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決戦は土曜日

デートした後鷹弥から一度だけLINEが来た。

『土曜日、俺もいるから』

日向は『ありがとう』と返した。

その一度だけの言葉が少ない連絡に、鷹弥の気持ちが十分わかった。

“鷹弥がいれば大丈夫”それは
あの日一緒にいた時間で感じた日向の本心だった。

あのデートの日は鷹弥と過ごしたソファで寝た。
次の日はベッドに入るとまた泣けてしまったからまたソファで寝た。
その次の日は鷹弥からの連絡が欲しいと感じてソファで寝た。
そしてその次の日はベッドで眠れた。

そんな日々を過ごし土曜日までに少しづつ気持ちを整理した。

整理してみると至ってシンプルだった。

そもそも日向は圭輔と茜が別れることは全く望んでなかったことに気付いた。というか…考えもしていなかった。
初めから手に入らないとわかっていたのに気持ちがバレて、少し愛される幸せを知ってしまった。

でも、こうなって…
自分のせいであの二人が壊れなくて良かったんじゃないか、と思うようになった。

うん、大丈夫。
今日は土曜日だ。

仕事が終わってbrushupに向かう途中に花束を買った。
小さくて可愛いふわふわなイメージを伝えてピンクの花束を作ってもらった。

一人で扉を開けるのには少し勇気が必要だった。

カラン_____。
扉を開けるとやっぱりカケルちゃんが
「いらっしゃい、ひな。」
と迎えてくれた。

カウンターにはもう鷹弥がいてくれた。
日向は鷹弥の姿を見るだけでホッとできる気がした。

今日はほぼ常連だけの貸し切りパーティだ。鷹弥も常連ではあるけど、仲のいい人がいるわけじゃない。
居心地がいいはずのない空間に私の為だけにいてくれてると日向は思って(ありがとう…)と心の中で言った。

「ひなが来た~♡おつかれ!」
アキが日向に寄ってきた。

その横に…小さくてふわふわした可愛い…
(あ、茜さんだ。)
日向はすぐにわかった。

日向は自分から茜に近付いた。

「茜さん…ですよね?初めまして。日向です。お会いできましたね」
と言って笑った。

その様子を鷹弥とカケルちゃんが見てるのを感じた。

「わぁ♡ひなちゃんっ!!やっぱりみんなが言うようにめちゃくちゃ美人ー!キレー…♡会えて嬉しいっ!」
と人懐っこい笑顔で笑った。

「これ…おめでとうございます。」
と言って花束を渡した。

顔がパーっと明るくなって
「私、ピンク大好きなの!ありがとう!」
と言う茜は、とても年上とは思えない可愛らしい顔で笑った。

カウンターでカケルが
「ひな、めちゃくちゃカッコイイな」
ボソッと鷹弥に言った。
「相変わらず男前すぎんだろ」
と鷹弥は笑った。

花束を嬉しそうに抱えた茜が
「圭ちゃーん!みてー♡ひなちゃんが花束くれたよ~」と言って店の奥にいた圭輔のところまで嬉しそうにかけていく。

鷹弥とカケルが一瞬緊張する。

圭輔が店の奥から日向を見た。
日向はペコっと頭を下げた。
圭輔が日向に笑うと、圭輔の元に向かっていた茜の足が少し止まった。

カケルはその様子を見て
「鷹弥、もうバレたかも…」と言った。

日向はカウンターにドリンクを注文に行く。

カケルはボソッと
「ひなが来る!ひなは何もわかってないからとりあえず様子見よう」と鷹弥に言った。

「カケルちゃん、ビールください」
日向が言うとカケルは「OK!」と言ってビールを入れに離れた。

「鷹弥?」
日向が覗き込む。
「あー…おつかれー」
ちょっとぎこちなかったか?と鷹弥は思った。
「この状況、苦手でしょ?無理しないで」
心配そうに日向が言った。
(コイツ…俺の心配してる場合じゃねーつうのに)
鷹弥が思うと同時にカケルがビールを持ってきて
「お前が心配かけてどーすんだよ!
“鷹弥がいれば大丈夫”なんだろー?」
と鷹弥の頭を突いていじった。

日向は笑いながら
「そーだ!いてくれなきゃ困るっ」
と言ってカウンターから離れた。

鷹弥がまた赤くなる顔を隠す。
カケルは呆れ顔で
「おーおー…完全にやられちゃってるね、お前。かっこ悪ー」と言って笑う。

「うるさい!」鷹弥は子供のようにむくれた。

「でもひな自身は思った以上に大丈夫そうだな…“鷹弥効果”効き目抜群だな」
とまたカケルは鷹弥を弄る。
もう鷹弥は無視した。

「てかアイツ(圭輔)…早々にバラしてんじゃねーよ…」鷹弥は少し離れた圭輔を見ながらボソッと言った。

「皆さ~ん!お揃いですか~」
圭輔と仲のいいアパレル関係の友達メンバーが揃って注目させた。

「えー、本日は圭輔と茜ちゃんがなんとびっくり!知らぬ間に結婚しちゃってたよパーティという事でお集まり頂いてるわけですが~なんとこの二人、入籍の直前に思い立って籍を入れちゃったそうです~その間約1ヶ月!」

(えっ…1ヶ月…?)
日向の心がザワっとした。

「そんなこんなで慌ただしく入籍したお二人ですが、そもそも付き合いはもう子供の頃から!そりゃぁお二人の愛の前には小難しい手続きや、親同士の挨拶なんて必要ないってわけですね~」

カウンターでカケルと鷹弥が顔を合わせる。
「ここまで俺の思い込みが当たると逆に自分が怖くなるわ」カケルが言った。

鷹弥「嫌な予感しかしねーな…」

「ではここで、圭輔はもうみんなよくご存知なのであとでたっぷり挨拶してもらうとして、新婦の茜ちゃんから皆さまへご挨拶です~拍手~!!」

みんな一斉に盛り上がる。

「えーっと、皆さま、本日は素敵なパーティを開いて下さりありがとうございます♡」

「ヒュー♬︎茜ちゃん可愛い~!」

「えへへ♡私と圭ちゃんは子供の時からずっと一緒にいたので、これからも当たり前のように一緒にいるもんだと思って結婚のタイミングを今まで逃してましたがこの度めでたく一緒になることが出来ました♡圭ちゃんと同じ名前になれて幸せです!ありがとうございます」

拍手と歓声で耳が痛いくらいだ。

「あのさ、俺の今日1番の謎…言っていい?」鷹弥がカケルに言った。
カケル「だいたいわかるけどどーぞ」
鷹弥「あれと日向を同時に好きになるか…?どう見ても正反対…」
カケル「不思議だねぇ…」

司会進行役が
「じゃぁ、質問ターイム!質問がある方どうぞ~」
と言うと口々にみんなが声を上げる。

「プロポーズの言葉はー?」

司会「ベタだね~」

茜「うーん…付き合いが長いので、圭ちゃんからは1000回くらい結婚しようって言われててー1000回は断りました~」

「アハハ…」笑い声が上がる。

茜「でも最後は私から入籍日を決めてこの日を結婚記念日にしようね♡って言いました!」

(え…茜さんからだったんだ…)
日向はさっきからの胸のざわつきが一層強く濃くなったのを感じた。

「ちょっとひな動揺してる?」
カケルが言った。
「聞いてて面白い話じゃないな」
鷹弥は冷静だ。
「てかコレいつまで続くんだよ…」
とため息をついた。

その後もお互いの好きなところとかベタな質問が続き、圭輔は俺そう言うの言うキャラじゃないし、とかあとでな、とか上手く逃げたりしつつも長い質問タイムがやっと終わった。

司会「ではここからが本題!」

「まだあるのかよ…」
鷹弥がもう限界って感じでボヤく。

「お二人は急な入籍で式とかはまだ考えてないそうなので…この度、私たちアパレルチームより、衣装提供させていただきます~!今から二人には着替えてもらって再度入場してもらうのでしばしお待ちを~!」

カケルと鷹弥は同時にため息をついて
鷹弥「これ…疲れるな…」
カケル「同感…」
と言い合った。

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