ぶらり旅2
町は二、三メートルほどの高さの防壁に囲われていた。防壁としては低いが、それでも見上げるほどには高い。
門には両脇に門番が立っていたが、立っているだけで門を通るのに身分証などを求められることはなかった。
町の中はそれなりに賑わっている。町は食料の保管場所という役割の他に、森や地下迷宮への最前線の補給基地という役割もある。町の先にはたまにキャラバンを見かけることもあるが、基本的には補給基地は存在しない。森の中に臨時の集積場が出来ることはあるが。
首都から町まで徒歩で一日離れているので、食料に関してはこちらで補給することが多いようだ。食料保管庫でもあるので、食材の種類も豊富。それに付随して、保存食も含めて料理も進んでいた。
地下迷宮を攻略しだして、香辛料も豊富になった。地下迷宮は武器や防具、回復薬などの薬の他にも食料や香辛料も産出している。
基本的に日持ちする物ばかりではあるが、たまにその場でしか食べられない地下迷宮食材というのも見つかる。これは日持ちしないので地下迷宮を探索する者しか食べられないレア食材で、素材が良いのでほとんど手を加えなくても美味という代物。
話が逸れたが、そういった品々を産出する地下迷宮のおかげで、この国は急速に発展している。魔物避けの香の製法なんて結構前に住民が自力で辿り着いたほどだ。
地下迷宮の攻略速度もかなり速い。れいが次々ダンジョンクリエーターを放ってはいるが、それ以前からこの国は地下迷宮は可能な限り直ぐに潰すという方針を取っている。
これは近くに誰も攻略出来ない地下大迷宮が存在するからだろう。なので、育った地下迷宮の脅威というのを身近で感じているのだ。
もっとも地下大迷宮に関しては、れいの命令で中の魔物が外に出てくることはない。しかし、地下迷宮のモデルであるダンジョンでは、一定数魔物が溜まるとそれを外に放出するという知識は伝わっているので、実は住民達は結構恐々としているようだ。
ただ、れいとしては、それはそのまま放置しているつもりだったのだが、いつだったかエイビスが当時の神官長に告げたらしい。れいの力により地下大迷宮から魔物が外に出てくることはないのだと。
それで不安が完全に払拭されたわけではないが、それでもかなりの不安軽減に繋がったらしく、その出来事が未だにれいへの信仰が厚い一端を担っていたりする。エイビスもそれが目的だったようだが。
それはそれとしても、地下大迷宮への挑戦者は今でもそれなりに居る。攻略は最初から諦めているようだが、腕試しとしては丁度いいスポットという認識らしい。後、地下大迷宮はかなり育っている地下迷宮なので、浅い層でも見つかる宝箱の中身が高品質なのだそうだ。代わりに、浅い層でもたまに罠が仕掛けられていたりするのだが。
そういった部分で他の地下迷宮とは一線を画している地下大迷宮だが、挑戦者の間では、地下大迷宮の一層は他の地下迷宮の十層に相当すると言われている。
地下迷宮だけではなく、森の方の探索もかなり進んでいる。まだ他の地域の町と接触してはいないが、それも時間の問題だろう。北の森にはまだ辿り着けそうもないが。
地下迷宮からの産出品や、それを使用して鍛えた武具により、周辺の魔物は既に脅威というほどではなくなっていた。もっとも、それでも油断は禁物ではあるが。
魔物に関しては、既に制限を解除している。なので、森の浅い部分で狼が出たりというのも普通に起こっているし、町目掛けて魔物が襲撃してきたという事例もあった。
それらを退け、なおかつ森の探索や地下迷宮の攻略へと毎日かなりの数が向かっている。それらをしっかりと管理出来ているというのだから、大したものであった。
れいは町中を見回してみる。人と一口に言っても種族は様々。世界によって呼び名も異なるので、同じ種族のことを指す言葉が幾つもあった。
国としてはそれでは管理に困るので、公式に統一した種族名というのが存在している。ただし、それ以外を使用することに制限は無いので、公式の書類上では、というだけの話だった。……当時はそれが落としどころだったようだ。
それも、時と共に名前というのは浸透していくもので、最近では公式の種族名の方で呼ぶことが一般的になってきているらしい。
商人の呼び込む声に、値切り交渉をする客と商人の声、行き交う人々の話声など、市場は活気にあふれている。それでも道幅が広いので、窮屈というほどではない。
足下は整地された地面。大分前にれいは近場に石材用の石が採掘出来る山を設置したが、その石材は首都や街道の方を優先しているらしい。
人々の顔には活気がある。大きな荷物を持った者や物騒な装備をしている者なども多いが、荒々しい雰囲気はあまり濃くはなさそうだ。
子供が駆けていく様子も見られ、町の治安がいいのが窺える。
れいはそのまま横道を通って大通りから離れてみる。途端に喧噪が壁の向こう側のように遠くなったが、裏通りにも人はそれなりに居た。もっともこちらは住民がほとんどらしく、頭上に張られたロープで泳ぐ洗濯物など生活感がよく出ていた。
こちらの方に迷い込む者は珍しくないのか、れいに視線を向ける者は居ても、あまり警戒している様子は無い。
そのままれいは道なりに進み、町の反対側に到着する。町自体はそれほど大きいわけではなかったようで、半日ほど見て回っただけでも十分だった。