人好しなんだから、君は」
涙ぐむ悠を、無意識のうちに俺は抱きしめていた。
「俺が先に帰る薄情者だったらどうする気だったんだよ」
「どうしたん……だろうね。私が譲ったんだからそりゃそうだよねって開きなおって、でも、悔しいから願いは放棄して向こうに残ったかも」
服に染みる思いの雫に俺は確信を持った。向こうで出会ってから今日まで、ずっと、ずっとこの優しさを毎日一番そばで受け取っていて、支えてもらっていたんだ。
「君を絶対、騙せたつもりだった」
悠が強く抱きしめてきたとき、ポケットに突っ込んだ大切な存在を思い出してすっと俺は取り出した。渡すべき相手の悠はケースを見るなり「それ、開けてみて」と悪戯な笑みを見せる。
片方にはH、もう片方にはKのイニシャルが刻まれている。
意表を突かれた俺は完全に言葉を失った。
「自信あったよ。きみは絶対騙される。って」