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第4話 ようこそ、異世界

 予定調和と言うべきか、パメラの発動した魔法は暴発し、近くに居た茅尋と未来はパメラの魔法の失敗に巻き込まれ、目が覚めたら、身体が縮んで・・・・・・はいないが、さっきまでいた、未来の部屋とは明らかに違う場所にいた。

「うわぁ、すごい・・・・・・」

 未来たちの眼下には、綺麗に整えられた道が延びていた。
 それなりに高いものの、山といえるほど大きくはない、丘の上から伸びるその道は、緩やかに下っていけるように、カーブをつけながらうねった作りになっていた。

「あのー」

 誰かが肩に手を置いて話しかけてきた。後ろを振り返って見てみると、そこには先ほど魔法を失敗して、未来と茅尋をこの世界に巻き込んで連れてきた張本人である、パメラがいた。

「なぜお二人がこちらに?」
「お・・・・・・」
「お?」
「お前のせいだー!」

 大声で言ってしまった。そんな茅尋の大きな声にビックリしたのか、建物の中から人が出てきて、ザワザワと集まってきた。
 集まってきた人はみな、未来たちの世界のキリスト教会にいるような、修道服を着た人たちであった。男女十数人はいた。
 それを見たパメラは、未来と茅尋の手を取って、脱兎のごとくその場から走り出し、少し離れたところにある小屋へと逃げ込んだ。

「はぁ、はぁ、はぁ」
「お水です」
「あ、ありがとう」
「もうだめ・・・・・・」

 茅尋は、パメラに水を貰って喉を潤していたが、未来は突っ伏してその場に倒れ込んでしまった。決して体調が悪いわけではなく、単純に疲れただけである。

「それで、パメラ。ここって?」

 息を整え、貰った水を何口か飲んだ後、茅尋はパメラに今居る場所について質問した。
 その質問に対して、パメラは申し訳なさそうな顔をしながら答えた。

「ここは、ガーネット王国の北にある、ファラス大神殿です」
「ファラス大神殿?」
「はい。ファラス大神殿は、この地方の宗教である、ファブリス教の総本山です」
「へぇ、すごい・・・・・・」

 荘厳な雰囲気を醸し出すファラス大神殿が、小屋の窓から見えていた。
 目の前に立っただけでもそれに圧倒されそうだったが、窓から見るだけでも圧倒されそうだ。
 これが、神々しさというものなのだろか? 大神殿から後光のようなものが見えたような気がした。

「そういえば、お二人はなぜこちらの世界に?」
「パメラの魔法に巻き込まれた」
「え」

 茅尋に言われ、パメラは目を点にした。と思ったら、目から涙が洪水のようにドバーっとあふれ出してきた。

「もももも、申し訳ありません! 私のせいで!」

 そう叫んだと思うと、パメラはその場に平伏した。 涙目でDO☆GE☆ZAをしているパメラをなんとかなだめながら、パメラの謝罪を受け入れた。
 この世界にも、土下座があるのか・・・・・・。
 ていうか、王女殿下に涙目でDO☆GE☆ZAをさせてるところなんて見られたら、と思うと、さっさと顔を上げて貰った方が良かった。

「それで、なんだけど」
「はい」

 DO☆GE☆ZAをやめてイスに座り直したパメラは、まだ若干の涙目で涙声であった。
 そもそも、私と未来を元の世界に戻してさえくれればいいだけなので、別に泣いて謝罪などする必要はない。

「どうしたら家に帰れるの?」
「ええと・・・・・・。多分、無理です・・・・・・」
「は?」

 パメラが消え入りそうな声で言ったその言葉に素っ頓狂な声を出してしまった。
 無理? それってつまり、家に戻れないということ? なして? Why!

「本来、転移魔法とは、アーティファクトと呼ばれる道具を用いて行うものなんです。道具(アーティファクト)は、何でもいいんです。服でもカバンでも杖でも」
「それなら、私たちの着てる服とかでもいいんじゃ・・・・・・」
「普通の転移魔法なら、の話です」
「そもそも、私と茅尋さんたちの住む世界は全くことなる世界・・・・・・つまり、異世界です。本来なら、私たちは交わるはずがなかったんです。それが、たまたま私の魔法の失敗のせいで交わってしまいましたが・・・・・・」

 異世界転生や異世界転移とは小説やマンガなどの設定でわりかし聞く話だ。異世界に転生した後に、幼少期であれば前世の記憶が残っていることはあるという。しかしながら、本来なら転生した後、成長するにつれて前世の記憶というものは無くなっていく。そもそも、そんな都合良く異世界に転生出来るとは思えない。
 異世界転移にしたって、そもそも別時空であるはずの別世界に転移するなど、この世界の理を無視していると言っても過言ではない。百歩譲って転生はあったとしても、転移はどうなのだろうか。完全に時空の壁を越えている。
 しかし、もっともらしい言葉をツラツラと並べても、茅尋にとって、(来たくて来たわけではないが)異世界に来てしまったというのは紛れもない事実だ。

「そう考えると、異世界転生や異世界転移って、結構なご都合主義だよね・・・・・・」
「?」
「ああ、いや。なんでもないよ、こっちの話」
「それでですね、私の方でも元の世界に戻れる方法はお探しいたしますが、見つかるまでは、こちらの世界で過ごしていただくことになります」

 簡単に見つかるとは思えないが、まぁ、春休みに旅行に来たとでも思えば気は楽だろう。
 現実世界に生きる人間にとって、異世界は憧れのようなものだ。主に魔法だろうが。

「あ、そういえばお二人とも、お食事はいかがですか?」

 パメラに提案され、ふとガラスの嵌められていない窓から外を見てみると、日が傾き、薄らと夕焼け空になりかけていた。そろそろ陽が暮れるころだ。

「食べる!」
「み、未来・・・・・・」

 いつから起きていたのか、未来は元気よく起き上がり、手を上げて飛び跳ねていた。
 パメラはゆっくり微笑んだ後、小屋から一度外へ出て行った。パメラが三人分の食事を持って戻ってきたのは、それから30分ほど経ってからであるが、その間未来はずっと部屋の中を飛び跳ねていた。

「お待たせしました。修道食ですので、お口に合うかわかりませんが」

 そういって、パメラは未来と茅尋の前に食事を並べていった。
 こういったところで食べる食事というのは、パンや豆のスープ、シチューといったようなものを想像していたが、目の前に置かれたものを見て驚いた。

「え、これを普段から食べているの?」

 茅尋たちの前に置かれたのは、何かの獣の肉に、皿に盛られた白米、豆のスープ、果物、そして、水が置かれていた。

「お肉とか食べないものだと思ってた・・・・・・」
「このあたりは、野生の動物や魔物がいますので」

 魔物って食べられるのか・・・・・・。魔物って、倒されると消えてなくなるのかと思ってた。
 そう考えている茅尋とは裏腹に、未来はすでに皿に手をつけていた。
 こいつは、恐れというものを知らないのか、と考えながらも、パメラも食事を取り始めたので、茅尋も食べることにしたのであった。
 食べ終わった後、さすがにお風呂は無理ということもあり、未来たちは小屋でその日は眠ることとしたのであった。

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