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第四十九話 迷宮街ウーレンフート

/*** シンイチ・アル・マナベ Side ***/

 派手ではないが、しっかりとした葬儀が執り行われた。
 俺は、マナベ家の者として参列した。ライムバッハ家の者としては出ない事を、直前にユリウスたちに話した。

 反対されたが、俺が出ると、共和国の客や貴族連中が良からぬ事を考えるかも知れないと、もっともらしい説明をした所、1人以外は納得してくれた。その1人から、俺が迷宮街ウーレンフートに向かうのを一日伸ばすという条件だった。

 今、その条件を出した者と二人っきりで部屋で過ごしている。

「エヴァ。何を怒っている?」
「怒ってなんていません!」
「それを怒っているというと思うのだけどな」
「怒っていません!」
「参列の事なら、説明しただろう?」
「違います!」

 ほら、やっぱり、怒っている。

 エヴァに後ろから抱きつく。この程度でごまかさす事ができないのはわかっている。わかっているけど、明日には、俺は旅立つ。このまま留まっていると、エヴァに溺れてしまう。

「アル・・・。私・・・」
「エヴァ。言ってくれ。俺は、器用じゃない、ギルのようにはできない」
「バカ・・・。私・・・ごめんなさい。アルが、ご両親の事を・・・ううん・・・違う。私は、アルと一緒にアルの隣でご両親をお送りしたかった。私のわがままですよね」
「あぁエヴァ・・・わるい。そこまで考えていなかった。たしかにな。俺も、エヴァを父と母とルグリタに紹介したいな。後で、一緒に行ってくれるか?」
「え?あっはい!もちろんです!」

 やっと、こっちを向いてくれた。

「やっとこっちを見てくれたね」
「え?」

 可愛い顔にキスをする。

「アル・・・ごめんなさい」
「いいよ。気づかせてくれてありがとう。これからも、俺は、自分の事を優先してしまうだろう。エヴァそんな時には言ってくれ、俺に考える時間をくれ」
「はい。アル。私も、たくさんわがままを言ってしまうと思う。でも、私は、アルと一緒に居たい」
「あぁわかっている。俺も同じだ」
「うれしい」

 エヴァがキスを返してくれる。
 エヴァの体温を感じる心地よさに溺れてしまいそうだ。

「エヴァ。時間を置いてから行けばいいよな?まだ陛下たちが居るだろう?」
「えぇ予定では、ライムバッハ家で昼を食べてから、帰られる予定です」
「え?そう言えば、エヴァは、陛下達と一緒に帰らなくていいの?」
「あっはい。大丈夫です。ギルが一度王都に帰るので、それと一緒に戻ります」
「そうか、それは明日か?」
「いえ・・・」
「今日って事はないよな?」
「・・・早くても、3日後と聞いています」

 あ・・・ギル・・・ダメな奴だったのだな。
 まぁ俺も人のことは言えないか・・・こんなにも、エヴァが愛おしいと思ってしまっている。

「わかった。俺も、3日後にエヴァ達が王都に向かった事を確認してから、動く事にするよ」
「え?よろしいのですか?」
「あぁその間、いろいろ加護や魔法に関しての実験に付き合ってくれるだろう?」
「もちろん!どうします?屋敷に部屋を用意させますよ?」
「いいよ。移動も面倒だし、エヴァがイヤじゃなければ、あの部屋でいいよ。道具も置きっぱなしだしな」
「はい!クリスに伝えてきますね!」

 エヴァと屋敷の中に入っていった。
 俺たちが使っていた部屋にむかう。途中で誰とも合わなかったのはいいことだろうか?

 そりゃぁそうだよな。陛下達の護衛もあるし、来客の対応もあるだろうからな。

 3日後に、ライムバッハ家を出る。それから、1週間くらいで、ウーレンフートに到着できるだろう。
 途中で、2~3回は野宿を覚悟したほうがいいだろう。ラウラやカウラが居たと来なら、準備はそれほどでも無かっただろうけど、食料は大丈夫だとしても、寝る時のために結界が作られるような魔法は用意しておいたほうがいいだろうな。

 魔法を組み上げる事にする。
 まずは結界だが、単純な結界では見た目でなにか仕掛けているとわからない。領域をどうする?
 広ければいいわけではない・・・もう少し違う発想にしよう。

 自分で思っている以上に、エヴァに告白した事で、”日本”での常識や知識が邪魔をしている。

 テントの様にできないか?

「エヴァ。テントって有るのか?」
「てんと?」

 エヴァが聞き返してきた事から、無いのだろう。
 もしかしたら似たような物が有るのかもしれないから、加護を使って模型を作ってみる。簡単な仕組みの物だ。

「アル?これって何をする物なの?」

 テントの模型を見た、エヴァの感想だ。大きめの布があればできてしまう。そして、テントの周りに結界を張れば目安にもなるのでわかりやすいだろう。結界に触れる物・・・だと、影響が大きいから、2cm以上の物と定義してみる。これで、問題が出たらパラメータで変更していけばいい。寝ているときには、結界が強固になるように設定する。

 テントの原型はこれでいいだろう。
 後は実際に使いながら調整すればいい。エヴァが作ったテントを興味津々という感じで見ている。

「ねぇアル。このテント、もう少し大きくできるの?」
「できるよ?どのくらい?」

 まず作ったのは1人で利用するくらいの大きさだ。
 次に二人で利用するくらいの大きさにする。

「へぇーこれなら外で着替える時に使えそう!」
「着替える?」
「うん。神事の時とか・・・葬儀もそうだけど着替えが意外と多いのよ」
「へぇー」
「へぇーってアル見てなかったの?」
「いや、見ていたけど、ライムバッハ辺境伯だからだと思ったけど違ったのだね」
「あっうん。それもあったけど着替えは多いよ。小さい神事でも2~3回は着替える。大きい物だと下着まで着替えるからね」
「そうなの?そんな時はどうしているの?」
「教会まで戻ったり、近くの民家を借りたいだから、意外と大変だよ」
「そうか・・・確かに、それならテントがあれば楽だね」
「うん。もう少し強度が欲しいけど・・・」
「それは、布を変えたり、今は木で作っている部分を違う素材にすればいいと思うよ。これ持っていって、ギルに作らせればいいよ。ディアナがいれば作られるだろう?」
「そうね・・・少し相談してみる」

 時間もそろそろいい感じになってきただろう。

「エヴァ。そろそろどうだろう?」
「え?まだ明るいよ?」

 え?明るい?
 なにか勘違い・・・ネックレスを握っている。あっそうか・・・最近そうだったからな。

「ん?エヴァンジェリーナ・スカットーラさん。俺は、父と母の所に行こうかと思ったのだけど?何と勘違いしたのですか?」

 エヴァが俺の言った意味に気がついて、耳まで真っ赤にしてうつむいてしまった。
 可愛いな。

「・・・アルのイジワル」
「ゴメン。でも、時間的にどうだろう?」

 少しは落ち着いたようだ。
 まだ顔は真っ赤だが、顔を上げてこちらを見てくれている。

「ちょっと確認してくるね」
「ありがとう」

 パタパタと音がしそうな小走りで、部屋の外に出ていく、廊下を走っていくのが解る。

 確認だけだからすぐに戻ってくるだろう。
 流石に普段着では問題だろう、まぁ今日の服装なら問題ないだろう。

 15分くらいしてから、エヴァが戻ってきた。
 エヴァが着替えている事から、問題は無いのだろう。

「アル。大丈夫だよ。すぐに行く?」
「あぁそのほうがいいだろう?」
「うん」

 眠っている場所は、歴代のライムバッハ領の領主家族が眠っている場所だ。
 綺麗にされて、新しくされた場所がある。

 父と母が眠っている場所だ。

「・・・」
「アル・・・」
「なんでもない。こんな時に、何を話していいのか・・・そうだ、エヴァンジェリーナです。俺の奥さんです。連れてくるのが遅れて申し訳ない。結婚生活はもう少し後だけど安心してくれるよな?反対なら、すぐに生き返って反対して下さい」
「・・・」
「祝福して下さい」

 エヴァの肩を抱き寄せる。

「これから、俺はエヴァと生きていきます。どうぞ、ヴァルハラで見ていて下さい」
「ご挨拶が遅れました、エヴァンジェリーナ・スカットーラです。アルノルト様と共に生きていきます。不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 二人で、頭を下げる。
 そして、エヴァが持ってきてくれた花を手向ける。父の名前が刻まれた墓石に、父が好きだったワインをかける。

(今度来るときには、一緒に飲みましょう)

 もう一度エヴァの肩を抱いた。

「アル?」

 エヴァを抱きしめて、少し強引にキスをする。

 唇を離してエヴァを見つめる。
 今度は優しくキスをする。

 身体を離して、墓石を見つめる。
 安心できたかな?それとも、心配事が増えたかな?

「また来るよ。行こう。エヴァ」
「はい。お父様。お母様。また来ます」

 俺が先に歩きだして、エヴァは少し後ろを振り向いて頭を下げているのだろう。
 それから、小走りで俺の所まで来て、腕を取ってきた。

「アル!これからも一緒ですよ」
「あぁもちろんだ」

 部屋に戻るときには、夕暮れになっていた。
 何時間・・・墓所に居たのだろう。30分くらいのつもりだったけど、そんなに長く居たのだな。

 部屋には食事が用意されていた。

 エヴァが用意したのではないことはわかっている。クリスか?イレーネか?ありがたくいただくことにしよう。

 俺が表に出るわけには行かない。ライムバッハ領は、これからカールを中心にまとまっていくべきだ。

 食事を終えて、エヴァと二人で魔道具の開発を続ける。
 携帯電話の様な物を作りたかったが、近距離通信しか難しいようだ。中継点を設置できれば遠距離通話も可能だろう。あとは、有線で引っ張るかだろうな。

「エヴァ・・・?どうした?」
「ううん。なんでも・・・ない」

 そうか、こうしていられる時間も後少しだと考えたのだな。

「エヴァ。おいで!」
「え?アル・・・」
「いいよ。俺も、エヴァと一緒に居たいからな。お風呂一緒に入るか?」
「うん!」

 エヴァが疲れて寝るまで一緒にいて、それから魔道具の試作品を作る。
 朝はゆっくり寝ていられるのが”仕事”じゃないことをしている証拠だろうな。エヴァに起こされるまで寝ていて風呂に入る。

 3日はあっという間に過ぎた。
 エヴァは、ギルの商隊と一緒に王都に向かう。朝ごはんを食べたら向かうようだ。

 その日は、朝までエヴァと話をしていた。
 何を話したのかさえ覚えていないくだらない話だったのだろう。そして合わせた身体の感触は忘れないだろう。

「アル。行くね」
「あぁギルによろしくな。何か作ったら、ライムバッハ領に送ると伝えておいてくれ」
「わかった」

 エヴァを抱き寄せてキスをする。

「アル。気をつけてね」
「ありがとう。無理はしないよ」
「うん。約束だよ」
「あぁわかっている。3年後に迎えに行く」
「うん。待っている」
「あぁ」

「浮気しないでね」
「しないよ。奥様」
「ううん。してもいいけど、私が1番だからね」
「おくさん。俺を信じてよ。エヴァだけだよ」
「うれしい。でも、アル・・・モテるからな・・・悪い女にだまされないでよ」
「モテる?そんなわけないから安心していいよ。エヴァこそ、悪い奴にだまされないようにね。俺だけのエヴァ」
「うん。アルだけの私だよ」

 遠くからエヴァを呼ぶ声が聞こえる。無粋な奴らだな。
 とは思うが・・・ギルも出発を引き伸ばしていたので、少しでも早く出るポーズは必要だろう。

 もう一度軽くキスをする。

「あぁエヴァ。またな」
「うん。またね」

 エヴァが荷物を持って部屋から出ていった。
 次に会うのが何時になるのかわからない。

 さて、俺も荷物をまとめるか・・・本来なら、3日間でまとめれば良かったのだけどな・・・エヴァに溺れてしまった。
 作りかけの魔道具は箱に入れてステータス袋の中に入れておけばいいかな。

 さて、俺も行くか・・・。
 最後にもう一度だけ、墓参りをしてから行くか・・・次に何時来られるかわからないからな。

 誰が綺麗にしたのかわからないけど、掃除がされている。
 その上、花が手向けられている。エヴァか?

 振り向かないでも解る。
「ユリウスか」
「アル。行くのか?」
「あぁ」
「そうか・・・帰ってくるのだよな」
「あぁ置いていくモノもあるからな」
「わかった」

「ありがとうな」

 そのままユリウスの横をすり抜けて行く。
 顔を見てしまうと、泣き出してしまうかもしれない。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ!いいか、死ぬなよ!俺が・・・俺が、お前に勝つまで死ぬことは許さないからな!」

 右手を上げて墓を離れる。

 そのまま、街を出て、最初の目的地の迷宮街ウーレンフートに向かう事にする。

 乗り合い馬車を使う事も考えたけど、急いでもしょうがない。
 歩いて向かおう。途中なにかイベントが発生するかも知れないからな。

 街はすんなりと抜けられた。

 これで、冒険者ギルドで作った身分証”シンイチ・アル・マナベ”として活動が始まる。
 アルノルト・フォン・ライムバッハは、心を壊して、ライムバッハ領の邸宅で療養している事になる。

 10分くらい街道を歩いて、後ろを振り返ると、幼少期を過ごした街の全容が見える。

「さて・・・行くか!」

「賭けは私が勝ったようですわね」
「クリス?」
「えぇア・・マナベ様なら徒歩で行かれると思っていました。他の者は乗り合い馬車や馬車の購入にBETしていましたけどね」
「ハハハ。何やっているのやら・・・。それで?」
「お礼と文句と苦情をいいにですわ」
「全部聞きたくない。屋敷に居る、アルノルトに聞かせてやってくれ」
「はぁ・・・わかりましたわ。それではお礼だけにしておきます」
「なんだよ?」
「エヴァの事と・・・ユリウス様の事ですわ」
「エヴァは俺が求めた。それだけだ。それに、ユリウスは、俺が居なくても大丈夫だろう?」
「そうですわね。マナベ様。エヴァは、貴方を待っています。いえ、待っていました」
「・・・」
「ユリウス様もです。あの人に必要なのは私ではありません。貴方なのです。私はユリウス様を慰めて甘えさせる事ができます。私以外にはできない事です。でも、貴方はユリウス様の隣に立てる人です。だからこそ私にもユリウス様にも貴方が必要なのです」
「買いかぶりだよ。俺は・・・そう、俺は家族を大切な従者を・・・妹を守れなかった愚者だよ」
「アルノルト様・・・それは・・」
「違わない。俺は、愚か者だ。多少加護が多いから・・・必要な時に使えなければ意味がない。クリス。ありがとう。そんな俺でも愛おしいと言ってくれた人がいた。こんな俺でいいと言ってくれた人が居る。そして、お前やユリウスは俺が必要だと言ってくれる。俺は・・・俺は、もう後ろを見ない。クリス。エヴァを頼む。お前に頼むような事では無いのはわかっている」
「任せて下さい。エヴァに変な虫がつかないように見張っていますわ。だから、早く帰ってきて下さい。待っていますわ」
「あぁありがとう」

「それから、このネックレス・・・貴方の事も、帰ってきたら教えてくださるわよね?」
「ハハハ。しっかり使ってくれているようで安心したよ。そうだな、帰ってきたら話を聞いてくれ」
「えぇありがたく使わせてもらっていますわ」
「そうか・・・ありがとうな。クリス。行ってくるな」
「いってらっしゃいませ。シンイチ・アル・マナベ様」

 綺麗にお辞儀をするクリスに手を降ってその場を離れる。
 しばらくして振り返っても、まだお辞儀をしている。

 20分くらい歩いていから後ろを振り返って手を降った。
 まだお辞儀をしているような気がしたからだ。

 テントを使って野営をしながら、ウーレンフートに向かった。結局、イベントらしい物は一切発生しないで、10日後に迷宮街ウーレンフートに到着した。

 まだ朝日が登る前なのに、街の入り口には人だかりができていた。
 冒険者風の服装をしている所から、街に入るための審査待ち行列なのだろう。

 1番後ろに居た少年に声をかける。
「ちょっと聞きたいのだけど?ここが、ウーレンフートで間違いない?」
「なんだ兄ちゃん初めてか?」
「そうだ。迷宮の話を聞いて、来てみたのだけどな。すごい人だね」
「そうかい?まだ今日は少ないほうだぞ?」
「審査待ちなのか?」
「そうそう、ここに並べば街の中に入られる。もちろん、犯罪者じゃなければな!兄ちゃん弱そうだから大丈夫だろう」
「ハハハ。一応、冒険者ギルドには入っているからな。それで大丈夫なのだろう?」
「え?兄ちゃん冒険者なの?」
「あぁそうだけど?」
「へぇぇそうなのか・・・そうだ!兄ちゃん!泊まる所決めているのか?」
「いや、今日着いたばかりだからな」
「それなら、おいらの家に来なよ!宿屋をやっているから、泊まれるぞ!」
「本当か?それは助かる。俺は、マナベ。ナベと呼んでくれよ」
「わかった!ナベさんだね。オイラは、アルバン。みんなからは、アルと呼ばれている。よろしくな!」

 アル・・・かぁ・・・

「あぁアル。よろしくな!」

しおり