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日向にできること

時間は深夜2時半を回っていた。

鷹弥はやっぱり日向には全部は知って欲しくなくて、カケルもそれは理解していた。

だから話がどうも上手く進まない。

カケルは言葉を選んで上手く日向に話してくれるけど、守りたいのにいつも上手くできない自分に鷹弥は苛立っていた。

「ひな、とりあえず今日は鷹弥のとこに行ってくれる?こんな状況で鷹弥も俺もひなを一人にはできないから。これからの事は鷹弥ともよく話して、俺も聞くから。」

カケルが言うと
日向はコクン、と頷いた。

brushupを出て、鷹弥は日向の手を引いて家に向かった。
カケルが言ってくれたおかげで日向が素直に家に来ると言ってくれて助かった。

これから何が起きる?どうしたらいいんだ…

あの時カケルが濁した言葉は、カケルもきっと日向に聞かせてはいけないと判断した事だ。でも日向を守るために俺は聞くべきなんじゃないのか?

鷹弥はいてもたってもいられなくなった。

「ココ?」
日向が言葉を発して鷹弥は我に返った。
考えながらずっと黙って歩いてしまっていたことに気づいた。

「そう、ここ。」
鷹弥は鍵を開けて日向を部屋に入れる。

「わぁ…すんごいオシャレ。」
日向が言う。

「デザイナーズマンションだからな。見た目はいいだろ。なんもないけどな。」
笑ったつもりだけどちゃんと笑えてるだろうか。

しまった。考え事しながら帰って来たせいで飲み物も何もない。
鷹弥はそう思うと

「日向、家になんもなかったから下のコンビニ行ってくる。その間シャワー使っていいから。あがったらこれ着て。それから絶対ここにいて。」
着替えを渡して言い聞かせるように日向に言って、コンビニに出た。

鷹弥はカケルが濁した内容がどうしても気になってカケルに電話した。

部屋に残された日向もまた、鷹弥と同じような事を考えていた。

自分が当事者なのに知らない事、わかってない事から鷹弥やカケルに守られてばかりで…しかも守られてる事にも気付かず、自分では何も出来ない事に苛立っていた。

そしてカケルの言葉を阻む鷹弥の態度や、少し言葉を濁して話すカケルの態度に、日向はまだ自分がわかっていない事がある事に気付いていた。

ぼーっと鷹弥の部屋の壁の絵を見つめる。
(綺麗な絵…)
日向はぼんやりとそう思った。

そして…
日向は気持ちを決めると顔付きを変えて
スマホの電源を恐る恐る入れた。
さっきの着信は本当に全部圭輔からだった。ゾクッとした。

するとまた着信が鳴った…。

スマホの画面は『圭輔さん』。

日向は電話に出た。

『…ひな…?』
弱々しい圭輔さんの声。
「はぃ…」恐る恐る返事した。

『やっと繋がった…ひな、いつ帰ってくるの…?』

(もしかして…)
日向は圭輔が自分の家にいることに気付いた。
(怖い…でも…この人が求めてるのは私なのに守られて逃げてばっかりで解決するの?)

「…そこに…いてくれますか?」
日向は恐る恐る言ってしまった。

『待ってる…』
圭輔はそう言って電話を切った。

それからちょっと待っても着信はなかった。さっきは電源を入れてすぐかかってきたという事は、ひたすらかけ続けてたということだ。

(私が話したら、電話は止まった。
なら…やっぱり私がちゃんと話をしないと解決しないんじゃ…)

日向は鷹弥の部屋を飛び出して鷹弥がいるコンビニと逆方向の大通りに出てタクシーに乗り込んだ。


鷹弥はコンビニの前でカケルに電話すると
『かけてくると思ったよ』
とカケルが言った。

鷹弥はやっぱりコイツは最高の友達だと思った。

『ひな、大丈夫か?』

「今シャワー浴びてるよ」
鷹弥は答えた。

『普通ならヤラシイ雰囲気なのにな』
カケルの冗談もいつもよりキレが悪い。
『俺が濁した話の事だろ?』とすぐに言った。

「うん、俺知っといた方がいいんじゃないかと思って」

『俺も鷹弥には言いたかったけど、ひなには言えなかったんだ』

「うん」

『茜ちゃんが結婚の経緯話してたからお前も時系列だいたい頭にあるよな?』

「あぁ。ビックリしたとこもあるし」

『だよな。結論から言うと、圭輔は知らなかったんだよ。茜ちゃんが気付いてること。でも茜ちゃんは気付いてて、1番自分にとってベストなタイミングで結婚話持ちかけたんだ。多分圭輔が逃げられないように外堀埋めたあとで。まぁ、そこまでは薄々考えてた事がその通りだったって訳なんだけど。』

「うん…」

『でもこれが…1番最悪なタイミングで圭輔がそれに気づいたんだよ。』

「え…?」

『お前がひなをさらった直後だよ。茜ちゃんももうバレてもいいくらいに思ったんだろうな。そんな感じだっただろ?あのやり方…まぁ…あの時あの場で圭輔の態度でひなの事を知った茜ちゃんの心情も相当なもんだとは思うんだけど。あんなのひなだけじゃなくて圭輔も辛いんだから。』

「ちょっと待てよ…じゃぁ…」

『うん。きっと結婚が決まってからは圭輔はひなに連絡してないよ。茜ちゃんを選ぶしかなかった圭輔はこれ以上ひなを巻き込まない道を選んだ。
お前がひなを追いかけた日、結婚の事ひな自身あの時知ったようだったからなんとなくそれも考えてたんだけど…
ひなに圭輔とはいつから連絡を断ったのか確認できたら話はもっと繋がるかもしれない』

『予想でしかないけど…タイミングは多分あのビンタ事件の直後くらいで、あのあと圭輔はひなと話すタイミングがあったかどうかはわかんない。ひなも店に来なかったしな。もしそのタイミングで意図的に結婚て手段で引き裂かれた事を知ったら…だから今回の引き金はお前だけじゃないって言ったんだよ。むしろ、そっちの方がデカいだろ。お前とひなが出てったあと、圭輔がすごい顔で茜ちゃんを睨んで、茜ちゃんは気付いてるのに一切圭輔を見なかったんだよ。』

「…それで日向への気持ちがまた暴走してんのか…やっぱり今日は日向が来るのを止めるべきだったな…」

鷹弥が頭を抱えて悔しそうに言うと

「今更そんな事言っても仕方ないだろ。ひなにこの話はできないんだから、ひなの覚悟を止める手段なんてなかったよ。そもそも俺らの想像上での不安要素だっただけだ。現実はもっと酷かったけどな…」
とカケルが言うと
鷹弥の横で車のクラクションが鳴った。

『え…お前今どこにいんの?!』

「家の下のコンビニだけど?」

『お前!何ひな一人にしてんだよ!ひなのスマホは?もしかしてひなに渡したまんま?』

「え…」

『お前、早く家戻れ!』
カケルが言い終わる前に慌てて鷹弥は部屋に戻った。

「日向!!!」

日向は部屋のどこにもいなかった…

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