第12話 威風堂々としたド迫力の彼は、いったいなにもの?!
モブ牢番兵は謎のシークに気後れし、焦った表情で顔を見合わせている。
「おい! 外に順番待ちの兵がいたはずだぞ?! そいつらはどうした?」
シークは鋭い目つきでモブ牢番兵を睨みつけると、片方の口端を上げニヤリと笑った。
「私がすべて追い払った」
「なんだと! そんなバカな……」
「この世のすべては、金の力でどうにかなる」
傲慢とも尊大ともとれる言動だが、威風堂々としたその男には似合っていた。
ドレスの裾を乱されたまま床に転がされているローゼマリアを一瞥すると、再びモブ獄卒兵に向かって荒々しく威嚇する。
腰のホルダーに収めていた半月刀をスラリと抜き、切っ先をモブ獄卒兵に向けた。
「おい、貴様ら。彼女の拘束を解け」
「し、しかし、この女は罪人だ。自由にするわけには……」
「罪人?」
シークは目をすがめ、モブ牢番兵を侮蔑する。
「罪人と断定するということは、裁判をしたのか?」
「裁判?」
「罪があるというのなら裁判をしたのだろう? 裁判結果はどうだというんだ?」
「王太子殿下直々のご命令だ。裁判など……」
シークは喉を震わせてククッと笑うと、小馬鹿にしたような顔を向けた。
「ミストリア王国は先進国だと思っていたが、裁判もなく女性を牢獄にぶちこむような国なのか? 実に野蛮ではないか。法制度の整備もできていないとはお粗末だな」
「なんだとっ!」
真っ赤な顔で怒り出すモブ牢番兵に、シークはなに喰わぬ顔でこう切り返す。
「王太子殿下の命令? 公的な権限を個人的な感情で利用するとはな。あんな低レベルの男がミストリア王国の世継ぎとは、先が知れているといったところか」
シークの迫力に怯えていたモブ牢番兵も、ここまで罵倒されては怒り心頭になる。
「き、貴様! ミストリア王家に対する侮辱罪で引っ捕らえるぞ!」
それでもシークは不敵に笑う。
「貴様らごときに捕らえられる私ではない」
「な、なにを……くっ……」
その血の気が引きそうなほど壮絶な笑みに、モブ獄卒兵たちの身が竦んでいる。
(なにものなの? このド迫力シークは……)
「野蛮な後進国のサルと思われたくなければ、それなりのふるまいをすることだ。私には貴様らの蛮行を近隣諸国に発信する手段がある」
「なんだと?」
「権限を濫用した牢番兵が、牢獄内で女性を襲おうとしたとな。そうなったらミストリア王国の評判は急降下するだろう。……つまり貴様らの行為そのものが、ミストリア王家に対する侮辱罪にあたるというわけだ」
それを聞いたモブ牢番兵が、ぐぬぬ……と唸る。
「そんなことが……で、できるわけ……」
シークがバサリとカフタンガウンを翻すと、半月刀を持つほうとは反対の手のひらを差し出してきた。