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第八話 訓練


 どのくらい寝ていたのだろう。

「ロルフ?」

 枕元で、猫が丸くなっている。
 やっぱり、精霊じゃなくて、猫がたまたま精霊になったのだろう。猫で間違っていない。

「おい。ロルフ!」

「マスター。おはようございます」

「お前、やっぱり猫だろう?」

「違います。精霊です。猫型の精霊です」

「わかった。わかった。ロルフ。状況は?」

「マスターを運んでもらって、休んでもらいました」

 微妙にポンコツなのは、気のせいなのだろうか?
 もしかして、俺に合わせてポンコツになってしまっているのか?

「ロルフ」

「ヒューマを呼んできます。マスターは起きてください」

「わかった」

 ロルフが、伸びをして、跳躍したかと思うと、部屋から出ていった。
 やっぱり、猫だな。

 すぐにロルフが戻ってきた。俺の肩に飛び乗った。

「リン様!いえ、マスター」

 ん?ヒューマか?
 身体が一回りほど小さくなって、野性味が薄れた感じがする。

「あぁ、長が進化と言っていたが、無事に終わったのか?」

「マスターのおかげで進化することが出来ました」

「そうか、よかった。この祠は、大事な場所だ。これからも頼むな」

「御意。マスター。それから、戦闘訓練をお望みだとお聞きしました。我を筆頭に、リザードマン一族。ご協力致します」

「ありがとう。リザードマンやヒューマは、この場所を守護して欲しい。神殿とつながる唯一の場所だ」

「はい。マスター」

「ヒューマには戦い方を教えて欲しい」

「戦い方ですが、リザードマンの戦い方が主になってしまいます」

「ん?」

「マスターは人族ですので、剣や盾を持って戦うと思いますが、リザードマンは尻尾も武器として使います」

「あぁ基礎だけでいい。まったく戦えないのが問題だからな」

「マスター。何か、想定している”敵”が居るようですが?よかったら、教えて下さい」

 どこまで話をしていいのか考える。
 転生云々の話は隠すとして、敵は貴族であると伝える。

 ステータスは、俺の倍以上はあると過程出来ると伝えた。

「マスター。その者たちとは?」

「うーん。暫くは、大丈夫だと思う。まずは、村長だ。奴を殺す」

「それならば、まずは基礎の訓練を行って、武器を決めましょう。そして、眷属を増やしましょう。リザードマンは我が掌握します。初代は、万の魔物を掌握したと言われています」

「どういうことだ?リザードマンを眷属に加えていけばいいのか?」

「長に確認したのですが、我が掌握した配下は、そのままマスターの力になります」

「そうか、わからないけど、任せる」

「訓練は、すぐに行いますか?」

「そうだな。村長に、自分の行いの結果を知らせるのは早いほうがいい。それに・・・」

 マヤの側に居てやりたい。

「わかりました。ロルフ様。よろしいですか?」

「マスターの望みを叶えるのが、大事だ」

 ロルフがヒューマにはなぜか偉そうだ。

「はい」

 ヒューマとロルフの間でも問題はないようだ。
 立ち上がったが、身体に違和感はない。

 それから、リザードマンの訓練施設に移動した。やはり、洞窟の中にある広場になっている場所だ。
 ヒューマがリザードマンたちに指示をだし、武器や防具が並べられる。

 ヒューマが受け役になって、俺が武器を試していく、適正がないのか、槍や弓はあまりしっくり来なかった。大剣も扱えるのだが、体力が先になくなってしまいそうだ。短剣が中でも使える感じでは有ったが、戦えるのかを言われると少しだけ不安になってしまう。村長程度なら問題は無いだろけど、同級生たちには無理だ。

「どうですか?」

「短剣かナイフだけど、なんかしっくりと来ない」

「そうですね。スムーズに動かせるのは、短剣ですが、戦えるのかと言われると難しいですね」

 ヒューマの言葉だが、俺もそう感じている。村長を脅すためなら十分だが、実戦経験がある奴だと太刀打ちできそうにない。

「リン様。ヒューマ」

「長?!」

 長が、リザードマンを一人?連れてきている。何かを持ってきているようだ。

「リン様。初代様が使っていた武器があります。”かたな”と初代様は呼んでいました」

「刀?」

「はい。初代様も、リン様と同じで、合う武器がなくて、鍛冶に作らせた物の一本です」

「俺が使っていいのか?大切な物なのだろう?」

「構いません。初代様からも、”かたな”は使ってこそ意味がある。使える者が居れば、”渡せ”と言われています」

「そうか、使えるかわからないから、試させてもらう」

「はい」

 大太刀ではなく、太刀と打刀の間位の長さか?もっと、刀について勉強してくればよかった。
 鞘も作られている。俺の力では、片手持ちは無理だろう。両手持ちにして、振り抜く。

 他の武器よりは、しっくりと来る。
 ”刀”が俺にあわせているように思えてしまう。

「マスター。”かたな”が良さそうですね」

「そうだな」

 素振りを行う。手に馴染む。

「マスター。軽く当たりましょう」

 ヒューマが剣と盾を構える。
 踏み込んで、刀を振る。短剣と違って、両手なのが影響しているのか、狙った場所に打ち込める。短剣よりも、力を乗せることができそうだ。

 徐々に力を入れていく、気持ちがいい。

『”スキル:刀剣術”を取得』

 ん?

「ヒューマ。刀剣術というスキルを知っているか?」

「いえ、初めて聞くスキルです。”剣術”ならリザードマンの戦士が持っております」

「リン様。”刀剣術”は初代様が持っていたスキルです」

「そうなのか?初代は、他にどんなスキルが有った?」

「はい。儂が知っているのは、”魔装刀剣術”というスキルがあり魔法を”かたな”に纏ながら戦っておられました」

「そうか、魔法か・・・。俺は、使えそうに無いからな」

 ロルフを見るが、首を横に降っているので、俺は魔法が使えないようだ。

「リン様。初代様も魔法に関するスキルはお持ちではありませんでした」

「え?ならなんで魔法が使える?」

「それが、”動物使い”の本領です。眷属から力の流入が増えれば、スキルが使えるようになります」

「そうなのか?」

「はい。スキルとして使えますが、スキルには表示されないようです」

「そりゃぁ便利だけど、訓練が必要だな」

「はい」

 長が、眷属を増やすことをすすめる理由も納得できた。初代もいろいろ実験を繰り返して、同系統の種族は複数を眷属にしても流入は発生しない場合が多いようだ。氏や族が違えば変わるようだがよく解っていない。
 知恵なき魔物や動物を眷属にする場合には、力で屈服させる必要があるが、その場合は2段階目の変化が発生しない。
 他にも、いろいろ条件があると言っているが、まとめられた書物は初代がどこかに隠したようだ。長も場所は知らないようだ。話を聞いた感じでは、攻略本のようになっているようだ。

 2日間。リザードマンの住む洞窟で、戦闘訓練を行った。
 結局、初代が置いていった”刀”を俺のメイン武器にして、予備として”ナイフ”を使うことになった。

 ”刀剣術”のスキルを覚えてから、短剣は駄目だけど、ナイフは使えるようになった。長さが関係するのか、よくわからない。

 洞窟から出て実践訓練を行った。
 知恵なき魔物を狩る。マガラ渓谷で経験していると言っても、まともな戦闘は初めてだ。洞窟の周りは、リザードマンたちが駆除しているので魔物は存在しない。森になっている部分の奥は、強い魔物の縄張りになっていて、今の俺では向かうのは難しい。表層部分に居る魔物を狩る訓練を行った。

 ”刀剣術”も使えるようになってきた。まだスキルの恩恵である”技”は使えていないが、”刀”を使うのには問題がなくなった。

「ヒューマ」

「はい」

「本当に、助かった」

「マスター。我たちは、マスターの剣です。今回は、マスターのお気持ちを優先致しますが、力が必要な時には、お呼びください。リザードマン一族でマスターにお味方いたします」

「・・・。ヒューマ。ありがとう。俺も鍛錬を続ける。ヒューマたちも戦力の拡充を頼む。敵は貴族だ。どれだけ力があっても困らない」

「わかりました」

 ヒューマが俺の前に跪いて、刀の鞘を渡してくれる。
 同時に、ヒューマの後ろに控えていたリザードマンが、俺にマントを付けてくれた。これも初代が置いていったものらしい。認識阻害の効果があり、魔力を流すことで、認識しづらい状況になるようだ。ヒューマも試したことがないので、効果はわからないと言っているが、村に行ったら試してみれば解るだろう。

「ロルフ!」

「マスターに付いていきます」

「たのむ」

「はい」

「ロルフ様。マスターをお願い致します」

 ヒューマたちと別れて、森の表層に向けて歩き出す。
 道に出れば、そこから村に向かえばいい。食料は、ヒューマたちに分けてもらった、食べられる魔物を解体して肉になっている。

「行くか!」

 ロルフが小型猫のサイズになって、俺の肩に乗る。自分で歩くつもりはないようだ。

しおり