10話
全ての授業が終わった。ホント、初日なのに色々ありすぎだろ。いや、逆か。初日だから色々あったのかもしれない。
ディアン「今日は帰ってゆっくりしよう………。あれ、待てよ?」
そう言えば肝心なことを忘れていた。
ディアン「どうやって帰ればいいんだァァァァァ!!」
しまった。完全に盲点だった。え?どうすりゃいいのこれ?ロストさんの瞬間移動で来たから、帰り方なんて知らないぞ。
???「あの、ディアン」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。
ディアン「は、はい!!」
俺は驚いて振り返った。
ディアン「あっ、なんだ!フレイヤじゃん!どうしたの?」
フレイヤ「アンタってアルビオンから来たのよね?」
ディアン「うん。そうだよ…」
ハッ、そうだ!フレイヤに聞けば良いんだ!
ディアン「そうだフレイヤ!いい所に来たよ!俺、帰り方が分からないだ!教えてく────」
あっ、しまった。帰り方も分からないのにどうやって来たって聞かれるやつだこれ。
フレイヤ「はぁ?じゃあどうやってきたのよ?」
ディアン「あっ、えっとー…(やっぱり聞かれた)」
フレイヤ「そもそもなんで分からないのよ?子供でもアルビオンの行き方ぐらい分かるわよ?常識でしょ?」
ディアン「そ、そうなんだけどね…。ハハハ…」
フレイヤ「何か隠してるわね…?」
ディアン「い、いやいや!別に何も隠してないよ!」
フレイヤ「良いわよ、教えなさいよ?誰にも言わないから。ホラ!」
ディアン「あっ、ちょっと!」
フレイヤは俺の腕を掴んで、
フレイヤ「ここなら誰も居ないでしょ?さぁ、教えてよ!」
ディアン「え~、誰にも言わない?」
フレイヤ「言わない言わない!」
ディアン「はぁ…。じゃあ────」
俺は今までの経緯を全て話した。俺がこの世界に来たこと。来る前は別の世界に居たことを全て───。
フレイヤ「えぇー!!」
ディアン「──って静かに!」
俺は慌ててフレイヤの口を塞いだ。俺は辺りを見回した。大丈夫だ。誰もいない。
フレイヤ「なるほど……。だからアンタは常識知らずだったのね……」
ディアン「そうなんだ。だから、俺が勇者だって事実も昨日知らされたことなんだ」
フレイヤ「でもよくやる気になったわね?普通なら受け入れられないと思うけど…」
ディアン「うん。最初は受け入れられなかったけど、人の役に立てるのならと思って…」
フレイヤ「へぇー。まぁ、秘密を教えてくれた代わりにアルビオンの行き方を教えてあげるわ」
ディアン「本当か!ありがとうフレイヤ!」
フレイヤ「ここから真っ直ぐ、東に進むと『アルティカ』呼ばれる国がある。まずはそこまで行く。徒歩で約3時間よ。そしたら次にアルティカから南西に向かって真っ直ぐ行くと『モロホイヘ』って国がある。アルティカからモロホイヘまでは徒歩で約5時間。次はモロホイヘから西に行くと貴方の帰りたいアルビオンがあるわ。モロホイヘからアルビオンまで徒歩で約2時間よ。合計すると、約10時間ね!」
ディアン「な、なんだってー!?」
予想の遥かに超える距離だ。
ディアン「む、無理だろ!10時間って、とっくに日が暮れてるじゃないか!」
フレイヤ「でも、それしか道がないのよ」
ディアン「そんな……」
俺は力無く地面に崩れ去った。
フレイヤ「アンタ、アルビオン出身ならサーヤがいるじゃない?一緒に帰ったら?」
その言葉に、俺は生気を取り戻した。
ディアン「そうだ!サヤがいる!ありがとうフレイヤ!」
俺はフレイヤに手を振って、サヤを探しに行った。
フレイヤ「やれやれ……。って誰?誰かいるの!」
フレイヤは辺りを見回した。しかし、誰もいない。だが気配はする。それもかなり近い。
フレイヤ「盗み聞き?趣味が悪いわね?出てきなさい!」
すると、背後から黒い煙と緑色の炎が現れた。煙と炎の中から現れたのは──、
フレイヤ「ナカシュ…。アンタずっと居たの?」
ナカシュ「俺の気配に気付くとは、流石に鼻が効くな」
フレイヤ「さっきの話、聞いてたの?」
ナカシュ「フン…。この短期間で随分と丸くなったようだな?昨日までの傲慢さはどこへ行った?」
フレイヤ「う、うるさい!私の質問に答えて!」
すると、ナカシュは私にゆっくりと近付き、私の顎先を掴んだ。
ナカシュ「君がどんなに優秀で、どんなに強く、どんなに才能に富んでいてもこの俺には勝てない。それは君が1番よく理解してるだろ?」
フレイヤ「くっ………」
ナカシュ「俺はこの学校で、いや、この世界で最も偉大な人物となる!俺の野望、誰にも邪魔させやしない!無論、あのディアンとかいう転校生にもだ」
フレイヤ「離して!」
私はナカシュの手を跳ね除けた。
フレイヤ「ディアンに何かするつもり?」
ナカシュ「君と同じさ。何、心配することはない。俺は君ほど雑じゃないからな。俺から少し注意喚起しておこうと思ってな?伝説の勇者、スマラグドの転生体である、この俺がな!」