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教暦8年年末大夜会(テオドール記)

 大夜会の会場へはエルリック夫妻、フィル夫妻の入場の後、私が入場、その後にヨハン夫妻の入場した。会場の奥にあるひな壇。中央のやや左奥にエルリック夫妻、中央のやや右奥にフィル夫妻が並んで立っている。そして、私は中央の前方のやや右側に立った。最後に入場したヨハン夫妻は私の左側、ひな壇の中央の前方に着くと、ホールに居並び、お辞儀をしている帝国貴族、教国の高位聖職者の方へ体を向けた。ちなみにヨハンのご両親は隠居の身だが一代限りのゴヴァン大公夫妻として、エルリックのご両親はミリトール侯爵夫妻――後数年でエルリックの弟に侯爵の地位を譲るらしい――として、フィルのご両親はジュストス侯爵夫妻――後数年でフィルの弟に侯爵の地位を譲るらしい――としてホールの最前列にいる。

 ヨハンはホールにいる者たち全員を見回して、口を開いた。

(おもて)を上げよ! ここにいる(みな)のものよ! 私ヨハン・ルービン・ゴヴァン・グーレオローリスが後ろにいる将軍エルリック、宰相フィルとともに帝国を興し、横にいるテオドール教皇猊下のための教国を興してより8年経った。この8年、幾多の戦を起こし、その全てに勝ってきた。幾多の災害も乗り越えてきた。今年も3つの国と戦い勝利を成し遂げ、火山災害、水害という困難もなんとか乗り越えることができた。まず、そのことに対する感謝と、今年亡くなられた帝国の者、教国の者の御魂(みたま)が星の最高神グーレオローリス様の御許(みもと)で安らかなることを祈りたい。テオドール教皇猊下、黙祷の音頭をとってもらえるな?」
「ヨハン皇帝陛下、承りましょう。敬愛なるグーレオローリス様よ。我々は神聖グーレオローリス帝国の民、神聖グーレオローリス教国の民が今年もグーレオローリス様がお与え下さった試練を乗り越えられたことに対する感謝の祈りを捧げます。我々は今年亡くなられた神聖グーレオローリス帝国の者の御魂(みたま)、神聖グーレオローリス教国の者の御魂(みたま)がグーレオローリス様の御許(みもと)で安らかならんことをお祈り申し上げます。(みな)の者、黙祷!」
 まずはヨハンの奏上により、私が音頭をとり、グーレオローリス様への黙祷を捧げた。

「黙祷、やめ! グーレオローリス様は常に見守って下さっております。ここにいる全ての者の祈りは届いております。では、テオドール皇帝陛下、続きをどうぞ」
「ありがとう、テオドール教皇猊下。さて、この中には戦で私たちに苦杯を味わわされた者もいただろう。しかし、私たちが地を治めることでよりよい生活を送ることができたのも事実ではないか? 貧しき生活から抜け出せた者も多いと聞く。もっとも、それでもなお救いきれていない民もいる。まだ救われていない民のために何ができるかを私は考えた。エルリックやフィルとも相談した。内政にも尽力してきたが戦続きだったためにまだ足りない部分も多い。まあ、それでも十分な国力を得た今、我が帝国に歯向かう国はいないだろう。そこで年が明けてよりは戦を控え、内政および軍備の再編成に全力をつくすことをここにいる(みな)の者に誓う。建国8年経ったということはあと2年で建国10年だな?」
 私が黙祷をやめさせると、話をヨハンに譲った。ヨハンは密会で話したとおり、年明けより内政および軍備の再編成に注力することを宣言した。宣言したところであと2年で建国10年だということをヨハンはさも面白げに話した。ちらっと横目にみたらニヤッっとしながらだ。ヨハンは昔っから重大発表する前には、さも面白げにタメを作ってからそれをやってくる。ホールにいる者の中で内々に聞いていた者はニヤニヤしているし、気づいた者は期待する表情をヨハンに向け始めた。

「皆の者! 聞くが良い! 神聖グーレオローリス教暦11年1月1日の晴れの日に神聖グーレオローリス教国、神聖グーレオローリス帝国合同で帝城前の大広場で建国10周年慶賀式典を開催することを宣言する! それに向けて、より一層教国、帝国共々発展させようではないか!」
「「おおおっ!」」「「わああああ」」
 ヨハンが建国10周年慶賀式典を行うことを宣言すると会場は一気に熱狂する。

「まあ、そんなわけで2年後の年末の夜会は行わないからな? そこのところ、よぉく覚えておきたまえ。さて、それにむけての事業も年明けから始まるわけだが、もう1つ教国主導で事業を興すことになる。今日の昼に、聖地ミケレーネから光がみえたことは皆の者も知ってのとおりだ。ということで一旦、教国のテオドール・ミハイル・アーイー・イーア・グーレオローリス教皇猊下に挨拶をしてもらおう」
 ヨハンが挨拶の場を譲ってきた。まあ、事が事だけに例年どおりとはいかないからな。私も軽く咳払いをして、居ずまいを正す。

「改めまして、神聖グーレオローリス帝国皇帝ヨハン・ルービン・ゴヴァン・グーレオローリス陛下よりご紹介にあずかりました神聖グーレオローリス教国教皇テオドール・ミハイル・アーイー・イーア・グーレオローリスにございます。先程も黙祷の際に言いましたとおり、本年も最高神グーレオローリス様より与えられた数々の試練を乗り越えることができました。そして、こうして皆様とともにこの夜会を迎えられることを喜ばしく思います。さて、私は昼に例年よりも早い時間に今年最後のグーレオローリス様への感謝の祈祷を捧げておりました。祈りを捧げ終えましたところ、グーレオローリス様は私の目の前に顕現なさってくださいました」
「「なんと……」」「「あら、そういうことでしたのね」」「「ほぅ」」
 挨拶のはじめは例年通り。ただ、今年はグーレオローリス様の顕現の話を切り出す。やはり、グーレオローリス様の顕現の話をすると会場がざわめいた。そうなることは予想していたがね。

「グーレオローリス様は私、ヨハン皇帝陛下、エルリック将軍閣下、フィル宰相閣下のこれまでの働きをお褒めくださいました。『よくぞここまで頑張られた』と。しかし、これはここにいる皆様、そして教国の民、帝国の民の頑張りもあってのことです。また、本年は大神殿が建立しました。私の亡き父母(ちちはは)も大神殿の地下霊廟にて安らかに眠っております。皆様の頑張りと寄進にこの場を借りて私からも感謝の意を示したいと思います。ありがとうございます」
 グーレオローリス様は代表して私達を褒めてくださったが、会場にいる皆や民たちのおかげもある。だからこそ、私は会場にいる皆に向け頭を下げ感謝の意を示した。

「グーレオローリス様はいつも私達を見守ってくださります。皆様も是非是非そのことを頭の中に入れて来年もまた生きてくださることを願っております。さて、この8年、私は教国、帝国の全土をまわり、グーレオローリス様の教えを広げてまいりました。その際には原初の神アーイーア様、宇宙をお創りになさった宇宙神イーアス様があって、この星の最高神グーレオローリス様がいるということも私が話したことを皆様もご存知かと思います。しかし、その原初の神アーイーア様、宇宙神イーアス様がどのような神なのかということはあまり知られていないことかと思います。恥ずかしながら私めもあまり知識がございません。本日のグーレオローリス様のご顕現は建国10年の慶賀に合わせ『アーイーア様、イーアス様を(たた)える書を書き起こせ』との使命を私にお与えになりました。年明けより原初の神アーイーア様が私の祈祷の間に顕現なされ、対談することとなっております。私はこの使命を必ずや成し遂げる所存です。つきましては年明けより最低限の祭事を取り仕切る以外は大神殿にこもらせていただくことになります。皆様、ご安心くださいませ。ここにいる筆頭枢機卿のサイラスを始めとした教国の高位聖職者が私の代わりに全国を回って教えを広めてくださります。グーレオローリス様はいつも見守ってくださります。そんなわけで話のキリもよくなりましたので、私からの挨拶はこれまでとさせていただきます。最後に皆様ご唱和くださいませ。『至高にして原初なる神アーイーア様に光あれ。宇宙神イーアス様に光あれ。星の最高神グーレオローリス様に光あれ』」
「「「「「至高にして原初なる神アーイーア様に光あれ。宇宙神イーアス様に光あれ。星の最高神グーレオローリス様に光あれ」」」」」
 私は神託の内容を明かし、年明けてからの動きを宣言した。そして、挨拶の終わりは教団のスローガンの唱和で締めさせていただいた。

「テオドール教皇猊下、ありがとう。改めて私からもこの8年の皆の者の働きに敬意を表し、頭を下げよう。皆、ありがとう」
 ヨハンはやはり人を()き付ける。頭を下げる動作一つとっても美しく、皆、ヨハンのために働こうという気概にさせられる。

「というわけでだ。テオドール教皇猊下の話があったとおり、教国主導で出版事業も年明けより進められることになるからな。色々いそがしくなるからな。心してかかれよ? それと内々にもう1つ事業を進めるが、それは来年の秋の夜会で話すからお預けだ。まあ、今年は美味しいところはほとんどテオドール教皇猊下に取られたからな。話すこともだいぶ無くなってきたわけだ。とりあえず、ついでに話すことといえば、今日はここにいないが我が息子レキウス・ヨハン・ゴヴァンも今年10歳を迎えてな、明日の年始の慶賀で国民に初めてレキウスが挨拶をするんだ。だから、今日は楽しんでもいいが二日酔いで出られないということは避けてくれたまえ。出られなかったから罪に問うってことはないが印象は悪くなるし、父親としても我が子の初々しい姿を見られなかった者もいると聞いたら悲しいから頼んだぞ? さあ、夜会を始めようではないか。楽しく夜を過ごそうではないか」
 こうして、ヨハンの挨拶を終え、楽団が演奏をゆっくりと開始する。それに合わせ、ヨハン夫妻がダンスホールに降り立ち、圧巻の踊りを魅せる。ヨハン夫妻は息も合っているので、皆みとれてしまうのだ。

 1曲目が終わり大拍手が沸き起こった。そして、2曲めが始まれば、エルリック夫妻、フィル夫妻もダンスホールに降り立ち、他の参加者も踊り始めた。私はこっそりダンスホールに降り立ち、壁の花になっている参加者たちを回りながら話をしていった。

 大夜会は年が明けたことを告げる鐘の音がなるまで続けられたのだった。

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 ・神聖グーレオローリス暦9年1月1日朝 教国8年の振り返りの内容、追記。

(以後、翌日に記した教暦8年の振り返りの内容のため、割愛する)

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