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急に訪ねてきた叔父にびっくりした真理だったが、叔父の持ってきたニュースを聞いた瞬間、表情を強張らせた。
「いやよ、絶対にいや」
即断した答えにロナルドは苦笑しつつも、その答えを許さないように頭を左右に振った。
「アメリア、君の心配は分かっている。でもやんごとなきお方は秘密は絶対に守ると約束してくれている」
「人間に絶対はないわ」
イラッとしたように達観したことを言う姪を、ロナルドはソファに座らせると、自分も腰をおろし宥めるように肩を抱き寄せた。
「王室からの招きだ。名誉なことだよ。君の想いや信念を伝えるには、最高のチャンスだ。それに私的な勉強会だから、報道は立ち入れない」
「でも!!」
小さくて華奢なのに、重いものを持つせいで、荒れてゴツゴツした真理の手を握りしめるとロナルドは続けた。
「俺が軍に呼び出しを受けた以上アメリアも軍に目をつけられてると思う」
軍と聞いて真理は身体を強張らせた。
「軍にあのことがバレて、結果ハロルドの正体が世間に知られるよりは、王室府に守ってもらった方が良いと、俺は思う」
「この間、変な男につきまとわれて、、、ほとぼり冷めるまで日本に帰ろうかと思ってたのに」
真理は諦めたような声音で言った。
「つきまとわれたのか⁈大丈夫だったのか⁈」
姪の思いがけない言葉にロナルドは目をひん剥いた。
「ええ、軍人ぽくないチャラチャラした感じなのに、動きは、、そうね、護衛官みたいだった」
「それで、どうしたんだ?」
驚いた表情の叔父を、その時ばかりは真理はいたずらっぽい笑みを浮かべて見返すと
「喉元に蹴りをいれるフリして、振り切って逃げたの」
ふふっと笑う姪に、ロナルドは額に手を当てて天井を仰ぎ見て言葉を継いだ。
この姪なら平気でやれるだろう。なにしろ護身には長けているのだ。
「なら、なおのことこれ以上変なことに巻き込まれる前に、今回の申し出を受けた方がいい」
「どうして」
「ハロルドの正体は王室府の外には絶対に漏らさない、軍に干渉させないよう約束してもらったから」
「そう・・・」
真理の逡巡する気持ちは痛いほどロナルドにも分かる。
軍の目的が本当に救助者探しなのか、それ以外に何か目的があるのかは分からない。
今はまだ負傷兵を助けた人間が自分の姪だとはバレてないし、その姪がハロルドとは気づいていない、、、と信じたい。
しかし、助けたのが真理だとバレればそれがハロルドであると自然に結びつく。
そうなればハロルドの正体が真理とバレるのは簡単なことだ。
【ハロルド】の正体を嗅ぎまわる人間が真理に気づくのが先か、、、
軍が真理から【ハロルド】に気づくのが先か、、、
いずれにしても、多分時間はない。
何が安全かは判断がつきにくいが、今はこの国で1番安全なところに身を委ねる方が良いと、こんこんとハロルドは話した。
数分、ずっと黙りこくり床を見つめ続けていた真理は、今度こそ本当に諦めたように口を開いた。
「わかったわ。ドレスコードってあるの?」