第七話 おっさん考える
「それでは、まー様。対価はどうしたら良いでしょうか?研究所も、私も自由になるイェーンは多くありません」
「イェーンは、出来る範囲で構わない。それよりも、本には本で対価を支払って欲しい」
「本ですか?」
「研究所なのだろう?初代が書いた魔導書とかの写しがあるよな?俺たちには、使えばなくなってしまうイェーンをもらうよりも、情報がまとめられている本の方が嬉しい」
イーリスは少しだけ考えて、おっさんに二つの条件を提示した。
「まー様。二つの条件をご承諾いただければ、初代様のことが書かれている書籍をお渡し致します」
「条件?」
おっさんは、見てわかるような態度で不機嫌であると示した。条件をつける立場では無いだろうと表情と態度で語っている。
慌てたのは、ロッセルだ。
慌てたロッセルがイーリスとおっさんの話に割って入ろうとしたのを、おっさんが手で止めた。
「はい」
「いいぞ、言ってみろ」
口調まで変えた。
「ありがとうございます。初代様が書かれたと言われている書物の数は多いので、まー様と彼女で選別をしてください」
「ひとまず、条件を教えてくれ」
「はい。一つ目は、書物の模写はスキルで行います。彼女が持っていた”紙”に模写を実行させてください」
「ん?彼女の・・・。あぁノートか、どうする?」
おっさんは
「うーん。持っていても、売る以外に価値がないから、使えるのなら使おう」
「ありがとう。彼女の了承も貰えたので、提供に関しては、問題はない」
「ありがとうございます。もう一つは、模写には時間がかかります。その間、研究所に来て頂けませんか?」
おっさんは、先程とは違って渋い顔をする。
提案は、問題はないが、状況が整わないと”
「いくつか確認したいが、問題はないか?」
「もちろんです」
「今の話は、イーリス殿の独断か?ロッセル殿は知らなかったと考えていいのか?」
「はい。私の独断です。問題があれば、私だけを罰してください」
「わかった。次の質問だが、研究所は王城にあるのか?」
「・・・。いえ、王城には、私の部屋や与えられた場所はありません」
「それでは、王都の中か?」
「はい。貴族街にはなりますが、職人街や商人街の近くです」
「貴族街や職人街や商人街という単語が気になるが、王城ではないのだな?」
「はい」
「貴重な書物が多いように思えるのだが、王城で管理はしていないのか?」
「しておりません。貴族や王家には必要がないと判断されています」
「ふぅーん(文化を殺す国なのか?未来はないな)」
「え?」
「いや、なんでも無い。正式には、彼女と話をしてからになるが、こちらかも条件をつける」
「はい」
「まず、作業をする部屋には、イーリス殿とあと一人だけの立ち入りにしてくれ」
「わかりました」
「人は、一度決めたら、どんな理由があっても交代は認めない」
「はい。模写は、まー様の目の前で行うのですか?すごく時間がかかります」
「それは、任せる。俺と彼女に会える人物を最低限に抑えたい」
「わかりました。他には?」
「そうだな。イーリス殿。どうせ、俺や彼女が、読めた書物の内容を聞きたいのだろう?こちらの言葉に訳して欲しいのだろう?」
「え?」
「出来る範囲で協力してやるから、全部の書物を見せろ」
「ありがとうございます。わかりました」
「衣食住の安全を保証しろ」
「研究所の存在を知っている者は、辺境伯と派閥の一部です。研究員の身元も解っています。身内の確認も出来ています。研究員と研究員の家族も安全が保証されています」
「わかった。安全なのは信じよう。最後の要求だが、俺と彼女に年格好が似ている者を、この部屋で書物の模写が終わるまで生活させろ、その上で、ロッセル殿が毎日のように面会して、上に報告を上げろ」
おっさんは、次の条件はロッセルに突きつける。
「期間は?」
「模写が終わってから1週間だ」
「わかりました。手配します」
ロッセルが目指しているのは、二人を辺境伯の庇護下に置くことだ。
そのためにも、イーリスの話におっさんと
おっさんも、少ない情報から、王城に居るのは危険だと判断していた。それではどこが安全なのかわからないが、安全が確保された場所というのはありがたい。それだけではなく、おっさんと
「どう思う?」
おっさんは、
「うーん。王城に居るよりはいいと思う。ねぇイーリスさん。研究所には寝泊まり出来る場所はあるの?お風呂があると嬉しいのだけど?」
「あります。研究所とは別に、私の屋敷が敷地内にあります。そこに、小さいのですがお風呂があります。初代様が好きだったので、王家の者が住む屋敷にはお風呂が作られています。客室も、この部屋ほど豪華ではありませんが、用意できます」
「まーさん。私は、賛成かな!」
「わかった。わかった。ロッセル殿。イーリス殿の提案を受けさせてもらおう。研究所に俺たちが居るのは・・・」
「私と彼女と、辺境伯とまーさんから言われている通りにあと一人だけにします」
「それなら問題はない。いつ、移動する?」
即断即決。
決まったら、すぐに実行が、おっさんの考えるベストなタイミングだ。
「まーさん。少しだけ、お時間をください。勇者たちの動向を確認します。あと、お二人の身代わりの選出も平行して進めます」
「わかった。それまで、”ここ”で待たせてもらう。身代わりは、都合が良い人物がいたら頼む。難しいようなら、この部屋の前に、ロッセル殿が手配出来る者を二人か三人ほど立たせて、俺と彼女への面会を拒絶してくれ、食事も最低限を運ばせて、運んできた者が食べるようにしてくれ」
「それなら、辺境伯に協力を仰がなくても手配できます」
「無理でない範囲でやってくれ」
「わかりました」
おっさんは、素直に頷くロッセルを見て、駆け引きとかが苦手で、素直な表現をしてしまうので、そうとう嫌われているのだろうと判断した。これで、能力があればもっと嫌われるのだろう。善良な無能者は、利用できるが、有能な善人は有効価値が少ない。利用した時のデメリットが大きすぎる。
おっさんは、頭をさげてから出ていく二人を見送りながら、日本に居た時のことを思い出している。
「ねぇまーさん。身代わりに、偽装を施すの?」
「それは考えていない。俺や君の能力は、権力に近い者たちに見せたくない」
「え?」
「だって、君。収納のスキルに、勇者たちの荷物の一部を入れただろう?」
「・・・。まーさん」
「ん?別に、いいと思うぞ?彼らは気が付かないみたいだし、君が魔法陣の中で行ったことは、俺は見えていない」
「むぅー。それって、見ていたってことですよね?」
「ハハハ」
「まーさん?」
「あぁ何かやっている程度だったけどな。それに、君のことだから、正当な理由があるのだろう?辞書とか、勉強道具とか、筆記用具だろう?」
「はい。物理の教科書とか、筆記用具とか、異世界物でオーバースペックになりそうな物で、私に持たせていた物を奪いました」
「ほぉあとで検証したいけどいいか?」
「はい。お願いします」
おっさんは、出された荷物を見て、自分の持ち物も提示し始める。