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未明

 それからしばらくはユウトとディゼルはお互いに黙ったまま時が過ぎていく。ディゼルは少し寝ておくと言って椅子に座ったまま目を閉じ腕を組んで小さく寝息を立てていた。

 ユウトは一人瞑想のような時間の中でディゼルに聞いたゴブリンについての話を思い返している。数を増やすために他種族の女性を必要としているはずならとらえた女性は大切に扱うはずなのにそうではないとディゼルは言っていた。まるで他種族の感情を逆なでするためにそうしている節があるとユウトは感じる。同時に自身のゴブリンの体はなぜ作られわざわざ異世界から記憶や精神をそのままその器に入れられたのだろうと考える。

 このハイスペックな体の製造が可能なほど知恵のつけたゴブリンであればより効率的に配下を増やし、統率力をもって戦うこともできたはずだった。

 ユウトは最初に出会ったあの大きなゴブリンのことを思い出す。もし、まだ生きているのなら自身を作ったその理由を問いかけてみたいと思った。

 そう考えているうちに触れていた魔術盾の金属板の隙間から黄金色の光が徐々に漏れ出してくる。ユウトは魔力量に意識を集中させるともうすぐ満タンになるのがわかった。そのまま魔力を送り続けると光は増し続けその光によってディゼルは目を覚ました。

 そして満タンになった、と感じると同時に光は消える。

「ありがとう、ユウト。十分魔力はは補給された。これで気兼ねせずに魔術を発動できる。
 ユウト自身の魔力量はどうだ?体調に問題はないか?」
「ああ、大丈夫。まだ余裕はある」
「すごい魔力量だ。それほどの余裕があるからあの魔剣が扱えるんだな」

 ディゼルは感心している。ユウトは魔剣のことで一つ大事なことを思い出して体が一瞬硬直した。

「あ・・・。ディゼル。一つ謝りたい。剣を切ってしまって申し訳なかった」
「あの時ユウトはああするしかなかった。あと少しでユウトを殺していたかもしれない。僕の落ち度だよ。むしろ謝らなければいけないのは僕のほうだけど・・・君がお互い様だと思ってくれるならありがたい」
「うん。それでかまわない」
「ありがとう。騎士とは本当に面倒なものだよ。これからどうする?時間までそこのベッドを使ってもらって構わないが」

 ユウトは少し考える。

「そうさせてもらおう。でもその前に食事を取っておきたいかな。あとレナとセブルを迎えに行きたい」

 そうしてユウトとディゼルは会議室へ向かう。ユウトはあの二人が問題なく過ごせたか気になっていたがドアを開けると大机の上にいくつも円が描かれた木の板と二色で形の違う駒みたいな小片を広げて遊んでいた。レナがセブルに駒の一つを渡すとその瞬間セブルが一鳴きして勝負が決まったらしくレナが頭を抱え机の上のセブルが誇らしげにしていた。ちょうど勝負が決まったらしい。

 そのまま合流して三人と一匹で食堂に向かう。一回の広間にはいくつもテーブルと椅子があり給仕が料理や飲み物を運んでいる。利用しているのはほとんどが兵士のようで休息をとっているようだった。ユウト達もそこで食事をとってディゼルといた部屋に全員で戻る。レナは随分と部屋の様子に感激していた。その部屋のベッドで少しでも魔力の回復を行うためユウトは仮眠に入る。羽織ったセブルからほんのすこしの女性の香りをユウトは感じ取ったが疲れからかそのまま眠りにはいった。
 


 城壁の屋上。城壁の角で円形に張り出した所でガラルドとクロノワ、ヨーレンの三人は橋上で動きを止めている魔鳥を見下ろしている。クロノワは単眼鏡を覗いていた。

 いくつもの魔術灯の光によって照らされた魔鳥は今、全身に霜が降り黄銅色には白い霞がかかり一部には小さなつららが発生している。白い冷気が緩やかに流れていた。

 クロノワは単眼鏡を下ろしヨーレンに尋ねる。

「魔鳥の状態をどう見る?ヨーレン」

「あれはおそらく周辺の空気中にある魔力を熱とともに吸い上げているんだと思います。速度は遅いですが着実に負傷個所を修復しています」

 ヨーレンは淡々と答える。

「今、他に我々にできることはあると思うか?」

 ヨーレンは考えをめぐらせここまでやってきたことを思い起こす。橋を破壊しないという条件のもとどこまで魔鳥に近づくことができるか、攻撃する手段はあるかと弓矢や樽などを用いて実験を繰り返してきた。

「残念ながらありません。ヤツは今もしっかりとこちらへ目を光らせています。
 今対岸の砦で準備を進めているユウト達の支援が精いっぱいですね」
「そうか。やはりディゼルとユウトに任せるしかないか」

 クロノワはため息交じりにつぶやいた。そして気持ちを切り替えたように気軽な様子でガラルドに目線をやって語り掛ける。

「話は変わるが。小鬼殲滅ギルドはゴブリンを絶滅させたのちはどうするつもりだ?お前の統率力と隊員たちの戦闘能力、大工房との協力なつながりを宙に浮かせておくのはもったいない。今回みたいに調査騎士団と協力体制を取ってもらえればありがたいんだがな」
「狩りつくしたならまた現れないか警戒するだけだ。用があるならレイノスに問い合わせろ」

 ガラルドは無感情にクロノワへ反騰する。

「あーはいはい。無欲なことで」
「大工房はいつでも取引を歓迎しますよ」

 ヨーレンがにこやかに申し出る。

「あんたらは欲深すぎるよ。それに巨塔の連中がうるさいからな。ディゼルの盾だってだいぶ小言を言われたよ」
「それは残念ですね」

 ヨーレンの皮肉めいた言い方にクロノワは鼻で笑って返した。

「何はともあれ。俺たちにできることはやっといた。あとはあの二人次第だな」

 クロノワは小さな角ばったカバンから小型の円盤を取り出し目を落とす。

「もうすぐ夜明けだ」

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