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バスルームから出てきた真理を、待ち構えていたアレックスはそっと抱き上げてベッドに運ぶ。

これも彼の中では恒例行事だ。本当なら世話をしたくて一緒に入りたいが、真理からは一人で入れると断られ、自分も真理の裸体に我慢出来る自信もなく、致し方なく外で待っている。

彼女の身体から湯上り独特のお湯とオレンジの混じった香りが立ち昇るとアレックスの熱は否応もなく昂ぶるが、自制するのにも大分慣れた。

彼女の身体を見下ろせば、今日、自分が選んだばかりのスリープウェアを着てくれて、それが嬉しい。
高級シルクを贅沢に使ったパールピンクのパジャマだが、揃いのロングガウンを羽織っているから、なんだか脱がしたくって仕方がない。

マダム・ミューラーはさすがだ。
真理とは一度しか会っていないのに、どれもこれも自分と彼女の好みを良く押さえていた。
洋服以外にも色々持って来させた中には、もちろん今着ているスリープウェアに、ラウンジウェア、ナイトドレスにネグリジェなどもあって選べないというか、全部買いたくなるものばかりだった。
もちろん買ってしまったのは、真理には内緒だ。

脱がすことを考えて選んだのはネグリジェだけでは無くて・・・。
あの時、彼女に最後にこっそり耳打ちしたのは、下着も選ばせてくれ、と。
選んだどれかを今夜着けてくれたのだろうかと、そんな破廉恥極まりないことを考えながら、寝室に入る。

そっとベッドに寝かせて枕の高さを身体が楽なように整えると、自分も隣に潜り込んだ。

身体を横にして、彼女の方を向くと髪を手に取り口付けた。

「良かった、だいぶ艶が戻ったな」

ヘッドマッサージにシャンプー、トリートメント、そしてヘアオイルでの手入れで、艶めくしっとりした黒髪に戻っている。

真理は顔だけアレックスの方に向けると、微笑んだ。

「ええ、おかげさまで。とても気持ちが良かった」

彼女の答えが嬉しくて笑うと、今度は手を取って甘く指先に唇を這わす。

「手はまだまだだな。一日おきに来るようにしたから、しばらく続けて欲しい」

真理はそれを聞いて、驚いたような眼をアレックスに向けた。

「アレク、私の手はもともとカメラを構えたり、大きい荷物持ったり、ふつうに家事をしたりで荒れ気味よ。それにゴツゴツしてるし、そんなに女性らしい手じゃないから、一日おきはやりすぎだわ」

暗に贅沢過ぎると眉を顰める彼女に、アレックスは鮮やかに笑ってみせた。

「やり過ぎなんてないさ。ほんとは毎日したいくらいだ。でもずっと椅子に保たれてるのは君の身体に負担がかかるからな」

言って、さらにチュウと指先を吸う。セクシャルめいた行為に彼女の頬が赤く染まるのを見て、アレックスはニヤついてしまう。

「華奢で柔らかい十分に女性らしい手だよ。命を写真に切り取る尊い手で、俺には美味しい料理を作ってくれる大切な手だ。君のためならなんでもしたい。だから、拒むな」

少し傲慢めいた言い方をするが、真理は仕方がないというような顔をする。

「拒まないけど・・・やり過ぎないで。どうしたら良いか分からなくなるから・・・」

少し困ったように、そういう彼女の顔を半身を起こして覗き込みながら、アレックスは子供っぽく「やだ」と素気無く断ると、2人で見つめ合って笑い合った。

ひとしきり笑って、真理の顔を見つめていると賢者のように働かせている理性が切れそうになる。
今も笑う彼女の唇に視線が吸い寄せられて、思わず、そこへ指で触れる。
親指でなぞるように撫でると、真理が笑うのをやめて、ひたと自分を見返した。

「キス・・・して良いか・・・苦しくないようにするから・・・」

堪え性のない自分と、苦しくないキスなんてどうやってするんだ、とバカな言い方しかできない自分に呆れながら、そう願うと、目の前の彼女はほんのりと頬染めて頷いてくれる。

「私もしたい」

手を伸ばして引き寄せるように項に手をかけられて、アレックスはゆっくりと彼女の唇に自分のそれを合わせた。

片肘を彼女の顔の脇について、体重をかけないように注意して、ゆっくり慎重に角度を変えながら唇を擦り合わせると、否応がうえにも身体に・・・特に下腹部に熱が集まってくる。

柔らかく彼女の唇を食んで、躊躇いがちに差し出された舌を自分のそれで捉えれば、彼女が自分の頭を抱え込んでくれる。
ひとしきり舌を絡ませ合って、彼女の温かな粘膜を堪能すると、そっとアレックスは唇を離した。

彼女はぽやんとしたうっとりしたような顔をしていて、肌を合わせたくて喉がなってしまう。
そんな邪《よこしま》さを誤魔化すように、王子は彼女の濡れた唇を人差し指で拭いながら「苦しくないか」と訪ねた。

頬を蒸気させたまま「大丈夫」という彼女に安心しつつも、まだまだ触れたくて、今度は首筋に吸い付くようにキスをする。

しばらくアレックスのやりたいようにさせて、恋人の逞しい背中の感触を慈しむように撫でていた真理がアレックスに声を掛けた。

「アレク、あのね・・・」

珍しく言い淀む。何だ?と顔を上げると、恥ずかしそうな顔の彼女がいて。
瞳を潤ませて、しばらく躊躇うような顔をしていたが、意を決したようにアレックスを見つめたまま続けた。

「つ、辛いなら・・・手か・・・口で・・・」

真っ赤になりながら言う彼女に首を傾げ

「え?どう言うこと?」

そう言った瞬間、下半身に衝撃的な甘い痺れが走り抜けて、クッとアレックスは歯をくいしばった。

「うあっ!あぶねっ!!」

下腹部を襲う不意打ちの快感になんとか射精感を堪えると、身体を起こして恋人を呆然と見下ろした。

もう首筋も真っ赤、恐らく全身茹で蛸のように赤くなっているだろう彼女は、右手で恥ずかしさからか、口元を押さえて顔を自分から背けている。

なのに・・・なのに・・・左手は自分の腰骨辺りに触れていただろうアレックスの昂りをパジャマズボンの上から摩っていて・・・。

彼女の言わんとしてることが分かって、情けないがアレックスの気持ちは大いに揺れた。

葛藤すること数分・・・なんとか自制心を取り戻すと、悪戯な彼女の手を引き離し、その指先を握りしめた。

「嫌だった?」

戸惑うように言う真理に、まさか!と答えるとアレックスは続けた。
こんなシチュエーション、前にもあったなと思い出して、ついつい間抜けな自分に笑ってしまう。

「やじゃない!でも今はダメだ。ちゃんと真理の怪我が治ってからだ」

「でも、もう少し時間がかかるわ」

そう言う彼女にアレックスは情けなく眉尻下げた。

脳内で激しく葛藤する。
彼女の気持ちが嬉しいが・・・本音を言えば盛ってしまいそうになるが・・・でもここは我慢すべきだ。

「待てるから大丈夫。もう時期だろ。治ったら・・・真理がやめてって言ってもやめないから、今は我慢する。だから・・・」

一呼吸置いてから、そうは言っても気が変わられたら困ると思い、言質を取りたくて不埒な願いを囁いた。

「その時は、どっちかっていうか・・・両方してくれると嬉しい」

その願いに、愛しい彼女は潤んだ目のまま頷いてくれた。

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