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第十五話 寮生活

 寮というか、家と言ったらいいのか迷うが、便宜上。寮と呼ぶことにした。

 昨日やっと準備が終わって、住める状態になって、宿を引き払って、寮の部屋に入った。
 部屋数も、12人が住めると言っていたが、謙遜だった。実質的に、20名住んでも多分部屋数は余るだろう。部屋の改造は好きにしてよいと言われたが、暫くはこのままにしておく。

 まずは、明日の入学式だ。
 皇太孫がトップな成績だった。皇太孫と同い年という事になる。面倒事にならなければよいと思ったが、実は、クヌート先生の研究所に入る事が目立つ行動だと知ったのは、入学式が終わってからだった。

 入学式では、日本の小学校でよく見られるような、両親/祖父母が来て撮影会になるようなことも無く、滞りなく終わった。
 入学式の後で、クラス分けが発表された、俺たち3人は特待生のクラスに入る事になった。
 このクラスは、入試の成績と魔法力で決まるらしい。入試を受けていない者も居るが、その場合には特待生クラスには入られない。
 今年の特待生クラスは、10名らしい。
 案内されたクラスに行くと、席が10人分用意されていて、丁寧に名前が書かれた札が机に置かれていた。
 どうやら、入り口でその札をかけておく事になるようだ。

 自分の席で待っていると、二人の先生と思われる人物が部屋に入ってきた。一人は、よく知っている。クヌート先生だった。
 もう一人は女性の先生で、”ゼクレス”と名乗った。クヌート先生が、魔法と座学を教えてくれるらしい。この時に知ったのだが、クヌート先生は、前宮廷魔法師の最後の弟子と呼ばれる人で、本当に父の弟弟子に当る人物の様だ。そして、父と次の宮廷魔法師を争っている”らしい”。父がライムバッハ家の領地運営を優先している為に、先生が第一候補となっている。
 ゼクレス先生は、武術を教えてくれるらしい。

 二人の自己紹介が終わってから、生徒が自己紹介する事になった。
 まずは、皇太孫が立ち上がって、名前を告げていく。何か一言みたいな事がないので良かったと思う。

 俺とラウラとカウラも、自己紹介をした。異母兄妹であると説明した。
 その上で、俺たちは”ライムバッハ領の商人”の子息だという事にした。そして、クヌート先生の研究所に入った事を自己紹介として話した。

 これがダメだったようだ。
 皇太孫も、辺境伯の娘も、ここに居るほぼ全員が、クヌート先生の研究所があるのなら入ると言いだしたのだ。
 話を総合すると、クヌート先生はすごい人だという事が解った。その上で、その先生の研究所に入るのは、認められたエリートだという事になるのだという。

 皇太孫と辺境伯の娘とイレーネ。そして、皇太孫の従者になる2名と、王都に本店を構える商店の息子。西方教会の関係と名乗った女の子。
 この7名が研究所に所属する事になってしまった。ようするに、特待生の全員が、クヌート先生の研究所に入る事になった。先生も、勧誘をそれほど積極的に行わない方針らしく、この10名で定員とする事にしたようだ。あまり多くの優秀な生徒を一つの研究所で囲うと他の研究所からのやっかみが酷いらしい。同学年の、特待生が全員同じ研究所に入るのに、今更だという思いもある。

 俺とラウラとカウラが借りている場所は、寮という事になっている。
 暫くは、俺たち”兄妹”だけで住む事になる。研究所なので、出入りは自由とする事だけが決まった。

 改めて、名前と顔を覚えていく。
 皇太孫は、ユリウスという名前だ。髪の毛は、見事な赤毛だ。目の色は珍しくはっきりした黒目になっている。癖っ毛を気にしているようだが、なかなかの美男子だと思う。皇太孫だという事は周知の事実だが、家名を外して入学しているので、”ユリウス”と呼んで欲しいと言っていた。

 辺境伯の娘は、クリスティーネという名前だ。5家ある辺境伯の一つで、話を聞くと、ライムバッハ家と親交がある数少ない家の様だ。青色の髪の毛を長くして、後ろで縛っているがやはり可愛い。ラウラにはすこし劣るが十分可愛い部類だと思う。ユリウスと同じで、家名を外しての入学だから、”クリスティーネ”の愛称”クリス”と呼んで欲しいと言っている。自己紹介が終わった後で、爆弾を落とした”ユリウスの婚約者”だと・・・。すこしだけ引きつったユリウスの顔が印象的だった。どうやら、俺達以外には有名な話だったらしい。

 イレーネは、クリスの家の寄子だと言っていた。3歳位の時から、クリスと遊んだりしていて仲が良いのだと言っていた。男爵家と辺境伯が?と思ったが、本人たちが身分違いなど小さい事だと思っているようだ。髪の毛の色は、青が強い紫だ。目の色も、同じような色をしている。

 ユリウスの従者は、二名で、両方共試験を受けての入学だと言っていた。
 代々王家に仕える家の出で、二人とも同じ乳母に育てられた幼馴染という事だ。”ギード”と”ハンス”と名乗った。
 ”ギード”は、金髪を短くしている。”ハンス”は、銀髪を短くしている。ギードの方は、精霊の加護を持つ魔法師候補で、ハンスの方が剣術を嗜むようだ。

 商店の息子は、”ギルベルト・シュロート”と名乗った。”ギル”と呼んで欲しいと言っていた。ギル以外の俺を含めた生徒は、”白人”っぽい印象を受けるが、ギルは、黒人っぽい印象を受ける。商人というよりも、将来は”護衛”を目指しますと言ってもいいような感じだ、10人中一番背が高くガッチリしている。髪の毛も銀髪を刈り込んでいるので余計にそう見えるのかも知れない。喋り方が、体育会系の臭いがするのが気になる。

 最後が、西方教会の関係者と名乗った女の子は、”エヴァンジェリーナ・スカットーラ”で”エヴァ”と呼んで欲しいと言っていた。エヴァは、金髪を縛る事もなく長くしている。腰をすこし超える位で切りそろえている。それ以上の情報は出ていないが、これから一緒に勉強していけば、おのずと解ってくるだろう。

 特待生クラスは、俺たちを含めて10人だが、卒業まで自主退学以外で減る事はない。増える事はあるらしいが、よほどの事がなければないのだと言っていた。
 ようするに、他のクラスは知らないが、このクラスに限って言えば、卒業までメンバーは変わらないのだ。

 それぞれの紹介を終えてから、先生が主導で学校施設の説明と見学になった。
 年齢的に小学校的な事を想像していたが、どちらかと言えば、中学校に近い印象がある。授業は、最初の事は別にして途中からは、専門の先生が担当する事になる。
 夏休みという物はないが、春と秋から2ヶ月程度の休みがある。この世界でも、暦の概念がある。地球と同じで、12ヶ月になっている。一ヶ月が30日に統一されていて、5年に一度13月がある。

 学校の施設見学を終えて、クラスに戻ってきて解散となった。

「アル!すこしいいか?」
「何でしょうか?ユリウス様」
「”様”はいらない。アル。すこし話がしたいのだが、いいか?」
「解りました。どうしましょうか?ここよりも、寮の方が良いでしょうか?」
「そうだな」

 6歳の子供でも、教育がしっかりされている為なのか、ユリウスはしっかりした喋り方をする。
 もしかしたら、この世界は地球よりも成長が早いのか?
 魔物や魔獣だけではなく危険が多い世界だから、精神的な成長が早いのかもしれない。もしかしたら、中学生や高校生と話すつもりで話した方がいいのかも知れない。

「解りました・・・。ユリウス様。一人というわけには行かないようですね」
「・・・」「勿論です」「俺も行きます」「わたくしもですわ」

「クリスは遠慮して欲しい。すこし、アルに確認したい事があるだけだ。ギードとハンスも学校内では危ない事もないだろう」
「殿下。”万が一”があります」
「万が一って言っても、ギード。おまえが居ても何も出来ないと思うぞ」
「そうですよ。ギード。俺の方がいい。そうですよね。殿下!」
「ハンス」
「ユリウス様。わたくしを遠ざけて何を・・・もしかして、ユリウス様。アルノルト様と・・・」
「クリス・・・何を想像している。そういうわけじゃない」

 なんか、面倒な事になっている。
 なんとなく、ユリウスの話は見当が着いた。別に隠している事でもないし、大々的に宣伝しないと言うだけで、別にバレても問題じゃない。

「ユリウス様。別に、いいですよ」

 ユリウスが俺を覗き込むように見て、ため息混じりで
「アルが良いって言っているから、連れていくが、本来ならお前たちが聞いていい話でもないからな」

 う~ん。6歳の身体でそういう話し方をされると、ユリウスも転生者じゃないのかって疑ってしまう。
 アリーダの話からそれはないだろうとは思っているけど、なんだかな・・・。

 クラスから出て行く時に、ちゃっかり、イレーネが後から着いてきたが、気にしたら負けだと思う事にした。ここまで来たら一緒だよな
「ギル。エヴァ。君達も来るか?研究所にはこれから来る事になるのだから、場所は覚えておいたほうがいいだろう?」
「良いのですか?」「うれしい。です。お邪魔させてもらいます」
「ユリウス様。寮は部屋も多いので、お話は別室でお聞きます。それでよろしいでしょう?」
「あぁそうだな。解った。ギルとエヴァもこれから一緒に学んでいくのだから、一緒に来た方が良いだろうな」

 結局、クヌート先生を含めて11名で寮に向かう事になった。
 ゼクレス先生だけは、学校側に提出する書類があるという事で、断念していた。

 校舎の裏口から出て、寮までは、徒歩で5分位の距離にある。表から回れば、もっと時間もかかるだろうが、クヌート先生が”抜け道だよ”と、言いながら教えてくれた。

 寮に着いて、ラウラとカウラに指示をだして、皆を応接室に案内させた。
 食堂とは別に一部屋潰して、20人程度がくつろげる場所を作ってある。実際に動かしたのは、ロミルダさんだったが、辺境伯のご子息に恥ずかしい真似をさせられないと変に気負って作った部屋だ。
 応接室とは別に食堂もあって、こちらも20名程度で食事が出来るようになっている。
 それ以外にも1階には会議を行えるような部屋を幾つか作った。勉強部屋にもなると思っている。今は、その判断をした自分を褒めてやりたい。

 2と3階には個室が用意されている。
 上がり下りも面倒なので、2階の階段に近い部屋を俺の部屋にしようとしたら、ラウラに反対された。なんでも、”主人は奥の部屋”が当たり前だと言っていた。廊下の奥の部屋は、通常の部屋の2.5倍の広さがある。2階は、階段を上がると左右に伸びる廊下があり、廊下を挟む形で、片側3部屋の個室があり。突き当りに大きな部屋が一つある。3階は、突き当りの部屋がないだけで後は同じだ。
 俺が奥の部屋を使って、両脇の部屋をラウラとカウラが使う事になった。残っているのは、大部屋一つと個室が20部屋という事になる。
 あと、地下室もあるが、そのうち武器や書物を保管する場所として利用しようと思っている。
 地下室ってなんかテンションがあがるのだよな。日本の家にも地下室を作って、サーバルームを作ったのが懐かしい。山本喜んでくれたかな。

 皆が応接室に入った事を確認して
「ユリウス様。個別にというのは、私だけで良いのでしょうか?」
「そうだ!」
「わかりました。こちらに、話が出来る小部屋があります」

 ユリウスを連れて、応接室から一番離れている。部屋に案内した。
 すこしだけ高価なソファーを置いた部屋だ。

 部屋を出る時に、目配せしたラウラが、気を使って、飲み物を持ってきた。
 出された飲み物を躊躇なく口にしてから、ユリウスは
「アル。おまえ、ライムバッハ領の商人と言ったが、嘘だな」
「何を根拠に・・・私は、マナベ家の者です」

 嘘ではない。マナベ家がこっちの世界の家ではないけど・・・。

「アル」

 ドアがノックされた。
「アルノルト様。クリスティーネです。多分、お困りだと思いまして・・・」

「いいよ。入って」
「ありがとうございます」

 綺麗な貴族の礼をして、中に入ってきた。

「ユリウス様では、アルノルト様に不信感を持たれるだけでしょう」
「どういう事?」「クリス。おまえ」
「はいはい。ユリウス様。すこし黙っていてください」

 この位の年齢だと、女性の方が、精神年齢が高いと言っていたが、確実にクリスの方が上なのだろう。

「それで、お二人は、私のようなしがない商人の息子に何のようですか?」
「アルノルト様。この名前で、ライムバッハ領から来られて、魔法力が強くて、従者を二人連れていたら、王宮に出入りしている者ならすぐにわかりますよ」
「それで?」
「アルノルト様が、”マナベ”を名乗られているので、私達も今後そのように接します」
「そうなのですね」
「私達は、アルノルト様が、ライムバッハ家の跡取りで、赤子の時に火の精霊魔法を使ったり、5つの精霊の加護を持っていようと、関係なく、友誼を結びたいと思っております。その事をお伝えしたかったのです。そうですよね。ユリウス様」

 すねた子供のように、そっぽ向いているが概ね間違っていないようだ。どっかの誰かが(多分、父だろうけど)俺の加護の事を宮廷で自慢したのだろう。自慢したのか、何かのきっかけで話が出てしまったのかだろう。

 ユリウスとクリスが言いたいことは。対等な友達になってくれって事なのだろう?

 それにしてもまだ謎がある。

「それはありがとうございます。しかし、なぜ私なのでしょうか?皇太孫であらせられるユリウス様とその婚約者であるクリスティーネ様ならば、望まなくても友誼を結べる者もが多くいらっしゃると思います。」
「それは、そうです・・・が」「そんな者達と友誼は結べぬ!」
「ユリウス様」

 まぁそうだろうな。
 家名に従っているような状態になってしまうのだろうからな。

「それは解りました」
「それでは・・・」
「はい。構いませんよ。私は、ライムバッハ家とは関係がない商人の息子です。それにお二人の家名にも興味はありません。これからは、”ユリウス”と”クリス”と呼びますがいいですよね?」
「本当か?あぁ勿論だ。アル。こちらこそよろしくな」

 ユリウスから出された右手を握った。
 それからやはりというか、なんというか、ユリウスは寮に住むと言い出した。丁度、俺が使っている部屋の対面の大部屋が空いているので、そこに入ると言い出した。
 そうなると、必然的に、ギードとハンスも住む事になり、クリスも流れ的に、住む事になった。10人中7人が住んでしまう事になった事もあり、リーヌスとギルとエヴァにも聞いてみた。どうするか迷っていたようだが、一度家に帰ってから決めたいと言っているので、住みたくなったらいつでも大丈夫だと伝える事にした。

 こうして、”俺の目立たない学園生活”を過ごすという”些細な”目論見は完全に、潰えたことになる。

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