幕間 転生者(女)たち
/*** 静川瞳 Side ***/
私は死んでしまったようだ。
立花君達と凛君のいざこざの為に、バスの出発が予定よりも遅れてしまったことが、影響しているのか解らないが、バスが事故に合ってしまったらしい。
先生に、理由を説明しないとならなかった。私がこんな目に合わないとならないの?
凛君とは、家が隣同士で、幼馴染だったけど、中学までは、違う学校だったし、高校に入ってから、先生に言われて、気にかけているだけなんだけどな。
確かに、凛君は、同級生とは思えない落ち着いた雰囲気がある。弟さんや、ご両親が、死んでしまったことも、関係しているだろうけど、どこか私たちとは違う雰囲気がある。
父親が新聞記者だったことも、あっていろんな事を、知っているのも確かだし、母親も、タウン誌で記事を、書いていたからいろんなことが、詳しいのもわかる。中学の時に、弟をプールの事故で、亡くした時には声もかけられないくらいに、憔悴していた。それから変わってしまったようだった。以前は、話しかければ答えてくれたけど、今は、周りのすべてを遮断しているように思える。
そんな凛君が、私の横で寝ている。気を失っているが、正しいのかもしれない。
私が、起きたときには、数名しか目をさましていなかった。周りの子を、起こそうと思っても、何か、透明の壁の様な物があって移動することが、出来ない。
凛君の所には、壁が無いようで移動することが出来た。
一人だと心細いし、凛君が、何か知っているかもしれないから、起こすことにした
「凛君。凛君。起きて、ねぇ起きて」
すぐに凛君は起きてくれた。
「ひとみ?ここはどこ?僕バスに乗っていたよね?」
やっぱり、凛君も知らないようだった。
「うん。私も今起きて、隣に寝ていた凛君を起こして聞こうと思っていたの?」
凛君の答えを待っていると、頭の中に声が響いてきた
アドラと名乗った子供だ。本人?は、自分を神だと言っている。
立花君が、力でなんとかしようとしたが、ダメだったみたいだ。
アドラが今の状況を説明してくれた。理解できない事も多かったが、”まだ死んでいない”事が、わかってホッとした。
70名近くは、すぐに生き返る事が、出来ると聞いて安心した。
そして、アドラが柏手を売った瞬間に、甲高い音が部屋を支配した。
音が耳に届くと、目をつぶってしまった。これで、”助かったんだ”と、思って安堵感が心を支配した。
目を開けた時に、同じ部屋に、まだ私が残されている。立花君が何か喚いている。
心が、何かを拒否している。私は、生き返られないの?死んじゃうの?ママや、パパや、おじいちゃんにも、おばあちゃんにも、会えないの?泣きそうになってしまった。
「私も?」
と、呟くしかできなかった。
ダメ。泣いたらダメ。私は、委員長で、皆に頼りにされている。私が、なんとかしなくちゃならないんだから。私が、残されたのは、皆を導くため。きっとそうに違いない。
周りの壁も、消えたようだ。残された友達も、私の周りに集まってくる。不安を、押し殺すような表情で、手を合わせている。泣きそうな顔が、沢山ある。私も、今すぐにでも泣きたい。
アドラは、説明を続けた。
私たちの身体は、損傷が激しくて、”すぐ”に生き返らせる事が、出来ないらしい。
そして、実際には、3人死ぬ必要が、あるとの事だった。
その事実を告げられたとき、立花君がヒステリックに喚いた。
「そんなの、うすのろとそれをかばう女とだれか一人を決めればいいだろう?なぁそう思うだろう?」
うすのろは、凛君のことを言っているのだろう。かばう女って誰?
もう一人は、茂手木と呼ばれた男子が、”死ね”と、言われている。かわいそうにと思っていた。
周りの友達が、私から少し距離を取っている。そして、男子の視線も私に集まっている。
かばう女って私の事?私は、凛君を、特別視したりかばった事はないよ。そんな思いが、こみ上げてくる。死にたくない。まだ、沢山やりたい事がある。死にたくない。
「なんで、私が死ななきゃならないの?凛君の事は、先生に頼むて言われただけで、好きで気にしているわけじゃないしなんで私が死ななきゃならないの?あっ・・・」
なんで私が死にたくない。
言ってしまった。言ってしまった。私は悪くない。
みんなの視線が、私に集中しているのがわかる。
近くに居た凛君が、泣きそうな顔で、私を見てくる。友達も、私と凛君を、交互に見ている。
「ひとみ」
そう凛君に、呼び掛けられたが、何も答える事が出来なかった。
静寂を破るように、アドラが話し始めた。
異世界と、呼ばれる地球とは違う場所で過ごして、その間で順位を決める。
それで、一番になった人が、死んでいく人を、選ぶらしい。異世界のルールやスキルに関して説明してくれていた。私たちは、これからそこで過ごして、一番にならないと、確実に生き残れないことが、解った。立花君たちや、凛君が一番になったら、私は死ぬことになる。それは嫌だ。なんとか生き残って地球に帰る。
真由が、質問をしている。さっきやり玉に上がった茂手木君も質問をしている。
最後に、質問したのは、最近転校してきた、鵜木さんだ。彼女も、ご両親を、事故で亡くしていて、育ての親も、既に他界しているらしい。
そんな彼女が、一番最初にアドラの所に行って、球体に触っている。彼女の身体を、青い光が包んでいる。あれが、力を得た証拠なんだろうか?
真由が、近くに来て、
「ひとみ。凛君に謝ったほうがいいよ」
「・・・だって」
「ひとみが、あんな事を言うくらいに、追い詰められていたのはわかるし、凛君もきっとわかってくれるよ」
「・・・」
「それに、敵は作らないほうがいいよ。ね。ひとみも、凛君の事が嫌いじゃないんでしょ。」
「・・・・。うん」
「ほら、早く。謝るなら早いほうが、いいよ。ね」
「・・・うん」
あまり気乗りはしなかったが、確かに言われれば、敵は少ないほうがいいに決まっている。
それに、凛君は嫌いじゃない。気になったのは、真由が『ひとみ”も”凛君の事が』って行っていたことだが、言葉の綾なんだろうと思う事にした。
「凛君」
そう声をかけるのが、やっとだった。
「いいよ。もう僕に構わないで、今までありがとう。これからは、もう気にしなくていいからね」
「(え)」
そんな目で私を見ないで、
「凛君聞いて。ねぇ」
絞り出すように話しかけたが、振り向いて貰えなかった。確かに、自業自得なのは解る。もしかしたら、私が、凛君に依存していたのかもしれない。、そう思った時、全身に寒気が走った。失わないと、思っていたものを、失ってしまった、悲しみが、全身を駆け巡った。立ち上がれない。どうしよう。
「ひとみ」
真由が近づいてきて、支えてくれた。なにも聞かないで居てくれるのが嬉しかった。
「スキルを取ろう。向こうで凛君に二人で謝ろう。そして、凛君を助けて許してもらおう」
「・・・・うん」
真由と二人でアドラの所に行って、球体に触れた。
赤い光に包まれて、光が収まると、スキルが見られるようになっていた。
ジョブ:炎術師
体力:180
魔力:320
腕力:90
敏捷性:120
魅力:60
魔法:赤魔法(1)
スキル:隠蔽、詠唱破棄
ユニークスキル:属性無視
真由もスキルを取得している。真由は、黒色の光が発行して収まっていった。
触れて、ステータスオープンと唱えると同じような表示が出て来る。
ジョブ:氷術師
体力:180
魔力:320
腕力:90
敏捷性:120
魅力:60
魔法:黒魔法(1)
スキル:隠蔽、詠唱破棄
ユニークスキル:属性無視
二人して顔を見合わせた。
数値やスキルが炎と氷が違って、魔法が赤と黒の違いが、あるだけで他は全く同じになっている。
これなら、異世界で、真由を探す事も出来るだろう。本当は、凛君のステータスも見たいけど、見せてくれる雰囲気ではない。
真由と話をして、隠蔽を隠蔽して、属性無視と詠唱破棄も、隠蔽しておく。茂手木君が、言っていたように何があるかわからないから、隠蔽できるのなら隠蔽しておいたほうがいいだろう。それから、異世界で、会うための方法を、二人で考えていた。私は、ラノベを読まないけど、真由がアニメやマンガの知識がある。それで、真由の作戦に従うことにした。
異世界で”白い部屋”での事を思い出したら、あるか解らないが、右腕に、私は黒色の布を、真由は、赤い布を巻くことにする。そして、出来るなら。思い出した場所から一番近い宿屋にできるだけ滞在する。それから、二人で凛君を探すことにする。
二人で話している最中に、鵜木さんが凛君の手を引っ張って異世界に行ってしまった。
慌てて、私と、真由も一緒に、異世界に向かった。
/*** 重久真由 Side ***/
『異世界キタァァァァァァァァァァァ』
目覚めたら白い部屋だった。死後の世界?とも、思ったが、これは、間違いなく異世界転生の定番スタイルだ。
ワクワクした気持ちで、神様の出現を待っていたら、その通り”アドラ”と、名乗った子供のような神が現れて、状況を説明してくれた。
クラス全員ではなくて、一部の人間だけの転生になるようだった。
死ぬのは怖いし嫌だが、異世界転生なら話が違ってくる。
幸いな事に、私は地球に戻されないで、異世界に行くことが出来るようだ。
正直うれしい。これで退屈な世界からワクワクした世界に行けるのだ。
ひとみが、凛君に対する気持ちを爆発させている。そんな事言わなくてもいいのに....。それに、多分ひとみが、言ったことは、ひとみが自分で言い訳にしている気持ちなんだろうな。それが、解る私も同じなんだろうけどな。
力かぁ困ったな。
どうしたら良いんだろう?
こういう時ってチートで、たいてい異世界を変革できたりするんだけど、21人も居たら、それぞれでいろんな事が出来るだろうから、数を、集めるか、違ったことを、やらないとダメなんだろうな。まずは、ラノベの定番では、王族や豪商を助けてのし上がっていくか、冒険者になって有名になって国や領主になるかだろうな。偏見があるかもしれない世界で、女の身で何かをなすのは難しいだろうな。
それに、時間的な制約もありそうだし、有望な人とチームを組めればいいだろうな。
多分、立花と取巻きは順次まとまっていくだろうし、ひとみも、なんだかんだ言って、まとめ役にはなるだろうな。
立花とひとみだと、間違いなく立花の方が、暴力的で、野蛮で、下衆いことを、していくだろうけど、ひとみには勝ち目はないだろうな。優しい子だからな。私がサポートしても、難しいだろうな。
そうなると、凛君を味方に引き込む事だけど、ひとみがやらかした事で関係が難しくなりそうだな。
多分、立花達に対抗出来るのは、凛君だけだろうと、思う。それに、茂手木君も、多分私と、同類かそれ以上に、異世界転生を、喜んでいるだろう。
まずは、ひとみと行動を共にして、仲間を集める感じがいいかな。
異世界での生活や柵が出来ると、ひとみは動かないから、少し強引にでも、進める必要があるかもしれないな。
ひとみには、”私が凛君の事が好きだ”てことは、言っていないけど、大丈夫だよね。ひとみも、まだ自覚していないみたいだし、私みたいに、助けられたわけじゃないだろうからね。
凛君と、異世界で、過ごすのも悪くないな。
そんな事を考えていたら、アドラが一通りの説明を終えたみたいだ。
スキルや魔法が自分の好きな物がつけられないかだけは聞いておこう。
ダメらしい。でも、初級の魔法は使えるらしいから、魔法少女デビューは出来るようだ。
それだけでも、異世界に行く意味がある。後は、死なないための手段を考えていけばいいし、できれば、凛君と仲良くなれたら、もっと嬉しい。どうせ、凛君は、私の事は、ひとみの友達の一人程度にしか思っていないだろうから。
なんか、球体に、触れば力がもらえる?目覚める?らしい。さっさと、鵜木さんが、触りに行った。すごく綺麗に身体が発光して、収束した。あれが、スキルや魔法の力なんだろうか?
呆然としているひとみに、少しだけアドバイスを、しておこう。それで、ダメならまた考えればいい。
あぁやっぱりダメだったか。
とりあえずは、ひとみを、励ましてスキルをもらうことにしよう。
ひとみが、触ったら、炎の様な赤さを持った光に包まれていた。
次に私が、触ったら、海の底の様な黒い光に包まれた、ダークエンジェルみたいで、格好いいなんて思っていたら、光が収束した。
アドラが手を離していいよと言うので、手を話して教わった通りに、ステータスを見た。
ジョブ:氷術師
体力:180
魔力:320
腕力:90
敏捷性:120
魅力:60
魔法:黒魔法(1)
スキル:隠蔽、詠唱破棄
ユニークスキル:属性無視
強いのか弱いのかわからないけど、わざわざ書いてある事から、魔法を、使うには”詠唱”しなければならないことが、想像できる。それを、破棄出来るってことは、無詠唱で魔法が使えると言う事だろう。
一般的にも、持っている人が居るスキルなんだろう。ユニークスキルが、チート能力なんだろう、属性無視?何に対して、属性無視なのか解らないが、ラノベ的に考えれば、使える魔法が、属性に関係なく使えると、いうことなのだろう。
でも、使える魔法には”黒魔法”となっていて、ジョブが、氷術師になっている事から、黒魔法は水や氷に関する魔法なんだろうと思う。
魔法が使える!!
これで、目的の半分以上は、達成できた。
おっと、ひとみのフォロをしておかないと、あの子の事だから、何もしないで、居たら、チートスキルを、見せたまま異世界を、歩いていそうだ。
ひとみに声をかけて、私のステータスを見せた。同時に、ひとみのステータスも確認した。
驚いた事に、表裏一体のように、使える魔法が、違うだけで、数値もスキルも、同じになっていた。神様手を抜いたのかな?
検証は、後回しにして、スキルとユニークスキルを、隠蔽する様に話をして、自分も隠蔽した。その状態でもう一度、ひとみを確認したら
ジョブ:炎術師
体力:180
魔力:320
腕力:90
敏捷性:120
魅力:60
魔法:赤魔法(1)
と、隠蔽した物が隠されていた。これで一安心。
次は、異世界での待ち合わせを、決めないとならない。携帯電話は、もちろんメールもないだろうから、待ち合わせは、考える必要がある。姿形も、変わっているらしいから、目印を、決めるしか無い。
それで、あえればいいが、会えなかった時には探すしかない。異世界の文字が、どういった物になるか解らないが、日本語は、少なくても、ここの21人しか判断出来ない可能性が高い。危険性はあるが、日本語の印を残して待ち合わせる事にした。うまくいくかは解らない。
ひとみに、異世界での事を話していたら、アドラがゲートを、繋げた瞬間に、鵜木さんが、凛君の手を引っ張って異世界に行ってしまった。
まだ凛君のステータスを確認していないし、凛君とも話をしたかった。
ひとみに、追うよと声をかけて、ひとみと一緒に異世界に向かった。