前略、ミドルイーストの大地にて
2016年初頭ーー
えるのさん達がイラク某所で囚われていた人々の救出の遠征から半年が経った。
決してテレビのニュースで報じられることも無い妖精たちの救出ミッション。
そして中東の遠い彼方でうまれた憎しみと報復の狂気の連鎖を世界の多くの人々の記憶の隅へと押しやられる頃、いまだ少なくない人々が彼の地で戦っている。
そう、少なくない妖精さんたちも共に。
連日の空爆で瓦礫の山と化した街並み。
この街もかつては太古から歴史ある栄えた商業都市だった。
以前の面影は今は・・・ない。
そんな瓦礫の片隅に小さな人影が倒れていた。
微動もせず動かない。
「そこのキミ、大丈夫かい?いまそっち行くから待ってて!」
バスケットを抱えた『ニヨン』が倒れている人影に駆け寄った。
『ニヨン』は作戦行動中に怪我を負った妖精達の救護担当だ。
戦場でチャイムと呼ばれる武器を手に彼女らの敵、ジャムと戦う事は無い。
しかし、任務を無事に済ませて一人残らず帰ってこれるのは彼女達メディックが居るからだし、『ニヨン』も一人残らず連れて帰る事を誇りにしていた。
「もう大丈夫!一緒に帰れるからね!」
声を掛けながら肩を掴んだ瞬間にニヨンは違和感に気付いた。
虚空を見つめた瞳。
腹部に大きく開かれた穴。
そして鈍く光る鉛色の円筒。
人形?!
その瞬間、『ニヨン』と人形は乾いた破裂音と共に四散した。
イスラム国、ISISは卑劣にも市街地にすむ小さな子供達を新たな標的にしはじめた。
人形に爆薬(おそらくは信管)を詰め手に取る子供を殺傷する手段に。
ブービトラップ。
直訳すれば愚か者の罠。
はるか昔、第二次世界大戦中にナチスドイツが占領地から撤退する際に対人地雷をセットしその上に万年筆を置いた。
万年筆を土産に取ろうとすると爆薬する置き土産。
注意不足な馬鹿が引っかかる、としてブービートラップ「愚か者の罠」と名付けられたそれは今は幼い子供を狙った卑劣な手段だ。
そして人々の間に新しく語られ始めた妖精たちの活躍の噂を抑える目的にも。