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戦え!魔法少女

仲良くなった店員さんの手で紺色のワンピースを着せてもらい、そのお店の会員証と水色の買い物袋を手に店を離れるふたり。

下りの狭いエスカレーターの上でトートバッグの中に居る吉澤が突然口を開いた。

『なあ、俺にも周りの様子見せてくれないか?』

「どうやってだよ?」

『胸ポケットに入れてくれれば見渡せる』

「えっ?こんな人混みで?めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。」

『頼むよ、狙ってくる追っ手とか探せるだろう?2つの目より4つの目があったほうが安全だろう?』

「却下します」

『なんでだよ、危険が迫っているかも知れない中、危険を見つける目は多ければ多いほどいいだろう?』

確かにそうかもしれないが・・
でも大の大人が胸ポケットに人形差してあるく景色は、ちょっと、ねぇ。

吉澤の携帯がその時鳴った。
電話かとおもったけど1秒かそこらで切れた。
メールだ。

「急いでUDXビル地下の駐車場に逃げてください」

「一課6係 峯岸」・・・ 発信者は護衛についている刑事からだった。

高梨の胸の奥で湧き出でてくる不安と焦燥。

『ほらみろ!急いで、でも走らないで小走りでこの先の ビルに向かって!絶対に振り向かない、気付いたと思われない様に、さあ早く!』

そう吉澤はハッパかけた。

『俺を胸ポケットに!早く‼︎』

乗る筈だった電車の改札口を通り過ぎ、次のブロックにある指示されたビルに急ぐ。
そして、吉澤を胸ポケットに入れた。
太腿までしか入らない吉澤はちょっとバランスが悪い。
空いている手で吉澤を押さえながら歩く。

通り過ぎる通行人の視線が痛い。
と、思いきや意外とそうでも無い事に高梨は驚いた。

「もっと奇異の目で見られるんだと思ってた」

『この街じゃそんなもんだろうね。思いの外他人のことは気にしないんだと思うよ』

メイドさんやネコ娘などアニメだかオリジナルなのかわからない格好をした人間が跋扈している街、胸に人形を差して歩く人間なんてそんなに奇妙な風でも無いのかもしれない。

「まあ、男の娘とか居るしなぁ」

エレベーターで指示された地下階に着いた。
地上でも原色賑やかな景色とは対照に地味で落ち着いた世界。

エレベーターの中には一緒に乗ってきた人間はおらず、尾行されていたとしてもこれである意味巻いたと思う。

なるほど、あの峯岸という刑事は尾行をまいて、更に人気の少ないこの場所で他の通行人に怪我をさせずに相手を捕らえようという判断か。

去っていったエレベーターの行先案内板を見て、ひょっとしてここで待ち伏せすれば相手を捕まえられるかもしれない・・・

高梨はふとそんな事を思ったがその時耳にしたタイヤのスキール音でそんな思いは一瞬で吹き飛んだ。

目の前の曲がり角から一台のスバル、インプレッサが横っ飛びで飛び出してきたのだ。

四輪から白煙を上げドリフトしながら現れた紺色のインプレッサ。馴染みのあるラリー車の塗装ではなくて、ボンネットにはアニメ美少女のイラストがデカデカと描かれている。

いわゆる痛車だ。

魔法少女が飛びっきりの笑顔で俺を殺しにやってくる。

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