ペット候補は候補であって候補でしかない
僅かな時間ではあるが、ハードゥスから離れることをネメシスとエイビスに伝えた後、れいは久しぶりに外の世界に出た。
現在の外の世界は、以前と比べると力の濃度が薄い。創造主が無茶なことをして力の補充に躍起になっているが、それでは到底足りていない。
それ故に、無駄ではないのだろうが、れいから見て創造主は随分と無駄なことをしているように思えてくる。
そもそもの話、外の世界の膨脹がかなり急激なために創造主の力が全く足りていない。その様子はいっそ滑稽なほどだ。
おそらく外の世界の膨脹速度に対応出来るのは、れいの本体ぐらいのものだろう。それぐらいに現在の外の世界が拡がる速度は速く、内側を満たすはずの力が追い付いていない。
とはいえ、その程度ではれいにとっては新しく生まれるペットが弱くなる程度の弊害しかないので、特に関与するつもりはない。むしろ力の濃度が薄い分、漂流物が溶けていく速度が上がるのでメリットの方が大きい気がする。
一瞬で新しく誕生した存在の前に移動したれいは、誕生して間もないそれに目を向けた。
それは簡単に言えばデフォルメされた熊だろうか。いや、より分かりやすく言うのであれば、くまのぬいぐるみか。それにカラフルな翼が生えている。
くまの高さはおよそ一メートル。翼は広げた状態だと横幅が三メートルはありそうだ。
翼をはばたかせて飛んでいるが、どうやらそれだけで飛翔しているわけではないようだ。特殊な力をその身に秘めているらしい。
「………………ラオーネ達と比べて、秘めた力がどこか俗っぽいですね」
それを観察していたれいは、なんとも微妙そうな表情を浮かべる。
れいのペットであるラオーネ達もその身に特殊な力を秘めているのだが、そちらと目の前の存在を比べると、ラオーネ達の力の方が神秘的な印象を受けた。
何故だろうかとれいが観察してみると、どうやら原因は創造主に少しあるようだった。
「………………わざと世界を消滅させている弊害ですか」
わざわざ世界を創り、育てて破壊する。そういったことを創造主が繰り返していた結果、創造した世界で管理者が創った力が世界に拡がってしまい、ごく僅かだか外の世界に溶けきる前だったその力が誕生の際に混ざってしまったらしい。
不純物。その答えに行き着いたれいの頭にそんな単語が浮かんでくる。
「………………つまりこれを飼う場合、まずは不純物の撤去から始めなければならないということですか」
ため息でも吐きたくなるのを堪えて、れいはさてどうしたものかと考える。今までの経験からして、交渉する際に最初にれいの力を見せつけなければならないようだが、しかし今回は相手が弱すぎた。
力の調節は最近特に力を入れている部分ではあるが、それでもまだ弱すぎる相手に使うには心許ない。
うんと首を捻って考えたれいは、相手の力の倍であれば大丈夫だろうと結論を出す。あまり弱すぎてもいけないので、おそらくその辺りが妥当だろうと信じて。
そういうわけで、早速れいは相手の力を読み取り、おおよそ倍の力になるぐらいの力を開放する。
れいが力を開放すると、好き勝手に飛び回っていた相手がびくりと身を震わせて動きを止める。それを確認したれいは、ゆっくりと相手に近づき声を掛けた。
「………………言葉が分かりますか?」
弱い相手なので万が一を考えて確認を取ってみれば、相手は震えるように小刻みに首を縦に振った。
その反応に、言語を操れるかどうかは別にしても、理解出来る程度の知性は持ち合わせているようだと安堵する。
「では、貴方に二つの提案があります。一つはこの場での消滅。二つ目が私に飼育されること。さぁ、貴方はどちらがいいですか?」
不純物が混じっているからか、はたまたラオーネ達より弱いからか、れいは些か乱暴にそう問い掛けた。もしかしたら急に面倒になったのかもしれない。
その真意は定かではないが、相手は突然二択を迫られたことに唖然とする。それも少しすると状況が理解出来たのか、ガクガクと大きく震えはじめた。
そんな相手の様子に、れいは何を思ったのか言葉は理解出来てもしゃべられないのだろうと考え、再度問い掛けるので、望む方を頷けということを話した。そして、数秒考える間を置いて。
「この場で消滅しますか?」
その問いにガクガクと震えながらも、相手は何とか首を横に振る。
「では、飼育されるということでいいですね?」
それは問いではなく確認だと声音が語るが、相手は何をされるのかと恐ろしくてこちらも首を横に振った。
「ふむ。それは困りました」
その回答に、れいは興味なさげにそう口にする。もう面倒なのでこの場で消しましょうかと考えるも、もしかしたら何かに使えるかもしれないとも考える。
僅かな間思案したれいは、相手の強さを改めて確認した後に近場の世界に強制的に飛ばしてみることにした。
「………………強さ的には若い管理者数名分。世界の破壊ぐらいは出来そうな強さですし、まぁ余興ぐらいにはなるでしょう。偶々近くに妙な動きをしている創造主のお気に入りの世界が在ったのは本当に偶然ですし」
誰に対して言っているのかそう口にしたれいは、一度羽の生えたくまのぬいぐるみを飛ばした世界を確認した後、興味が失せたようにさっさとハードゥスに戻るのだった。