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引越しの日

新しい新居はbrushupから電車で4駅程離れてしまった。

駅からも少し距離があるが、brushupの近辺のような街中とは違って閑静な住宅街にあるマンションだ。

「日向はもう部屋に着いてるって」
鷹弥とカケル、アキの3人は、カケルの車で少し残った鷹弥の荷物を運び新しいマンションの前に車を停めて荷物を運ぶ。

「brushupから少し離れちゃったな」
少し寂しそうに鷹弥が言うと

「結婚して住むならこういうところがいいだろ」
とカケルが言った。

「何階?」
とアキはワクワクしてるのが見てわかる。

部屋に入ると
「わー!!すっごいオシャレ!!」
アキが声を上げる。

少し古い小さなマンションで、下の階は単身者用もある。上方の階は1フロアに1戸で部屋一つ一つが広めの作りになっていることが鷹弥は気に入っていた。

リノベーションされていて、中も今どきのオシャレな空間だ。

「いらっしゃい」

リビングから日向が顔を出す。

「ひな、素敵なところだね♡」
アキが部屋を見回しながら
「…ほとんど…片付いてない??」
と言った。

日向は笑いながら
「そうなの。家具とか…新しいのは前もって入れてたし私も鷹弥も荷物少なくて。むしろ足りない物が多いから買い物に行きたいかな」
と言った。

するとアキは
「よし!んじゃぁ姫と王子の買い出しの付き添いだー!」

「だから何でアキが一番はしゃいでんだよ」
とカケルが呆れながら言うと

「だって…なんか嬉しくない?」
と満面の笑みで言う。

日向と鷹弥は顔を見合わせて幸せそうに笑い、カケルはアキの頭に手をポンとおいてアキに微笑んだ。

それから4人は、日用品やら食器やら…足りない物を買い出してカケルの車から運ぶ。

鷹弥の仕事部屋でカケルと二人、荷物を整理する。

「鷹弥…本当に良かったな。」
とカケルは鷹弥に声をかけた。
鷹弥は手を止めてカケルを見た。
「静奈さんの事も…お前あんなに苦しんでたのに…。歯車が合うとこんなにも綺麗に全てのことが上手くいくんだな」
と感慨深げに言った。

「お前には本当感謝してるよ。静奈の事も日向の事も…カケルがいなかったら絶対この『今』はなかったと思う。」
鷹弥はそう言って

「カケル、俺はお前のこういう『未来』もみたいよ」

と言った。

カケルは笑って誤魔化した。


キッチンでは日向とアキが買ってきた食器などを洗って片付けていた。

「最近の王子、ホント柔らかくなったよねー」
とアキが言う。

「鷹弥はきっと元々優しくてこういう人なんだけど、人付き合いが少し苦手なだけなんだと思う。アキちゃんもだし、最近はみんなも鷹弥に絡んで来るから見てて楽しくて」
と日向は嬉しそうに笑う。

「ひなも…すごく幸せそうに笑うようになったよ」
とアキに言われて、鷹弥の変化は自分も同じなんだと気付いた日向だった。

日が暮れて、4人は早めにピザを取って食べた。

「カケルちゃん、仕事はいいの?」
日向が聞くと
「今日はスタッフに任せてきたよ。日曜の晩だし、明日BBQだからいつものメンバーは来ないだろうし…多分ヒマ。」
とカケルが言うと

「アキちゃんも仕事休んで来てくれてありがとね」
と日向が言った。

「私予約なかったからすんなり休めちゃった」
と舌を出す。

「明日…あれから初めて茜ちゃんに会うんだよね?ひな、大丈夫?」
とアキは言いにくい事を口にした。
でもそれは鷹弥もカケルも心配していたことだった。

日向は少し間があって

「…やっぱり緊張はする。でも今は…みんなが幸せに向かって選んだ道を歩いてるから。だから大丈夫だと思う。」

と強い表情で綺麗な笑顔を見せた。

その日向の言葉に全員が安心した。

「で、二人は?式とか諸々、決めてるの?」
とアキが突っ込んで聞く。

「じつはまだ具体的には何も決まってなくって…これから…かな」
日向は鷹弥を見て恥ずかしそうに笑う。
それに鷹弥も優しく微笑み返す。

「はぁー…結婚か!いいなっ」
アキは心の声がモレたように呟く。

するとカケルが突然

「んじゃ、俺らもするか。結婚。」

とアキに向かって言った。

アキは言葉をなくして呆然とする。
鷹弥は口を開けたまま持っていたピザを手から落とし
日向もあっけに取られた顔でカケルを見る。

カケルはアキを見たまま

「俺、客に手を出すならそれくらいの覚悟がいるんだけど。」

と言う。

まだアキは呆然としていて日向がアキを見て声を掛けようとするとアキは少し俯いて

「覚悟…」
と呟いた直後キッと顔を上げて

「やってやろうじゃない!結婚でもなんでも!コッチはあんたにフラれたら一生一人でいるくらいの覚悟してたっつーの!!」

と勢い任せにカケルに言った。

カケルは爆笑して
「それは頼もしいな」と言った。

展開についていけない鷹弥と日向。

「お前…そんなん俺もびっくりだわ」
と鷹弥が呆れてカケルに言うと

「そう?鷹弥とひなみたいに似たもの同士で惹かれあって、言葉にしなくてもわかりあえるのもいいと思うけど…」

とカケルは言いながらアキを見て

「変化球ばっか投げる俺にはいつも素直な直球で返すアキが合ってるとずっと思ってたよ」

と優しく笑いながら言うとアキは号泣した。

「アキちゃん…良かったね」
日向も少し涙ぐんで言うとアキは一層泣いた。カケルが横から頭を撫でると、子供のようにぎゅーっとカケルに抱きついた。

「カケル…俺らの新居で先に思い出作ってんじゃねーよ!」
と鷹弥が言うとまたみんなで笑った。

日向はカケルの言葉を考えていた。
brushupでも日向と鷹弥、カケル3人で話をするのはすごく落ち着いて安心する空間だった。
でもそこにアキが入ると明るい光が灯るような、暖かい気持ちになる。

カケルが言った言葉が日向の心の中にもすんなり入ってきて、アキの気持ちが報われた事が嬉しかった。

本当に幸せな夜だった。

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