はじまり
彼女は、わたしを守って命を落としてしまった。
わたしは、いつも彼女にフローラに守られるだけの非力な少女だった。
今度は、わたしがフローラを最愛の彼女を守るのだと思っていたのに、そんな機会など訪れる事なく彼女はわたしの為に命を……。
後悔してもしきれない。
彼女のいない世界に、なんの未練もなかった。
もう死んでしまいたかった。
いっそ死んで、彼女の側に行きたかった。
わたしは、小高い丘の頂上まで来ると死のうと思い身を投げようとした。
「彼女に会いたくない?」
その言葉に、今にも身を投げようとしていたわたしは間一髪で、何とか踏み止まる。
声のした方を振り向くと、そこには多分二十歳前後と思われる女性が、怪しげな微笑みを讃えながらわたしを見つめていた。
「彼女に、フローラに会えるの?」
わたしは、目の前の女性にフローラに本当に会えるのかと、どうすれば会えるの? と藁にも縋る思いで彼女に縋り付きながら聞く。
彼女は、そんなわたしの行動を意に介さずに穏やかな口調で話し始める。
「貴女が魔女になって、あやかしを退治すればいいのよ。そうすれば」
魔女になって、あやかしを退治する?
わたしには、彼女の言っている意味がいまいち理解出来なかった。
魔女については、物語で読んだ事があるので何となくわかるが、あやかしとは?
フローラの命を奪った獣の事だろうか? わたしが悩んでいると、彼女はあやかしとは人の醜い心によってこの世に生まれる、人ならざる存在だと答える。
人ならざる存在?
「どうする? そう言えば自己紹介してなかったわね」
彼女は、今更ながらにソフィーと名乗り自分も魔女であると、魔女として色々な世界を回ってはあやかし退治をしているが、圧倒的に魔女が足りないのだと、だから新しく魔女になる女の子を探していたと答える。
「魔女になったら、本当にフローラに会えるの?」
「勿論よ。ただあなたの知ってる彼女ではないわね」
どう言う事? と聞くわたしにソフィーは、フローラは一度死んでしまったので、違う世界に違う人間として転生している。
だから、元のフローラのままではないと、それでも魂はフローラである事には変わりないし、可能性は低いがフローラだった時の記憶を持っている可能性もある。
それについては、断言は出来ないが、それでもいいのであれば、魔女になってあやかし退治を約束するのなら世界を旅する力を授けると言う。
アイシアは悩む。
魔女になる事は怖くはない。
ただ、泣き虫で臆病でいつもフローラに守られていた自分が、果たしてあやかしなるものと戦う事が出来るのであろうか、例え人の醜い心が生み出した邪悪なる存在であっても、本当にわたしに殺す事が出来るのかと。
「無理にとは言わないわ。ただ、チャンスは今回だけだし、わたし以外の魔女には無理だし」
ソフィーは、自分以外の魔女に誰かを魔女にする力も世界を旅する力を与える事は不可能だと、そして自分がこの世界に来る事は二度とないと断言する。
アイシアの心は決まった。
例え、とんなに過酷な運命が待っていても、もう一度最愛のフローラに会えるのなら、例え姿が自分の知ってるフローラじゃなくても、フローラの魂を宿しているのなら構わなかった。
「なら、早速儀式を始めましょう」
わたしは、こうしてあやかしを退治する魔女になったのだ。
ソフィーの微笑みに気付く事なく、わたしはソフィーに言われた通りに魔女として、あやかし退治をする旅を始めた。