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第十四話 襲撃者(仮)


 ロルフたちが襲撃者(仮)を捕獲するために、出ていった。
 戦闘音が聞こえないから、戦闘にはなっていないのだろう。もしかしたら、一瞬で勝負がついたのかもしれない。

 リデルの眷属たちが作った塀に座って、村を見る。
 耳を澄ますと、大人たちが何かを叫んでいる。食料庫が燃えているのだ、当然だろう。それだけではなく、今まで無かった村を囲うように出来た壁も恐怖の対象なのだろう。
 女性が村の中央広場に出てきて、何か怒鳴っている。数回だけだが言葉を交わしたことがあるのでわかるが、サラナの母親だ。金切り声(かなきりごえ)で怒鳴っている。サラナの下着と手紙を見つけたのだろう。あの人も苦手だ。マヤがサラナを友だちだと言っていたので、何も言わなかったが、”あのひと《サラナの母親》”は苦手だ。今ならわかる。正義の執行者で、皆の代弁者になって話をするのだ。”村民なら村長の意見に従うのは当然”や”普通の家庭なら当たり前のこと”や”女なら当然の考え”を俺に押し付けるように話をする。自分の考えを、大多数が同じように考えていると言い換えて攻撃をしてくるのだ。それをナチュラルに行うのだ。村の異端者であった、ニノサやサビニを煙たがっていた。そして、二人が居なくなってから、俺とマヤを村から追い出そうとしたのもあの人だ。そのくせ、自分は”こんな村で終わるのはイヤだ”とか言っている。
 娘は死なないと思っていたのだろう。娘も道具の一つだと考えていた。領主の息子は無理でも、行政官の息子や豪商の息子の嫁にして、家族で領都や王都に引っ越すことを夢想していた。本当に、愚かでつまらない人だ。

 村から出ていける唯一の場所は、魔狼と狼たちが陣取っている。出てくる奴を脅して居る。2-3日は続けていればいいだろう。村長が居なくなって、村で貯めていた”財”や”税”もなくなっている。水が使えなくなっているのも、しばらくしたら気がつくだろう。食料庫も燃やされている。各家には備蓄があるだろう。それが尽きるのが2-3日という所だろう。
 村長は、元ゴブリンの巣穴で目を覚ましたようだ。ついていた、リデルの眷属から報告が来ている。死なないで、村まで戻ってこられるかわからないが、戻ってきたら、死ぬよりも辛い目にあう可能性が高い。そもそも、森の中を歩いて帰ってこられるとも思えない。勝手に死ねばいい。助かったら、助かったで、村の現状を見て絶望すればいい。俺に責任を押し付けるにしても、俺は死んだと思われているのだろう。
 ”リン・フリークス”は死んだ。マガラ神殿に落下したのだ、生きているはずがない。名前を”リン・マノーラ”にでも変えるか?必要になってから考えればいい。王都に戻る時に考えよう。

 大人たちが、怖かった大人たちも居る。理不尽な怒りを俺やマヤにぶつけた人も居る。優しくしてくれた人も中には居る。でも、皆が他人の責任にして、自分の義務を放棄している。子どもたちは、子どもたちで、言い争いをしている。

 見ているだけで、虚しくなってきた。

 俺は、こんな奴らに奪われていたのか?

 俺が何をした。日本に居た時と同じだ。誰もが、俺を置いていってしまう。
 これが、神が望んだことなのか?それとも、俺の選択肢が悪かったのか?

 何が悪かった?
 俺が悪いのか?
 俺が居たから、ニノサは死んだのか?
 俺が産まれたから、サビニは死んだのか?
 俺が転生者だから、マヤは死んだのか?
 俺が何も出来ないから、俺が何もしないから、俺が何も・・・。だから、家族は死んだのか?
 俺は、一人で生きるしかないのか?

『マスター!』

 誰だ!

 声はロルフだ。マスターという呼び方も、微妙に違う。

 だが、この後ろから俺に抱きついているのは誰だ?

「リン」

「え?マ・・・。違う。ミル?」

「うん。遅くなって・・・。ごめん」

 後ろに抱きついているのは、ミトナルだ。鵜木和葉だ。

「な・・・ん・・・で?」

「リンとマヤを狙っている奴が居た」

「え?」

「アゾレムの奴ら・・・。立花たちが、リンを殺すと話していた」

「ミル。どういうことだ?」

 ミルが、今まで知っていた話を一気に話してくれた。
 俺は、冷静に話が聞けた。

 違う。どこか、違う世界での出来事に思えてしまったのだ。

「そうか・・・」

「リン。凛くん。僕は・・・」

「鵜木さん。怒っていないよ。違うな。感情が動かない」

「え?」

「鵜木さん。和葉の話を聞いても、何も変わらない。ウォルシャタ・フォン・アゾレムや取り巻きたちを殺す。死ぬほうが楽だと思えるような方法で殺す。俺の中で決めたことだ。アゾレムの現当主も殺す。結果、俺が王国から追われてもいい。だから、何も変わらない。俺は、マヤを殺したやつらを許さない」

「え?マヤが死んだ?」

「・・・」

「・・・」

「殺された。俺と一緒にマガラ渓谷に落とされた。俺は、そこの精霊だと言い張っている猫に救われた」

『猫型精霊です。マスター。そのミトナル=セラミレラ・アカマースは適合者です』

『・・・。ん?適合者?』

『はい。正確なことは、神殿に連れて行かないと、判断はできませんが、マヤ様の依代になりえる人物です』

「はぁ?ロルフ!」『マスター。念話が切れています』

「あっ」

 ミルは、気にしていない様子だ。
 それに、後ろから俺に抱きついて離れようとしていない。慎ましく柔らかなものを背中に押し当てている。急いできてくれたのだろう。話では、ナナに会ってから村の位置を聞いて走り続けたようだ。街道を走るのは目立ってしまうので、森の中を爆走してきたのだろう。腕には切り傷が付いている。見えないが、足にも生傷が付いているだろう。走り続けていたのだろう。甘い特有の匂いに混じって汗の匂いもしている。嫌な匂いではない。好ましいとさえ思えてしまう。
 俺が、ミルの腕に手を添えたので、少しは安心したのだろう。抱きしめている、腕の力を弱めてくれる。

「ミル。俺のためなら、何でもすると言っていたな。その気持ちは変わらないのか?」

「うん!僕に出来ることなら、この場で死ねと言われたら死ぬ。身体を差し出せと言われたら喜んで差し出す。初めてだから、優しくはして欲しいけど、リンの好きにして、僕の全ては、リンの為にある」

「ありがとう。死ぬよりも辛いかもしれないぞ?それでもいいのか?」

「うん。僕は、死ぬ程度で許されると思っていない。だから、自殺しないで、大好きで、愛しているリンの側に居ると決めた。殺されるのなら、リンの手で殺されたい。犯されるのなら、リンに犯されたい」

「・・・。ミル。俺が今からするお願いは、人道的な話ではない。出来るのなら、断ってくれ、そして・・・」

「受けるよ。僕は、リンからのお願いなら何でも受け入れる」

「ミル?」

「だって、リンが僕にお願いしてくれるのだよ?それで、僕が死んでも、僕は本望だ。リンの為に死ねるのなら、僕は嬉しい」

「あと、2-3日はここで村の様子を見ていたい。その後で、とある場所に移動する。ついてきてくれるか?」

「リン。僕には、命令してくれればいいよ。僕は、リンに従う」

「・・・。わかった。ミル。2-3日、ここで過ごしてから、俺についてきてくれ。道中で、王都を出てから今日までに発生した内容を説明する。その後で、ミルにやらせたい内容を説明する」

「わかった。2-3日は、僕は森の中で過ごすよ」

「え?」

「だって、ここは、リンの大切な場所でしょ?マヤやお父さんやお母さんとの思い出の場所だと聞いたよ?僕が居たら邪魔でしょ?」

「ミル。一緒に居てくれ、そして俺が暴発して村を攻撃しようとしたら止めてくれ」

「わかった。僕は、リンと一緒に居る」

「・・・・・。ありがとう」

 ミルが、俺を抱きしめていた腕を解いた。
 俺が後ろを振り向くと、涙を流し続けただろうか、目が真っ赤になっている。俺とマヤを心配してくれたのかもしれない。綺麗な顔には、血が滲んでいる。森を駆け抜ける時に対峙した魔物を倒した時に受けた傷や返り血だけではなく、木々や草を無理やり抜けてきた時に付いた傷もある。
 手足も傷だらけだ。服や装備には、血が乾いた後がある。どれだけ急いだのかわかる。

 真っ赤な目をして、なおも俺に笑顔を見せようとしてくれている、ミルに俺は最低のお願い(命令)をすると決めた。
 俺の自己満足になるだろうが、この家に居る間は、ミルの願いを叶えてやろうと考えている。

 ミルが望む内容はわからないが、俺に出来ることはしてやろうと思った。

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