アーモンドをいただいたの♪
「ナッツをいただいたの♪」
ポンと転がり出て銀色の乱反射が眩しいなか無慈悲な嬌声が降ってきた。祝福でも歓迎でもない。おおよそ誕生の瞬間とはほど遠い。一種異様な空間。めまぐるしく転がる世界の中心にボウッとした光芒がある。太陽だ、と生まれたばかりの本能が教えてくれる。なるほど祖先を育んできた大地と自然の恵みの双璧なす。
だが同時に根源的な危機意識が警報を鳴らす。
逃げろ、と盛んに促す。
「まーあ。ハワイ旅行の定番かしら」
「コロナの影響でようやく届いたの」
つっけんどんな返事が雰囲気を重くする。コロナが何かは知らぬ。ただこの幼稚な知性にも会話の主たちの程度はうかがいしれる。
それにしてもこの世界はどうだ。おおよそ祖先たちが過ごしてきた環境に届かぬ。これも本能的な知識が代弁してくれている。ここに真の太陽も大地も大海から発する雨もない。ただただ作為的なそう不自然の沃野が広がっている。
「ごめんなさい…無神経で」
「えーとなになに。含まれる栄養はビタミンE、オレイン酸、さまざまなミネラル。これらはその含有量が他の食品に比べてはるかに高いということです。『知性』は入ってないようね」
「何ですってえ!」
バァンと世界が揺れた。おお、生まれ出でたる境遇は何と剣呑で激しい場所か。
「ビタミンEに秘められたるパワーはさまざまな害悪を与える活性酵素から貴女の健康と美容を守ってくれるんですって!他の食品と摂取することで体内に力がみなぎり…貴女はいらないようね」
「うっさいわねえっ!!」
銀色の産衣が宙に舞う。”わたし”と他の兄弟たちはパラパラと虚空へ投げ出された。
ドスン、バタン、ガシャン、パリーン。この世の物ともおもえぬ音がわたしを震え上がらせる。
ときおりつづら折りの柔らかい壁が世界を遮断する。そのたびに漆黒がおとずれ或いは薄ら闇にニョッキリそびえた色白い柱と純白のいびつな月がゆれうごく。
そして驚天動地の争いは時の果てまで続くことなく終焉をむかえた。
巨柱のペアを支える基部のひとつがわたしを踏みつけて…
砕いたのだ。
わたしは粉々になり用意された宿命―望まぬが諦めはつく結末だ―を迎えることなく存在を終えた。
意識が薄らいでいくなかグシャッと何かが潰れる音。そして続く悲鳴がせめてもの慰みになる。
ざまあみろ。