北の森に至った者達
最初の大陸の北に在る森。管理補佐であるフォレナーレとフォレナルが管理するその森は、中央に峻厳な雪山が幾つも聳えたち、年中雪を降らせている極寒の地が存在している。
その雪山を囲うように麓に存在するその森は、雪山より流れてくる冷たい雪解け水が幾つも河を造っているので水には困らない。それに、雪山と違い森は一年を通して温暖で、土地も栄養豊富なので木々も大きく、森の恵みに欠かない豊かな森であった。
そこで暮らす魔物達は豊富な餌のおかげで立派な体格をしているが、餌が豊富であるのでそこまで好戦的ではない。無論、身を守る時などはどこまでも凶暴になり、その強さは北の森の外に生息している魔物とは一線を画するほどであった。やはり身体が大きいと、それだけ強いということなのだろう。中には別の方向に進化した魔物も居るが、基本的には北の森の魔物は体格が大きい傾向にある。
そんな北の森の中には、一際珍しい魔物が生息している。それは人々より魔木と呼ばれており、魔物化した樹木であった。
魔木はあまり動かない代わりに戦闘力がずば抜けて高く、強い魔物の多い北の森の中でも、強さでは頂点に君臨する魔物であった。もっとも、個体数が少ないうえに、近づきさえしなければ無害なのだが。ただ、魔木が付ける実は非常に美味なので、魔木の居た世界では、それを目当てに魔木に挑む者も少なくなかった。その結果は大抵魔木の養分だったのだが。
そんな北の森だが、つい最近とうとう人の手が届いた。今はまだ森の浅い部分の調査だけしか行われていないが、そう遠くない内に森の奥の方へと調査の範囲を拡げるのだろう。
れいとしてはそれは問題ないので、特にどうこうするつもりはない。ただ少しばかり北の森が騒がしくなるだけだ。
「………………ここは賑やかになりそうですね」
「魔物が増えたことで十分賑やかにはなりましたがね。それに、今までも人がこの森に来なかったわけではないですから」
「………………まぁ、そうですね」
北の森の奥深くに存在する魔木の老木と会話をしながら、れいは思い出す。今は国としての調査が始まったが、それ以前にもここまで辿り着き、森の中に踏み入った者が居なかったわけではない。今回が公式というだけの話。
非公式での挑戦では生還率があまり高くは無かったようで、人の国では北の森は魔の森だと恐れられているらしい。
「それに、仮にこの森に沢山の人が踏み入ったとしても、ここまで辿り着ける者が如何ほどいるのかという話ですから」
「………………そうですね。余程運に恵まれなければ難しいかもしれませんね」
老木の居る周辺には魔木が多い。れいの話し相手である老木は北の森に生えている魔木のまとめ役なので、それを慕って周囲に集まってきたようだ。
もっとも、集まったと言っても元々の個体数がそれほど多いわけではないので、数はそれほどではない。魔木同士の間隔だってかなり広い。そこに魔物を加えたとしても、運が良ければそれらに一切遭遇せずに老木の下に辿り着ける者が居てもおかしくはなかった。しかし、辿り着けたとしても何も出来ないのだが。
「なので、そう気になるほどでもないですよ。人の強さもここの魔物相手に苦戦する程度ですし」
「………………貴方が相手では、国が総力を挙げても浅い傷を負わせられるかどうかといったところでしょうね」
話し相手の魔木はれいが度々強化しているので、既にかなりの強さを誇っていた。北の森に生息する魔物の頂点である魔木の頂点であるが、他との差があまりにも離れ過ぎている。
やはり強化し過ぎたかなとれいも思わなくはないが、それでも最近は褒賞用の果実の生産という重要な役を任せる必要があるので、そのためには今の強さではギリギリなので、もっと強くしなければと考えているのだが。
そんな話をしながら魔木の実を貰って食しつつ少し休憩すると、れいは今日のところは大人しく帰ることにしたのだった。近いうちにどのように魔木を強化しようかと思案しながら。