第十二話 村長
「行くぞ!」
目指すは、
『マスター。露払いはお任せください』
露払いとアイルは言っているが、誰かが居るようには見えない。
村の中で動いているのは、アイルの配下か、アウレイアの配下だけだ。
「アイルに任せる」
アイルが俺の前に出る。そのまま、村の中央広場に向かう。そこで、アウレイアが指揮している狼と魔狼が居る。篝火を消して回っている。
中央広場に到着すると、魔狼を先頭にして狼が俺に向かって頭を下げる。全部で30頭ほど居る。
「10頭は、俺たちに続け、10頭で”あの家”を取り囲め。残りは、村の中に居る人間を無力化。抵抗する者は殺せ」
魔狼の遠吠えで、狼たちが俺の指示を実行する。
”あの家”は、サラナとウーレンの家を指差す。魔狼と狼が、等分になるように別れて、俺の指示に従う。若干、俺についてきた個体は、魔狼が多いのは、アイルが居るためだろう。
中央広場から
アイルが先頭で、魔狼と狼が俺を囲むように移動する。
「リデル!」
『はい』
「中を探れるか?」
『大丈夫です』
「頼む。アイル。魔狼たちで家を取り囲め」
『はい』
アイルが指示を出すと、魔狼たちが俺から離れて家を取り囲む。
ロルフも、大型の猫になって、俺の横に控えた。
『マスター』
「リデル。中は?」
『隷属させた者を使って調べました。人族が一人だけ居ます』
「男か?」
『はい。隷属させた者が言うには、前から住んでいる男だけだということです』
「わかった」
初代が使っていた刀に手をやる。
そう言えば、簡単に受け取ったけど、動物使いの初代が使っていたと言っていたけど、それってこの国の国王の武器ってことだよな。国宝とかじゃないのか?
しっくりと手に馴染むし、今更返せと言われたら拒否してしまう。それに、宝物庫から盗んだわけじゃない。リザードマンたちから受け取った”刀”だ。偶然、初代国王が使っていた武器だということだ。ローザスやハーコムレイとかからなにか言われたら、偶然と突っぱねよう。
俺がどうしようか考えている最中にも、アイルが魔狼と狼に指示を出して遠吠えをさせている。
村は異様な雰囲気に包まれている。血の匂いがしてこない。昨日から、狼に囲まれて逃げ出すのも不可能だと感じているのか、家から出てくる者も居ない。
夜の間は、家に閉じこもって震えているのだろう。
「リデル。他にも、隷属させられる者は居るのか?」
『はい。小動物は、我たちの支配下に置けます。ただし、隷属なので、眷属にはなりません』
「構わない。村に居る小動物を隷属させろ」
『数が多いので、眷属を使います。ご許可いただけますか?』
「もちろんだ。リデルのやりやすいようにしろ」
『はっ』
リデルが、アイルの背から飛び降りて、地面に手を着いている。正直に言おう。カーバンクルという種だが、見た目はどうみても”栗鼠”なのだ。栗色の中型の栗鼠がかわいい手を地面に着いて詠唱を始める。詠唱と共に、魔法陣が組み上がっていく、魔法陣が眩しく光りだす。詠唱が終了して、イデルから魔力が魔法陣に流れる。魔法陣の光が落ち着くと、俺の腰くらいまである、
ウェアラットは、リデルに深々と頭を下げてから、ロルフにも同じように頭を下げる。俺の足下に跪いて、地面に頭が着いてしまうのではないかと思われるほどに頭を下げる。
『マスター』
「ん?」
『彼に、命令をしていただけませんか?』
「村中の小動物を支配下に置け」
ウェアラットに命令を出して、村中の小動物を支配下に置く。
「ウェアラット。俺の役に立て!村人の全員にいつでも”病魔”を植え付けられる状態にしておけ」
跪いているウェアラットは顔を上げてから、鳴き声を上げてから村の中央に向かっていった。二足歩行のようだ。
さて、準備は出来たな。
ドアを叩く。
中から反応はない。
「リデル」
『動きはありません。家の中央から動きません』
「アイル。外に配置している者たちを村に誘導して、全ての家を取り囲め。準備が出来たら、遠吠えを止めさせろ。ウェアラットと協力して、村人を家から外に出すな」
『はっ』
5分くらいしてから、遠吠えが鳴り止んだ。村には、不思議な静寂が訪れる。
もう一度、ドアを叩く。
「誰じゃ!」
懐かしの
ドアをもう一度叩く。
「うるさい!誰じゃ!」
狼の遠吠えがなくなった途端に元気になる。
こんな人だったのだな。それとも、俺とマヤの前では猫をかぶっていたのか?
今度は、さっきよりも強くドアを叩く。
『マスター。来ます』
リデルが居るから仲の様子がわかる。
閂を外す音がする。ドアが少しだけ開けられる。
「アイル!」
開けられたドアにアイルが飛び込む。
開け広げられたドアから、懐かしい”腐った”匂いがしてくる。前は、嫌悪感が無かったが、今は腹立たしいほどの嫌悪感が出てくる。マヤを殺した時の匂いだ。興奮作用がある草を練り込んだ”お香”だ。魔物よけにも使われる物で、すごく高価な物だと聞かされている。
『アイル。リデル。大丈夫か?』
『マスター。この匂いは、魔物には作用しません』
アイルから衝撃の事実が告げられる。
『え?でも、魔物よけとして売られているぞ?』
『そうなのですか?まずそうな匂いだから、魔物が寄り付かないだけだと思います』
衝撃の事実だ。
確かに、魔物と話が出来なければ、わからないことだ。魔物よけだと思っていたのは、単純に”まずそう”だから襲われなかっただけだった。
「ひっ」
アイルが、唸っている。逃げようとしたのを牽制した。アイルとロルフの背中を撫でるようにして落ち着かせる。
「久しぶりです。村長。マガラ渓谷では、俺とマヤがお世話になりました」
「リリリリ、リン」
「そんな鈴を鳴らさなくても、聞こえていますよ。マガラ渓谷から必死に這い上がってきてみれば、家は破壊されているし、村長は、高価な草を自分だけ焚いて助かろうとしていたなんて・・・」
「う、う、うるさい!お前に何がわかる!!儂は、これまで、が、頑張ってきた!それを、ニノサの奴が!そうだ、ニノサが全部悪い。お前の父親が悪い!儂は悪くない!」
「そうですか?それで、村長が頑張ってきた”
「な、なに、なにを言っている!儂が死ぬ。どうして!」
「え?だって、俺とマヤを殺して、サラナとウーレンも見捨てたのですよ?自分だけが安全である理由がないですよ?村長の義務を果たさないのに、なんで生きていられると思うのですか?」
「何を言っている?儂は、領主様の所で・・・」
「そうですか、やっぱり、アゾレムが絡んでいたのですか?ありがとうございます。それだけ聞ければ、村長は、もう必要ではありません。死んでください」
「待て、リン。儂を殺せば、お前は、領主様に・・・。そうだ、領主様の所に、儂が一緒に連れて行ってやる。領主様もリンを悪いようにはしない。儂が領主様にしっかりとお願いすれば大丈夫だ」
「・・・」
「どうだ。こんな、辺境の村で過ごすよりも、王都で生活したくないか?頷いてくれれば、儂が、領主様にお願いしてやる」
俺が黙って居るのを肯定と受け取ったのか、捲し立てるように、戯言を俺にぶつけてくる。
悲しくなる。こんな人を頼っていたのか・・・。マヤは、”王都で暮らす”程度の望みを叶える為に殺されたのか?ニノサは?サビニは?
刀を鞘ごと手に持って、一歩前に踏み出す。
満面の笑みを浮かべた村長が手を差し伸べてくる。武器を渡してくれるのだと勘違いをしているのだろう。お前の言葉は、俺の心には届かない。
刀を抜いて、首筋に刀をあてる。
「臭い。俺の聞いたことだけに答えろ!」
村長が床に座り込むのを覚めた心で見つめている。