巻頭に寄せて
この星最大の大陸の中心にある
――我、この星の最高神グーレオローリスなり。幾多のこの星の滅び、再生を経た今。汝、我グーレオローリスを旗印とし、辺り一帯の民を糾合せよ! 連帯せよ! 連帯がなされし時は民とともに我を崇め、我より高みの存在たる宇宙神イーアス様、そして至高にして原初たる神アーイーア様の威光を世に伝えよ!
この時の私は齢6。文字も知らぬ右も左もわからぬ男であった。そして、それ故に純真であった。私は生まれ育った生家を離れ町に出ることを決意した。
自給自足の日々を過ごしていた我が家。路銀となるものは露ほどすら残っていなかったのだ。それでも形見となりそうなものは全て背負い袋に入れ、生家に火を着けた。もう戻ることのないであろう我が家が全て燃え落ちるのを見届け、亡き
川沿いを歩きながら喉の渇きを潤し、形見のナイフで弱き魚や弱き獣を殺しては食し、時には地に生えた草や地に落ちた腐りかけの木の実を食べては飢えをしのぐ有様であった。それでも生命をいただくときにはアーイーア様、イーアス様、グーレオローリス様、亡き父母、私の血肉となるべくして生まれた生命に感謝の祈りを捧げた。
そうこうして町にたどり着いたのは生まれし家を出てから10の夜を重ねた日の夜のことであった。
私が目にしたのは寒い夜の中も見張りのために町の門に立つ人の姿。ひさしぶりに見る私以外の人間の姿を見つけると、
門番は涙を流しながら近づいてくる幼き私を見て不審に思ったそうだ。私は父母の形見を見せながら神託のあったことを隠しつつも事情を話した。この町にはエバンズという名があり、驚いたことにエバンズの門番と亡き父母は旧知の関係であったようだ。エバンズの門番は、門番が信頼を置いているエバンズの町長に私を紹介し、養育を託した。
以来、幾星霜。よき義家族に見守られ、よき義兄弟、よき友と共に笑い、怒り、泣き、楽しみを分かち合ったのはいい思い出だ。
知勇に長け仲間を引きつける魅力をもった義兄弟ヨハン、義に厚く武勇で並ぶものなしと目された親友エルリック、秩序を尊び智に通じた親友フィル、そして私達に賛同する人々と共に辺り一帯を治めることになったのは今より10年も前のこと。
そう。グーレオローリス様の思し召しの一つを達成したのだ。それは齢25の頃であった。
私は齢18の頃にヨハン、エルリック、フィルにこう伝えたことがある。
「いつか国を興すことができたなら、国の統治をヨハンに任せ、エルリック、フィルがヨハンを支えてほしい。私はグーレオローリス様の教えを更に広げる立場になりたい」
それに対し、ヨハンはこう言ってくれた。
「ならば、お前が生まれたところにでっかい家建ててやるよ。そして、お前の父さん母さんの墓も立派にしてやるよ。ってか、お前の生まれたところからこの町のちょっと手前までを小さい国にしてよ、お前の国にしてやる。そして、俺たち3人の国はお前の国を守るようにするんだ。それなら安心だろ?」
私テオドールの生家だった地は聖地ミケレーネと名付けられ、聖地ミケレーネを中心とし、この神聖グーレオローリス教国は興された。そして、私テオドールが生家を出てから初めてたどり着き、ヨハン、エルリック、フィルと共に過ごした町エバンズは帝都グーレオローリオと名を改められ、帝都グーレオローリオを中心として神聖グーレオローリス帝国は興された。
聖地には私やグーレオローリス教の聖職者たちが住まい、神々を
この10年で帝都は大きく整備され、町並みは姿を変えた。帝都の聖地ミケレーネ側の端に帝城も新たに造られた。それでも帝都に住まう人々の笑顔は変わらない。ヨハンの実のご両親でもある私の義父母は帝城の離れに、エルリック、フィルのご両親も帝城のすぐ近くにある貴族街にできた大きな屋敷に住まいを移し、穏やかな余生を過ごされている。この間、久しぶりにお会いしたときも、やや老いたとはいえ快活に笑う姿を見せていただき私も感慨に浸ったものである。
神聖グーレオローリス教国、神聖グーレオローリス帝国が興されて10年。今、教国、帝国はますます栄えている。
これもヨハン・ルービン・ゴヴァン・グーレオローリス皇帝陛下をはじめとして、将軍エルリック・ブラント・ムースレ・グーレオローリス公爵閣下、宰相フィル・レクトー・ウィドム・グーレオローリス公爵閣下、教国および帝国の剣であり盾である騎士団の者たち、帝国の天秤であり
国教たる神聖グーレオローリス教の教皇テオドール・ミハイル・アーイー・イーア・グーレオローリスとして、祭事を執り仕切り、教えを説くために国中を巡る日々をかれこれ8年過ごした。そして、この2年は祭事を執り仕切る以外は大神殿にある教皇専用の祈祷の間にこもり、アーイーア様、イーアス様が起こした過去の奇跡の
教国、帝国が建国されて10年のめでたき日に、この書を我が親愛なる義兄弟たる皇帝陛下に初めて献上することができる喜びを私はひしひしと感じている。
至高にして原初たる神アーイーア様、
ヨハン皇帝陛下がお読みくださったこの書は、この後しばらくしない内に教国の聖職者たち、帝国に仕える者たちの手に渡ることになっている。この書の完成をきっかけとして、教国の聖職者になるためにはこの書を読むことを義務付ける法律もできた。
いずれはこの星の至るところにいる聖職者を志す者たち、神の叡智を知りたいと思う者たちの手にも渡ることであろう。
ヨハン皇帝陛下がお読みくださったこの書を後に手にした諸君に私は伝えたい。
神々を正しく
神々が常に我々を救ってくださると
神々は偉大なり。神々は偉大なる故に我々を滅ぼすことすらもたやすいのだ。
神々に感謝の祈りを捧げよ。神々に決意の祈りを捧げよ。神々は私たちを常に見ている。
至高にして原初なる神アーイーア様に光あれ。宇宙神イーアス様に光あれ。星の最高神グーレオローリス様に光あれ。
神聖グーレオローリス教国建国10周年を慶賀し、この書を
神聖グーレオローリス暦11年1月1日(イーアス第1宇宙暦14132732915年) 教皇テオドール・ミハイル・アーイー・イーア・グーレオローリス