バナー画像 お気に入り登録 応援する

文字の大きさ

第83話 アリスの絶対的命令で、ローゼマリアはユージンに殺されるのか?

 しかしユージンはローゼマリアではなく、なぜかアリスの前に立った。

「アリス。教えてくれ。これまで君の言うことをすべて聞き入れていたが、ローゼマリアにどんな非があるというんだ?」

 アリスは首を傾げると、すぐに動かないユージンにイライラした口調で罵倒する。

「はあ? あんたたちって本当にグズでノロマね。早く私の命令どおり動きなさいよ」

「アリス! 先に私の質問に答えてくれ!」

「今更なにを言ってるのよ? ローゼマリアはすでに指名手配になってるじゃない。見つけ次第殺すっていう話でしょ? さっさとしなさいよ」

 そこまで言われても、ユージンはアリスから顔を背けなかった。

「ほんとうにローゼマリアは君を殺害しようとしたのか? 証拠がどこにもないのはおかしい。私たちの行動は本当に正しかったのか?」

「グタグタ煩いわね! ああっもう、罪が足りないっていうの? じゃあ、ローゼマリアは国庫から金を盗んだのよ。それでいい?」

「アリス! そんな取ってつけたような……」

「うるさい! うるさい! 私にたてつくんじゃない! あんたらは私……アリスに絶対服従なんだよ! 初めからそんな運命なんだ! さっさとローゼマリアを殺せ!」

「アリス……」

「早くしなさいよ! 私の命令よ! ユージン! ローゼマリアをあんたの剣で突き殺せ!」

「アリス……君の命令……」

 ユージンがフラフラと身体の向きを変えると、剣の先をローゼマリアに向けてきた。
 鋭い切っ先が鈍く光り、ローゼマリアの喉がヒュッと鳴る。
 アリスがユージンの背後から、煽るような号令をかける。

「そうよ! ローゼマリアは国庫から金を盗んだの! だから殺しちゃっていいのよ!」

 婚約者だった男に剣を突きつけられ、ローゼマリアは驚きと悲しみで震えてしまう。

「ああ……そんな……王太子殿下! 目を覚まして。あなたは騙されているのよ!」

「ローゼマリア……私は……」

 混乱するユージンに、ローゼマリアは懸命に訴える。

「思い出して! かつての、わたくしとあなたのことを!」

 政略結婚ではあったが、ローゼマリアはユージンを愛していた。
 形ばかりのデートだってしたし、誕生日にはプレゼントの交換だってした。

 それは、もう遠い思い出だけど――

 それでも楽しかったひとときは、確かに存在した。
 ほんの欠片でもいい。気持ちを交し合った過去を、思い出してほしかった。

「ああ……ローゼマリア……私は……うっ……うわぁ……ああああああっ!」

 ユージンが相反する感情でパニックを起こし、剣を振り上げた、そのとき――

しおり