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1話 暗闇の狙撃手

 左利きのガンウーマンは警視庁の射撃訓練場で、的を見据えながら仁王立ちしていた。
 鋭い眼光。凛々しい横顔。普段のユリとはまるで違う、その姿。
 ユリはゆっくりと両腕を上げる。両手に握った銃はベレッタM92。
 何発もの銃声が続け様に鳴り響いた。銃声が鳴り止んで静寂が訪れる。
 ユリは真っ直ぐに伸ばしていた両腕を曲げて、二丁のベレッタを口元へ近づける。
 息を吹きかけて硝煙を消してから、人差し指で回す。
 三回転させた後で腰に装着した左右のガンホルダーに収めた。
「速いわね」
「さすがはユリ君だね」
 電光石火の二丁拳銃早撃ちを目の辺りにして、マリも海堂警部も惜しみない賛辞を送る。
 僕は大口を開けたまま、左利きのガンウーマンの腕前に度肝を抜かれていた。
「ユリ君なら暗闇の狙撃手と撃ち合っても勝てるかもしれないね」
「暗闇の狙撃手って、あのガンマンですか?」
「おや? 知ってるのかい?」
「はい。噂なら聞いたことはありますよ」
「おっちゃん、その暗闇の狙撃手って何者なの?」
「殺し屋だよ。彼が関与していると見られる射殺事件が幾つかあるのだけどね。いずれも決定的な証拠が無くて、逮捕には至ってないんだ。愛銃がグロッグ26アドバンスということ以外は全てが謎に包まれていてね。しかも、未だその素顔を見た者はいないんだよ」
「へえ、そんなやつ、本当にいるのね」
 マリは半信半疑の様子で頭の後ろで両手を組む。
 殺し屋か。まるで漫画のような話だ。
 この世界はどうなっているのだろう。大丈夫なのかな。
「おおっ、本当だ」
「本物ですね」
 背後から聞こえた声に振り返ると、二人の男が歩いていた。
 右側の男は長身で屈強な体格だ。
 それとは対称的に、左側の男は細身で優男ふうだ。
「二人ともどうしたんだい? 何か事件かい?」
「いえ、あの双子の名探偵が来てるって小耳に挟んだものでね」
「それで、是非お目にかかりたいと思って来たんですよ」
「あら、あたし達に会いに来てくれたの?」
満更でも無さそうに、マリは歓迎の笑みで二人を見上げる。
「ええ、噂はかねがね伺ってますよ」
「警部がよく貴女達の話を聞かせてくださるんですよ」
「おっと、自己紹介が遅れたな。俺は大島ゴロウ。よろしく」
「僕は小田ジュンペイといいます」
右側の長身で屈強な体格の人が大島刑事。左側の細身の人が小田刑事らしい。
「射撃訓練をやってたんですか?」
「そういえば、さっき音が聞こえましたね」
「そうよ。ユリが二丁拳銃で撃ちまくってた所よ」
マリは左右の腕を伸ばして人差し指で銃を作る。
「おおっ、それは見たかったな」
「ユリさんは左利きのガンウーマンなんですよね」
何と僕の考えた通り名まで知れ渡っているとは。嬉しいというよりも恥ずかしい。
「二人は銃の腕前はどうなの?」
「いや、そんな得意ではないよ」
「僕も上手くはないですよ」
「でも、犯人を追ってて撃ったことくらいあるわよね?」
 マリが質問を投げかけた瞬間、何故か二人の顔色が急変した。
 遺体でも見たかのように、酷く強張った顔をしている。
「いや、まあそれはあるけどな……」
「できれば撃ちたくないですよね……」
「じゃあ、俺達はそろそろ退散するよ」
「お邪魔しました」
大島刑事と小田刑事は逃げるようにして、足早に立ち去っていった。
二人の後ろ姿が扉の向こうへ消えた頃、マリが不思議そうな顔で海堂警部を見上げた。
「おっちゃん、あたし、なんかまずいこと聞いた?」
「いや、別にそんなことは無いと思うけどね」
海堂警部は珍しく言葉を濁しながら、苦笑で顔を歪めていた。
 どうしたんだろう? 
 マリの質問は、そんなにまずい内容だったのかな?

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