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魔力

「うん。これからその魔剣を使うなら知っておかないといけないね。説明しよう」

 ヨーレンはユウトの方へ向き直り語り始めた。

「できるだけ小難しいことは飛ばして話すよ。生きるために必要な生命力がある。それを補助、もしくは強化するのが魔力と思っていい。魔力は生きるものすべてが蓄えることができる。人はもちろん動物、植物まで生命活動を行うものなら全てね。蓄える方法ははっきりとは解明されていないけど呼吸、食事が有力説で日の光を浴びる、という説も最近でていたかな。ここまでは理解できるかい」

 ゲームのステータスにあるヒットポイントとマジックポイントに近いかなとユウトは考える。ここまではこれまでの会話から予想できていた。さらにほぼ普段の生活を行うだけで蓄えられていくものだということも分かった。

「うん。理解できるな」
「では続けるよ。魔力は生命力を補助、強化すると言ったね。これは言葉通り身体的な能力を強化する作用がある。なかなかそのことを実感する機会は少ないのだけどユウトは修練の初日、疲労感を感じるのが異様に早く感じなかったかい?」

 ヨーレンの問いでユウトは思いだす。あのどん底を味わった日である。思考の低下も含め短時間で異常な疲労感があった。

「確かに感じた」
「それが体内の魔力が極端に減っている状態だよ。魔力による補助は蓄えられる魔力量の割合で決まっている。だからあの時のユウトは身体能力に影響を及ぼすほど体内の魔力が減っていたんだ」

 なるほどと思いつつ一つの疑問がユウトの頭に浮かんだ。

「どうしてあの時オレの魔力は急に減ったんだ?魔剣は使用していなかったと思うんだけど」

 ユウトの質問にヨーレンはまずいことをした、というわかりやすい顔をする。そしてちらっとガラルドの方へ目線が流れたのをユウトは見逃さなかった。

「何か仕込んだな。ガラルド」

 ユウトからの追及にガラルドは何も答えない。無言の同意だであるとユウトは認識する。

「あ、あれはねユウト。今製造されている魔剣というのは使用者自身の魔力を使用せずに魔剣自体に蓄積された魔力を利用して能力を発現させているんだ。ただ君が持ったときの魔剣は魔力量がほぼなくなった状態で魔力を吸い取る状態だったんだよ。それで君の魔力が魔剣の方に充填されたんだね。魔剣の魔力を一日で一杯にできるなんてとんでもない魔力量をユウトは持っていることがわかったんだ!」

 ヨーレンは気をそらすような早口で語り上げる。

「ただ・・・」

 突然ヨーレンは自身に問いかけるように話を続ける。

「魔剣の魔力蓄積を担う刀身が砕けていることがとても気になるんだ。こんな事例は聞いたことがない。考えられるのは膨大な魔力の入出力が短時間に行われたことで刀身が耐えられなかったのかもしれない。完全充填を行って疲れ切ってしまったあの時のユウトの魔力総量では足りない。なら修練初日のユウトの魔力量はそもそも完全ではなかったいうことになるのか・・・」

 声は小さくなりどんどん聞き取りづらくなっていく。

「ヨーレン?」

 ユウトの掛け声にハッと我に返った。

「あっ、ああ。度々申し訳ない。つまり体内の魔力量っていうのは少なくなればなるほど身体にも影響を及ぼすってことだよ。これだけはよく覚えておいて欲しい。今のユウトの魔剣は制限なく魔力を消費して出力を行うことができる状態なんだ。だから無理をすれば修練初日のような状態にもなりうるってことだよ。魔剣を使用するときは慎重に扱い、修練でも気を付けて欲しい」
「わかった。気を付けるよ」

 ガラルドに対して文句の一つも言いたいところだったがガラルドは腕を組み首を垂れている。寝たふりなのかホントに寝ているのか判別がつかずユウトはタイミングを逸してしまった。

 ユウトはもう一つ疑問に思っていたことをヨーレンに尋ねる。

「ヨーレンが使っていた回復させたりするアレが魔術なのか?」
「その通り。魔力は特定の手順を取ることで出力することができる。僕が使っていた回復魔術は魔力を疲労回復、自然治癒力の強化する方向に指向性を持たせて対象に出力してたんだ」
「オレにも魔術を扱うことはできるだろうか?」
「うーむ。魔術を使う者の最低限の条件は豊富な魔力量だからユウトはその点を満たしている。だから芽はあると思う。ただもう一つ条件があって魔術式っていう魔力を出力するための記号式を理解、想像できるようになる必要がるんだ。これにはまた別の才能が必要になる。だから後はユウトの魔術式との相性と努力次第かな。大工房では魔術学校もあるから機会があれば初等科の授業を受けてみてもいいかもね」

 ヨーレンはそう答えた後、少し黙って考え込む。

「もしかしたらユウトのその体なら魔術式よりさっき話したゴブリン独自の別系統の魔術の方が相性良いかもしれない。こちらはこれから研究を進めることになるからいつになるかわからないけど」
「なるほど。やっぱりそう簡単には使えないか」

 前の世界ではあまり得意ではなかった勉強が必要になるということでユウトは魔術の習得にハードルを感じてしまう。

 話が終わり、ヨーレンはお茶を入れてユウトにもふるまってくれた。修練初日にくたくただったユウトにふるまってくれたものと同じだったがあの日よりしっかりと味わって飲むことができた。少量ではあるものの独特なうま味のあるヨーレンのお茶にユウトは感動する。

 そのころには野営地最後の夜のささやかな宴は終わりを迎え、静かになっていた。それぞれの焚火で火の番として見張りを立てつつ皆眠りに突き出している。

 ユウトの焚火ではガラルドが火の番を買って出たのでユウトはセブルのブランケットに包まれて眠りについた。

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