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ここは某所、お洒落なイタリアン。

私はお手洗いの鏡の前で、化粧直しに余念がなかった。

「ねえ、秋香。今日のお相手は、どこの社長?」

「任せて。某一流メーカーよ。」

「本当に?」

驚きのあまり、リップが唇からはみ出そうだ。

「と言っても、下請けだけどね。」

「いや、それでもいい!社長さんだったら。」

私と同期の秋香は、鼻息荒く頷いて、お手洗いを後にした。


フロアに行くと、スーツを着た男性が、秋香に向かって手を挙げた。

「お待たせしました。」

秋香も手を挙げて、応える。

一緒に座っている人も、なかなかカッコいい。


「いいじゃない、秋香。」

「でしょう?イケメン社長なんて、滅多にないわよ。気合入れて、夏海。」

「うん!」

私達は笑顔で、イケメン社長達に近づいて行った。

ドキドキしながら、椅子に座る。

「初めまして、夏海です。」

「秋香です。」

私達の第一印象は、自分で言うのもなんだけど、よかったと思う。

相手の社長さん達も、満更でもなさそうだったから。


「白石です。」

「僕は、丸森。宜しく。」

「宜しくお願いしまーす。」

私達はイケメン社長を、ロックオン寸前だった。


「何を飲みますか?」

白石さんは気遣いの人で、メニュー表を私達向きに見せてくれた。

「じゃあ、カクテルを。」

「私も。」

本当は仕事を終わって、ビールを一気飲みしたいけれど、一杯目は我慢する。

ん?

2杯目も?

「じゃあ、俺達はビールにしようか。」

「そうだな。」

でも二人が頼んだのは、普通のビールじゃなくて、黒ビール。

私は二人に知られないように、ゴクンと息を飲んだ。

「夏海、夏海。」

「えっ?」

「目線、目線。」

知らないうちに、黒ビールを見つめてしまっていた私に、秋香が注意する。

ふふふっと、口に手を当てながら笑うと、白石さんも丸森さんも、笑顔になってくれた。

ああ、この笑顔もいい!

私はテーブルの下で、ガッツポーズをした。


カクテル二つに、黒ビールが二つ運ばれてきて、私達は出会いの祝宴を始めた。

「はい。二人は何の仕事してるの?」

「アパレル関係でーす!」

それは嘘じゃない。

本当にアパレル関係に勤めていると言っても、企画部と言って決して表に出ない。

売り子さん達や、デザイナーさん達みたいに、派手な部署でもない。


「へえ。何て言うブランド?」

「ホワイトプレンとか、ユージュアルとか……」

二人の頭の上に”?”が浮かぶ。

そりゃそうだ。

私達の会社は、有名なブランドじゃない。

マイナーなプチプラのお店だ。

社長さん達には、到底目がいかないだろう。


「あ、あんまり聞いた……見た事がないブランドだな。今度、探してみるね。」

「お願いしまーす……」

あーあ。

合コンやっている時の、この瞬間が嫌。

秋香は騙すのが嫌だって言うから、本当の事言うけれど。

こう言う時くらい、嘘ついたっていいと思う。

「そう言うお二人は?」

白石さんと丸森さんは、顔を見合わせた。

「僕は、靴メーカを経営しているよ。」

と、白石さんが言うと。

「俺は、スーツ。よく二人で服と靴の合わせについて、語っているよ。」

私は、思わず手を頬に当てた。

「いやん。お二人もアパレル関係だったんですね。」

そうなると、趣味や話も合う機会が多い。

ちらっと秋香を見ると、ウィンクをされた。


「そう言えば、どうして秋香と知り合ったんですか?」

その時、秋香と白石さんが、二人で微笑んだ。

「僕の靴屋に、秋香さんがお客様としてやってきてね。意気投合したんだ。」

と言う事は、秋香の相手は白石さんって事ね。

私がちらっと丸森さんを見ると、相手と目が合った。

思う事は、一緒のようだ。


よし!

私は丸森さん狙いに決めた。


「丸森さんは、どうして参加されたんですか?」

「うーん。」

丸森さんは、飲み物を飲み干して、テーブルに置いた。

さりげなく、ウェイターさんを呼ぶ。

「すみません、同じ物を。」

「えー……」

ウェイターさんは、困っていた。

確かビールだったよね。


すると丸森さんが、メニュー表を出して何かを指さしていた。

その恰好が、なんとも悩ましいくらいにセクシーだ。

うん。

何だか、今日は丸森さんに会えて、ラッキーな気がする。

ウェイターさんが言ったところで、丸森さんが私を見た。

「えーっと、何だっけ。」

「合コンに参加した理由だよ。」

さりげなく白石さんが、フォローする。

「そうだった。ほら、こういう仕事していると、異性と知り合うきっかけもあまりないでしょ。だから。」

「へえ~。」

と言う事は、職場は女性少な目?

益々、いいじゃん。


「夏海ちゃんは?」

「私も同じような理由です。男性と知り合う機会が少なくて。」

男性と言っても、”社長”限定だけどね。

まさか、自分の会社の社長とは出会えないし。


「そう言えば、飲んでる?あまりお酒が減ってないようだけど。」

「大丈夫です!私、ゆっくり飲むタイプなんです。」

丸森さんには、大酒飲みだとは思われたくない。

私は、本当はビールをがぶ飲みしたい気持ちを押さえ、頬に手を当てた。


合コンが始まって、1時間ぐらいだろうか。

男性陣はビールから飲み物が変わった。

私達も、カクテルをお替り。

秋香と白石さんも、いい感じだし。

私も、丸森さんといい感じになりたい!


「丸森さんは、どんなタイプがお好きですか?」

「そうだな、優しくて明るい子かな。」

そんな、誰にでも当てはまりそうなタイプを、聞いているんじゃない!

私が、丸森さんのタイプかどうか、知りたいんだよー。

「ちょうど、夏海ちゃんみたいな人かな。」

「えっ……」

その時だった。

恥ずかしそうに手を口に当てようとして、カクテルを持っている事を忘れた。

ガシャーン!

目の前が、シーンと静まり返る。


「ちょっと、夏海。大丈夫?」

秋香が急いで、服とテーブルを拭いてくれた。

「す、すみません。」

私も慌ててテーブルを拭く。

気が付くと、丸森さんが自分のハンカチで、私のスカートを拭いてくれていた。

「ま、丸森さんっ!」

「早く拭かないと、シミになっちゃうからね。」

そう言って、丸森さんはニコッと笑ってくれた。


優しい!!

しかも自分のハンカチで、拭いてくれるなんて!


「あっ、私そのハンカチ、洗ってお返しします。」

「ああ、大丈夫だよ。このくらい。」

次に会うチャンスが欲しかったのに、あっさりとポケットに入れられてしまった。

「もう。夏海のおっちょこちょい。」

「本当にすみません。」

私は、丸森さんに頭を下げた。

「いやいや、あんな事言ったら、誰だってびっくりするよね。」

こんな時まで、丸森さんは優しい。

ああ、私。

丸森さんの事、好きになっちゃいそう。


でも問題は、直ぐに起きた。

「ハイボール、お持ちしました。」

「ハイボール?」

白石さんと丸森さんが、顔を見合わせる。

「誰も頼んでないけど。」

「あっ、いえ。こちらのお客様が……」

そう言ってウェイターさんが手を差し出したのは、私だった。


「あれ?丸森さん……飲んでいたのって……」

「ウィスキーだけど……」


はぁああああ。

間違って、頼んでしまったああああ。


「ハイボールって、居酒屋か。」

「まあまあ。」

肝心の丸森さんも、苦笑いをしていた。

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