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第十八話 進化


 柔らかな感触だ。

 たしか、コボルトとゴブリンとオークに名付けを行った。
 今までと同じように、長と若頭に名付けを行った。配下の者には、”フリークス”を名乗らせる。

 ここまでは覚えている。
 コボルトとゴブリンとオークの若頭が進化の眠りに落ちたところで、俺の記憶も途絶えている。

「リン。起きた?」

 頭の上から声が聞こえてくる。

「・・・」

「リン?」

「ミル?」

「うん。よかった。急に倒れたから心配だった。なんか、猫が鳴いていたけど、わからなかったから、リンが寝られるように、膝枕した・・・。駄目だった?」

「ありがとう。膝枕なんて初めてだからびっくりした」

「・・・。リンの初めて・・・。嬉しい」

「ミル?膝枕が初めてってことだからね」

「うん。解っているよ。リンの初めての膝枕が僕の足。嬉しい」

 ミルが喜んでいるから、これ以上は突っ込まないことにした。
 ロルフが足下に来た。

『マスター。猫型精霊のロルフです』

「ん?解っているよ。それで?」

『ヒューマが、各種族をまとめ(説得し)ました』

「反発は無いのだな?」

『ありません。祠を守護し続けた実績で、眷属の主席は、ヒューマが務めることになりました』

「わかった。皆が、それでよければいい」

 膝枕から離れて、立ち上がると、目の前に種族のトップが並んでいる。
 振り返って、ミルを見ると何が嬉しいのか、ニコニコとしている。

「マスター」

「ヒューマ。皆の統率を頼む」

「は」

 ロルフは、神殿側の精霊だと言いたいのだろう、魔物の列には並ばない。俺の横に佇んでいる。
 ヒューマを先頭にして、アウレイアとアイルが二列目に居る。よく見ると、リデルは新しく眷属になったオーク(ジャッロ)の肩の上に乗っている。豚人間とも言われる、オークだが進化が終わったのか、俺が知っているオークからかけ離れた姿になっている。少しだけブサイクな人族だと言われても通ってしまいそうだ。身長が、2メートルを越えているのを除けば、十分通用するだろう。
 ジャッロ(オーク)の横には、ゴブリン(ヴェルデ)だろう。ゴブリンから進化したようだ。着ている物が腰布だけなので、貧素に見えるが十分に人族に見える。ジャッロのように全身鎧を身にまとうだけの体力が無いのだろう、着るものの調達を考えなければならないだろう。身長は、俺よりも少しだけ低い感じだ。成人男性だと言えば通りそうではある。
 最後は、コボルト(ビアンコ)だ。変化が一番大きい。犬の様な顔が、いたずら好きの子供のようになって居る。身長も6-7歳の子供のようになっている。

 3人?は、オスだが、群れには、雌も当然居る。雌は、姿が女性型に進化した。着るものは、今まで襲ってきた”人族”の物があるので、それを着るように指示を出した。

「ジャッロ。ヴェルデ。ビアンコ」

 3人?の名前を呼んだ。
 全員が、嬉しそうな表情をして、俺の前に出てきて跪く。

「マスター。3種族。無事に進化が終わりました」

 ヒューマが、代表して説明してくれている。
 どうやら、3種族はヒューマに進化の方向性を相談したようだ。そんなことが出来るのかと思ったが、出来るのだろう。ヒューマや、三種族の代表が決めたのは、”祠”を守り切る方法だった。ヒューマたちリザードマンは、祠を守りきった。しかし、オークやゴブリンやコボルトは守りきれなかった。人の姿になるものと戦闘力を増す者とに別れた。そこに、オーク族にはリデルの眷属を協力させることで、諜報力を増加させる。ゴブリン族にはアイルが協力することで、戦闘力と機動力を増加させる。ゴブリン族には、アウレイアの眷属とアイルの眷属の一部が協力することで、戦闘力と機動力が増加する。

 俺が倒れて、ミルの膝枕で寝ている間に、種族間で話し合いが行われていた。

 結果として、代表者(?)と数名(?)の眷属はマガラ神殿に移住する。リザードマンは、そのまま”祠”を守る。戦力を増やすために、オークとゴブリンとコボルトの一部が近くに移住する。
 残った眷属は、ポルタ村の近くに移動して、ポルタ村の警戒と村への嫌がらせを行う。アウレイアとアイルの眷属は、ポルタ村の周辺とマガラ神殿に分かれて生活する。

「ミル。そうなると、村の近くにある森が無防備になるけど?」

「ん?気にしなくていい。勝手に滅べばいい。今まで、オークさんやゴブリンさんやコボルトさんたちが、森の資源を調整したり、驚異を排除したり、守っていたのに、”魔物”という一点で排除しようとしていた村なんて滅べばいい」

「姉さん」「姐さん」「・・・」

 ジャッロやヴェルデやビアンコは、ミルを”姐さん”呼びになっている。

「マスター」

 俺に意見が欲しいようだ。

「俺の希望は、マガラ神殿と繋がる転移門を置く祠を守って欲しい。それ以外は、ヒューマに任せる」

「はっ。承りました」

 眷属たちが立ち上がって、それぞれの種族に命令を出している。

『マスター』

「どうした?ロルフ?」

『はい。マガラ神殿への移動を行いますか?』

「そうだな。ミル。墓参りに行こう」

 ロルフが俺の肩に飛び乗ったので、移動を始めると思ったのだろう。

「え?僕?」

「ミルの両親だ。日本の両親には、詫びを入れられないから、こっちの両親には挨拶をしたい。駄目か?」

「駄目じゃない。こっち。でも、お墓は、あるけど・・・」

「そうだよな」

 俺の両親にも墓はあるが、名前を掘ってあるだけだ。
 遺骨はどこにあるのかわからない。形だけの墓標だ。それでも、墓は墓だ。今から、俺がやろうとしていることは、許される内容ではない。しかし、俺は決めている。許されるとは思っていない。報告をしておきたい。ミルが迷わないように頼んでおきたい。そして、恨むのなら俺だけを恨んで欲しい。

「リン。いいの?僕の両親は・・・」

「お祈りをさせて欲しい」

「わかった。こっち」

 村から離れた場所のようだ。
 墓標が作られている。名前は掘られていない。和葉の記憶が蘇る前だったのだろう。

「ここか?」

「うん」

 ミルが示した墓標の前で跪いて祈りを捧げる。
 そして、これから俺がやろうとしている内容を告げて、詫びを告げる。

 俺が祈り始めると、ミルは俺の横で同じように祈り始める。

 俺が顔を上げると、ミルが俺を見ていた。

「・・・。リン。行こう」

「そうだな。行くか?」

「うん」

 ミルが手を出してくるので、手を握って立ち上がる。
 ロルフが勢いよく、俺の肩に飛び乗る。

 少しだけ歩くと、ヒューマが待っていた。

「マスター。我らは、先に”祠”向かいます」

「そうだな。俺とミルとロルフと・・・」

『マスター。護衛として、アウレイアとアイルを連れていきましょう。リデルは、ヒューマと一緒で良いと思います』

「アウレイアとアイルは、俺とミルの護衛として一緒に行く」

 皆が頷いてくれたので、方針はまとまった。
 アウレイアとアイルなら、犬や狼だと言える。それに、テイムをしたと思わせることが出来るだろう。

 俺とミルとロルフたちは、街道を歩いていく、馬車の調達は難しい。荷物は、ミルが使っていた袋に必要な物を移し替えて使うことにした。俺が持っている物は盗賊だけではなく、商人にも目を付けられやすい。絡まれた実績もある。
 アウレイアとアイルが荷物を背負うと言ったが、俺が持っていくことにした。二匹には警戒をしつつ護衛をお願いした。
 移動する時に、襲ってくるような魔物は、二匹でも十分対処は可能だが、俺とミルも戦闘訓練やスキルのレベルアップのために、戦うことになった。

 行きと違って、ポルタ村には寄る必要がないので、マガラ神殿に繋がる祠をまっすぐに目指す。
 それでも、10日ほど必要になってしまった。主に、戦闘訓練を行う時に、ロルフが熱くなってしまって、何度も何度も繰り返して日数を使ってしまった。

 ロルフが言うには、この辺りの森に”祠”があるというので、迎えが来るのを待つことにした。

『マスター!』

 俺を見つけた、リデルが木の上から話しかけてきた。
 リデルの案内で”祠”に向かった。

 祠の周りは、以前のように開けた場所ではなく、木々や不自然な川で守られるような状態になっている。要害になっている。

 川を渡るには、アイルやアウレイアの背に乗って飛び越えるしか無い。
 その上で、生い茂る木々が邪魔して前に進めない。地形も平坦ではなく、でこぼこになっている。木々も100メートル近い層になっているために、突破も一苦労だろう。その上で、上からは、リデルの眷属が攻撃を仕掛ける。機動力を備えた、アウレイアやアイルの眷属が、コボルトたちを載せて木々の間を縫うように移動して攻撃してくる。そこを抜けても、石壁で覆われた、祠があり、1メートル程度の幅しかない通路を抜けなければならない。
 突破はほぼ不可能だろう。
 通路を抜けられたとしても、リザードマンやオークやゴブリンの進化体が待ち構えている。

「ヒューマ。よくやった」

「はい。祠は万全な状態です。安心してください」

「そうだな。それでは、マガラ神殿に行く!」

『はっ』

 俺の呼びかけに、眷属たちの声が答える。

 俺は、ミルとロルフと一緒に魔法陣の上に乗った。

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