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クロードはニヤニヤしながら、新聞紙をバサバサとデスクに置いた。
昨日の夕刊、そして今日の朝刊と、テレビやネットのニュースは、グレート・ドルトン王国の第二王子と、怪我の治療と戦後の静養と称して隠されていた恋人の話題でもちっきりだ。
非公式ながら、はじめて話題の恋人を世間にお披露目した写真がトップを飾っている。
蕩けるような笑顔で恋人をエスコートする王子と、はにかんだ微笑を浮かべた艶やかな黒髪の恋人が、恋人繋ぎで手を繋ぎ身体を寄り添わせながらホテルの階段を降りてくる。
車に乗り込むまでの数分だったが、王子はわざわざ歩みを止めて、恋人の頭にキスをしパパラッチ達に向かって軽く手を振るサプライズまで繰り出したのだ。
「あんたねぇ、いい加減、プロポーズするっすよ。ミリーちゃん、ますます追われるっすから」
テッドも、本当に・・・とため息混じりに言う。
「そろそろ、プロフィールも正式に公表しないと・・・隠し通せないです。
アメリア様の方が、よっぽど覚悟も気概も定まっていらっしゃいます。昨日のあの言葉は本当に素晴らしかったです」
真理に関しては側近達から出る言葉はいつも同じだ。
貴女というお方は・・・という驚きと賞賛を持って評されている。彼女は誰からも一目置かれ、愛されているのだ。そう考えて、アレックスは余計、ニヤニヤする。
テッドの言葉にうんうん頷きながら、あっ!とクロードは言った。
「そういや、ザ・グレースのマダム・ミューラーから礼の電話があったっす。昨日、ミリーちゃんが着たカシミヤのコートとセーター、あっちゅーまに完売、予約殺到中らしいっすよ」
ホテル内のザ・グレースにティナが洋服を購入する旨を言いに行ったところ、優秀な支店長はすぐにマダム・ミューラーに連絡をし、彼女は新作を携えて速攻でホテルに飛んできたのだ。
おかげでより一層、真理の装いは華やかになって、ニュース映えした。
彼女には上品でシンプル、洗練されて優美なデザインが良く似合う。初めて出会った時からザ・グレースの洋服を着せたいと思ったのだ。
自分の選択は大正解だ。
アレックスは上機嫌な顔で、それは、良かったと答えて、手元の新聞に目をおとした。
真理もこうやって報道されていることが、もはやどういうことは充分過ぎるほど、分かっている。
分かっていて、望んでくれたことが堪らなく嬉しい。
だからこそ、自分も彼女に相応しい男でありたいと強く思った。
彼女を守りきれる強い自分でありたいと。
今まで、自分がどうでありたいかなど考えたことがなかった。
その時、その時で刹那的に生きてきていた。
彼女という存在を得て、自分自身を見つめることができたのかもしれない。
渋面のままクロードはさらに続ける。
「それにビクトルのところも煩いっす。昨日、先にニュースに出たこと根に持って、早く特番組ませろって言ってきてるっす」
テッドも眉間に皺を寄せながら
「当然ながら、国王陛下も王太子ご夫妻もウィリアム卿も、いい加減アメリア様にお会いになりたいと仰ってます」
とうとう二人は声を揃えて王子に詰め寄った。
「「早くプロポーズしてください!」するっす!!」
「するさ!!するに決まってんだろ!何回言うんだ!!俺に命令しやがって!!!!!」
最近のとめどもない側近達の催促にウンザリしながらキレ気味に答えて、だが真顔になって続けた。
「最優先はマダム・ウエストを捕まえてからだ」
彼女を取り巻く危険はとにかく取り除く。
ましてや、はっきり分かっている脅威をそのままにしておくことは出来ない。
彼女の行方を追っているが、2日日前私邸に一番近い駅に姿を見せて以来、行方が掴めていない。
防犯カメラからも追えていないのだ。
今は市内のホテルや宿泊出来る施設をあたっているが見つかる確率は低い。
真理を狙うなら遠くに行くわけはないし、手練れに新しい依頼をしている可能性も高い。
他にも色々捜査させている結果待ちだが、油断はできない状況なのだ。
アレックスは新聞から顔を上げると、側近達を見た。
「俺に考えがある」
そう言うと、椅子に踏ん反り返って自分の考えを二人に喋り出した。