第六話 リンの能力
「それで、ロルフ様。リン。どうして、隔世の祠から?」
ヒューマの質問は当然だ。
「ヒューマ。リン様だ。マスターは、マヤ様のお兄様で契約者だ。神殿の管理人でもある」
「・・・。しかし、ロルフ様」
「ヒューマ。神殿の言葉に従えないのか?」
ロルフは一歩もひかない。
「ロルフ。ヒューマ殿。ここでは、話も出来ない。場所を変えませんか?」
ヒューマは、俺の言葉を聞いてくれた。
もう危険はないと考えていいだろう。他のリザードマンに指示を出している。各々の持ち場に戻るようだ。
ヒューマが案内した場所は、湿地帯に出来た洞窟のような場所だ。
人工的に作られた感じはしない。溶岩洞のようにも思える。富士の樹海で似たような穴を見たことがある。”
ヒューマに着いていくと、広くなっている場所に出た。
そこから、枝分かれした道を進むと、6畳程度の部屋のようになっている場所に辿り着いた。
「ここで待ってくれ、長に話をしてくる」
「わかった」
さて、ロルフの首を押さえつける。
逃げようとしているのは明白だ。
『ロルフ』
わざと、念話を繋げた。
『マスター。あの・・・。その・・・。本当に、忘れていました。この集落に繋がっていのでした』
本当に、忘れていたようだ。
『大丈夫なのだな?』
『大丈夫です。隔世の祠を守っているリザードマンの一族は、神殿を守護する者たちです』
『ロルフ。また、初めて聞く言葉だけど、”神殿を守護する者たち”というのは?』
『マスター。神殿には、転移門が4箇所設置されています』
『へぇ。そうか、それぞれに守護者が居るのだな』
『はい。正式には、”居た”というべきでしょう』
『そうか、潰されたのだな』
『だと思います。他の転移門が動かないのが、その証拠だと考えています』
『わかった。残っていたのが、ここだけで、ロルフとしては、どこに繋がっているのかわからなくて、思い出すのに時間がかかってしまった』
『はい』
『それで、納得しておくよ』
”忘れていた”ではなく、”思い出せなかった”だと思える。多分だが、ロルフは何かを教えられていない。だれに?それが問題を複雑にしている。最初は、マヤかと思ったが、マヤだといろいろ辻褄が合わない。それに、ロルフは、”俺”をマスターと呼んだ。これもおかしな話だ。マヤが主ではないのか?
「ロルフ様。リン様」
ヒューマが戻ってきたようだ。俺の呼び名が、”リン様”になっている。
『ロルフ。任せていいか?』
『はい。お任せ下さい』
ロルフにまかせておけば大丈夫だろう。敬意を示してくれている。無傷で出られれば十分だ。味方が欲しいとは思うが、俺の事情に巻き込むのは間違っている。
「それで、ヒューマ。隔世の祠を守護する者よ。変わりはないか?」
「はっ。長から、私が役目を引き継いでから、10年。問題はありません」
「そうか、他の祠がどうなっているのか知っているのか?」
「はっ。3つの祠は、人からの攻撃で潰されてしまいました」
「生き残りは?」
ヒューマが首を横にふる。
守護していた者たちの種族がわからないが、リザードマンと同じ程度の数なら、守備隊を当てたら討伐が可能だろう。俺も、何故か言葉が通じているから、コミュニケーションを取ろうと思えるが、言葉が通じなければ戦闘になっていた。
なぜ、俺の発している言葉が解るのか?俺が聞き取れるのもわからない。
スキルの恩恵なのか?
///スキル:隠蔽(1)、言語理解、念話(1)
///ユニークスキル:動物との会話(1)
///エクストラスキル:万物鑑定(1)
動物との会話で、会話ができるようになって、言語理解で理解できるようになっている?
よくわからないけど、”普通”は出来ないようなので、俺のスキルが影響しているのだろう。
最初は、”言語理解”は、皆が持っていると思ったが、女子たちは持っていなかった。
「マスター」
「ん?あっわるい。少しだけ考え事をしていた」
「いえ、それは構いませんが、ヒューマが・・・。と、いうよりは、リザードマンの長たちが、マスターのジョブを知りたいと言っているようです」
「ジョブ?」
「はい。できれば、スキルを知りたいと言っていまして、拒否したのですが・・・」
ヒューマを見ると、頭を地面に擦り付けるように、ロルフにお願いをしている。
「うーん。ヒューマ殿。どうして、俺のジョブやスキルを知りたいの?」
「はっ。リン様。私のことは、ヒューマと呼び捨てにしてください。それで、ジョブとスキルなのですが、リン様が、我と話ができる謎がそこに隠されていると長たちは考えていまして・・・」
何かを隠しているのか、教えられていないのか・・・。判断は出来ない。
「いくつかの条件をのんでくれるのなら、俺のジョブとスキルを教える」
「マスター!」「本当ですか?」
ロルフの頭を撫でながら、ヒューマを見る。
「それで?」
「まず、教えたとして、この集落以外の者たちに漏らさない」
「はい。それは当然です。我と長だけの秘密にします」
俺以外には言葉が通じないのだから問題はない。もし、リザードマン同士や他の種族と会話でバレたとしても、人と話は出来ないようなので、問題はないだろう。
「うん。それは信じる。もうひとつは、祠の守護を続けること」
「はい。我らの使命です。お約束いたします」
「最後の条件だけど、俺に戦い方を教えて欲しい」
「え?」
「ヒューマ。俺は、強くなりたい」
「はい?」
「俺とマヤを嵌めたやつらを許せない。復讐したいと思っているが、殺せるとは思えない。俺には、力がない。武器はあるが使う自信がない」
「・・・」
「基礎だけでいい。教えてもらえないか?」
「リン様が何をなさろうとしているのかわかりませんが、リザードマンと人との戦い方は違います。それでもいいのですか?」
「かまわない。武器の扱いを教えてくれるだけでもありがたい」
「わかりました。時間は、ありますか?」
「本当は、年単位で教えてくれと言いたいが、3日で”できる”ことを増やしたい」
「・・・。3日では、厳しくなりますが、良いのですか?」
「問題はない。死ななければ、なんでもやる」
「わかりました。我が、リン様に戦い方の基礎を教えます」
「ありがとう。ジョブとスキルは、長に伝えればいいのか?ヒューマに伝えればいいのか?」
「長の所に案内いたします」
「頼む。ロルフも一緒に来てくれ」
ロルフが、猫サイズに戻って、俺の肩に乗る。一緒に着いてきてくれるのは変わらないようだ。
ヒューマに案内されて、複雑な洞窟の中を歩いていく。一人なら迷子になれる自信がある。
5分くらいして奥まった場所に辿り着いた。
右手の部屋のドアを叩いて、ヒューマが中に呼びかける。
中から、聞き取りにくい声が聞こえてくる。リザードマンの固有の言語のようだ。
テーブルがあり、歳を重ねているが、眼差しは歴戦の勇者を思い浮かべる。そんなリザードマンが座って俺を見ている。
「リン様。ロルフ様。ご足労をいただきもうしわけありません」
俺の名前を先に呼んでいる。ロルフが、俺の頬を肉球でタップする。俺が対応しなければならないようだ。
「かまわない。長の”名”は?」
「儂には”名”はありません。長と呼んでください」
「わかった。それで、長は、俺のジョブとスキルを知りたいのだったな?」
「はい」
「理由を聞いてもいいか?」
「リン様。間違っていたらもうしわけないので、儂からお聞きしてもよろしいですか?」
「ん?いいぞ?」
「リン様のジョブは”動物使い”で、ユニークスキルに”動物との会話”があり、スキルに”言語理解”がありますか?」
ん?
なんで?
長の顔をまじまじと見てしまった。
「長。それは・・・」
どうしようか考えてしまった。
正直に答えてもいいとは思っている。それに、謎が一つ判明するかもしれない。