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クルちゃんと惑星ジェルダ Fractal.4

 
挿絵


 クルちゃんとラムスちゃんは、宣言通りに席を外した。
 残されたんは、ウチとリンちゃんとロッポちゃん……それにハッちゃんや。
「んで? わざわざ追って来るって、何だッつーのよ? エルダニャ?」
「うむ、どうしても伝えるべき事があってのう」
「お笑い芸人になる決心でもした?」「ハッちゃん、年末芸人大会に出るのん?」
「違うわッ!」
 何や? (ちゃ)うのん?
「コレじゃ! コレを伝えに来たのじゃ!」
 揚々と〝カラフルな立方体〟を取り出すハッちゃん。
()が愛機〈リヒアーク〉専用の格納庫(ドッグ)から、斯様(かよう)な物が発掘されてのう」
「何なん? これ?」
「各面が色違いな立方体じゃん?」
「フフフ……コレは単なる立方体ではないぞ?」
「そう言われても、見た目には単なるオブジェにしか……って、まさか!」
「どないしたん? リンちゃん?」
「〈大樹神(だいじゅしん)〉〈濁酒徳利(どぶろくとっくり)〉──これまでも、予想外の物体に擬態していたわ」
「ええ? せやったら、コレが今回の〈ネクラナ──」
「そう! コレこそが旧暦に大ヒットしたアイテム〈ロービックキューブ〉(なり)!」
 甲高い破裂音がスパーーン!
 間髪入れずにハリセンアプリが叩き込まれた……ハッちゃんの顔面に。
「わざわざ旧暦玩具の立体パズル見せに来たってか? ああん?」
 ハリセンをパシンパシンとメトロノーム刻みにしつつ、ハッちゃんを威圧に見下すリンちゃんの殺気。
 怖ッ!
(そろ)えたのじゃ! 自力(じりき)(そろ)えたのじゃ!」
「だったら、何だ!」
「うむ、見て欲しい」
 悪びれずに言うた。
 この人、めげへん!
「フフフ……では、()が腕前を披露(ひろう)してやるとするか」
 自己満足に進めたよ?
 見る言うてへんよ?
「モモカよ、コレをグチャグチャに掻き混ぜるが()い」
 手渡された立方体は、一面辺り九立方体にパーツ分割されとる仕様や。それをガチャガチャ回すと、各面が雑多な入れ代わりに細かいランダムカラーを構成する。
「やったよ?」
「うむ、御苦労。フフフ……(おどろ)くでないぞ? まずは、各パーツをバラしてだな」
「のっけからプレイスタイルが違うわーーーーッ!」
 フルスイングハリセン、スパーーン!
 女王様の顔面、クリーンヒット……。
「回すの! コレは回して(そろ)えるんだッつーの!」
「何と! そうであったか! では、無理じゃな?」
 投げた!
 一考(いっこう)も無く、淡白に投げた!
「ウホホー★」
「ロッポちゃん揃えた! ものの数秒で揃えた! 六本腕を使(つこ)うて! スゴい!」
「うむ、見事である!」
「……ゴリラに知恵で負けんな、エルダニャ」
 と、リンちゃんは忘れていた事に気がついたようや。
「そういえば、ロッポ? アンタ、アタシ達を何処へ連れて行こうとしてたワケ?」
「ウホホ、ウホ、ウホホホホ!」
 リンちゃん、また表情曇った。
「モモ!」
(わか)らへんよ?」
「やっぱり、このオチかーーッ!」
「フム? なるほどのぅ?」
「って、エルダニャ? アンタ、言葉(わか)るの?」
「何じゃ? リンよ、(わか)らんのか?」
(わか)るか! ってか、アンタは何故(わか)るッ?」
「通訳が()るからのぅ?」
「は? 通訳?」
 誰?
 ハッちゃん、妙な事を言い出したねぇ?
 此処に()るの、ウチとリンちゃんとロッポちゃん……それから、ハッちゃん自身だけやん?
「何処にいんのよ? 通訳なんて?」
「先程から()るではないか?」
「だ~か~ら~! 何処に……って…………」
 リンちゃん、言葉失った。
 ウチも失った。
 ロッポちゃんもドン引きしとる。
 ハッちゃんの周り、オーブ飛び始めた!
 この人、霊界通信で通訳してはった!
「どうじゃ! ()が専属整備士の有能さは! 実に多才! 実に有能! 今回ばかりは、御主(おぬし)(たち)も認めざる──って、何処へ行くッ?」
 草むらや!
 草むらへ脱兎や!
 全員、恐怖に避難や!

 ひとまず落ち着いて、ハッちゃんの話を聞いた。
 オーブはんには席を外してもらうとして……。
「つまりじゃな? こやつの集落に、我等(われら)と同じ〈人型生命体〉が()るので会わせようとしたらしいのぅ?」
「は? アタシら以外に?」
「うむ」
「……どういう事?」
 親指を噛んで思索するリンちゃん。
「この惑星(ほし)に〈高度知性体〉は、原則としていない……あの〝ラムス〟とかいう〝イケズブリブリ毒舌ビッチスライムメイド(くたばれ)〟は特異例…………」
 何気にエラくディスっとるよ?
「だとすれば、考えられるのは……アタシ達と同じ〈来訪者〉って事か?」
「ウチら以外に? どないな人やろ?」
「う……ん、確認してみたいけど……クルから面倒起こすなって言われてるし、動くワケにも……」
「わかった! せやったら、ウチが確認して来る! リンちゃんは此処で待っとって? ロッポちゃん、行こう!」
「ウホ!」
「うん、御願い……って、モモーーッ? 違ーう! 一番動いちゃいけないの、アンタ(・・・)ーーーーッ!」
 何やリンちゃんが叫んどったけど聞こえへん。
 とっくに後方や。
 ロッポちゃん、意外と駆けんの速いねん。



「此処がロッポちゃんの集落?」
「ウホ!」
 やっばり森の中に(ひら)けた場所やった。
 せやけど、ポヨコちゃんトコと(ちご)うて鬱蒼(うっそう)としている。
 周囲を樹林に囲われとるのと、そもそも敷地面積が狭いからやろね?
 ポヨコちゃんトコが〝草原の周囲に樹々が囲っとる〟と形容するなら、ロッポちゃんトコは〝密林の中を()(ひら)いた〟いう感じや。
 ほんでもって、やっぱりロッポちゃん達がウロウロしとる。
「ふぇぇ? こんなにたくさんのロッポちゃんが()ったら、ウチ(わか)らへんようなるよ?」
「ウホゥ?」
「あ、せや! ウチ、閃いた!」
「ウホ?」
 ウチ、ロッポちゃんの頭に赤いリボンを(むす)んだった。
「えへへ ♪  コレで(わか)るよ?」
 ロッポちゃんは、しばらく不思議そうに(なが)め──「ウホ ♪ 」──満足そうな様子や。
 そんなしてたら、いきなり大きな音が()()らされた。
 コレ、銅鑼(ドラ)やんな?
 誰が作ったん?
 一転して周囲が慌ただしくなる。
 全員が作業中断に集まり、集落中央に据えられた大きい切り株へと(かしこ)まった。
「何が始まんのん?」
「ウホホ、ウホ、ウホホホホ」
「さっき言っとった〝人〟が出て来んの?」
「ウホ!」
「その人、(えら)い人なん?」
「ウホホ」
「ふぅん? ある日現れて、そのまま〝女王〟になったんや?」
「ウホ……」
「それ、ロッポちゃん達が決めたんやなくて、その人(・・・)が勝手に名乗ったん?」
「……ウホ」
「そうなんや? 迷惑な話やんね?」
「ウホゥ……ウホホウホウホ」
「ほんでもって、毎日の惑星探索を義務化されて報告せなアカンの?」
「ウホ……」
「地脈エネルギー値が高いトコなん? ()探しとんのやろ?」
「ウホゥ?」
「それは(わか)らへんのや?」
「ウホ!」
「そんなんで、ポヨコちゃんの種族とも反目したん? あ! せやから森の中で遭遇した時、二人共(ふたり)とも喧嘩(ケンカ)(ごし)やったんやねぇ?」
「ウホゥ! ウホウホ!」
「う~ん……せやけど、そりゃロッポちゃん達がアカンよ? 勝手に縄張り荒らされたら、ポヨコちゃん達かて面白ないよ? ウチかて、勝手に自分の部屋に入られたらイヤやもん」
「ウホホ……ゥゥ」
「逆らったら、お仕置きされるん? アカンやん! そんなん、イジメっこや!」
「ウホゥ……」
「うん、ウチは分かったよ? ホントはロッポちゃん達かて、したくないねんな? 言われたから、しゃーなくや」
「ウホホホホ……ウホ?」
「説得? ウチ『もう自由にしたって』って言えばええのん?」
「ウホ……」
 ロッポちゃん、申し訳なさそうに沈んだ。
 せやねぇ?
 いままで大自然で仲良ぅやってきたのに、いきなり身に覚えの無い王権制度を強要されたら(たま)らんねぇ?
 コレ、可哀想やんな?
「うん、分かった★ ウチ、お願いしてみる ♪ 」
「ウホ?」
「ええよ? 友達やもん」
 ややあって、切り株ステージに〈女王様〉が現れた。
 べっぴんさんや。
 全体的に華奢(きゃしゃ)で繊細な印象やねん。フワリと銀色の長髪が泳ぎ、繊細でスレンダーな肢体を白い〈PHW〉で包んどる。
「……あれ? この人、どっかで見た事あるね? ドコでやろ? う~ん?」
 ウチが記憶を手繰(たぐ)っとると、謎の女王様は眼前に(かしこ)まっているロッポちゃんの集団へ向かって揚々(ようよう)と名乗り始めた。
「聞け、忠実なる私兵共よ! ()が名は〈ニョロロトテ──」
「ああ! せや! やっぱりニョロちゃんや!」
「──誰だ、オマエは?」
 怪訝(けげん)そうな表情へと染まるニョロちゃん。
 ウチ、一団の最後列からトテテと近寄った。
「また会えたねぇ? えへへ ♪ 」
「……誰だと()いている」
「ウチや★ 〝()(さき)モモカ〟や★」
「何処かで遭遇したか?」
「覚えてへんの?」
「知らぬ」
「ふぐぅ……ヒドイやん! アレやん! 惑星レトロナで()うとるやん!」
「覚えは無い」
「ウチ〈ミヴィーク〉で戦ったよ?」
「ミヴィーク?」
「もう! シャチ型宇宙航行艇(コスモクルーザー)の事やん!」
 ウチ、プリプリや!
 激オコぷんぷんや!
 ニョロちゃんは、(しばら)く脳内記憶を反芻(はんすう)して──「ああ、アレ(・・)か」──ようやく思い出したみたいやった。
 えへへ ♪

 ウチ、捕まった……。

しおり