双子とコンビニおもてなし その2
スアの作った規格外の粉薬の影響で、産まれた直後から思念波で会話が出来る能力を兼ね備えている双子の女の子の姉、アルトなんですけど、
「でもさ、アルトはどうやって言葉を覚えたんだい?」
アルトを抱っこしながら僕が首をかしげていると、アルトはニッコリ笑ってですね、
『はい、私、お店の中でとてもステキだなと思う言葉遣いをなさっていたお方の言葉を、お母様のお腹の中でずっと拝聴しながら勉強しておりましたの』
そう、僕に思念波を送ってきました。
ほう、コンビニおもてなしの中でねぇ……っていうか、こんな純和風な言葉遣いをしている人って……
あ
僕の中に1人の人の姿が浮かびました。
すると、アルトは再びにっこり笑って頷きました。
『はい、魔王ビナス様でございますわ』
言われて納得です。
確かに、この言葉遣いって、まさに魔王ビナスさんです。
『素敵なお父様やお母様、パラナミオお姉様やリョータお兄様の妹として産まれるのですから、相応の言葉遣いを身につけておかないと、と思いまして一生懸命勉強させていただきましたの』
アルトは、そう思念波を送ってくるんですけど、僕はそんなアルトの顔の真正面に自分の顔を持っていきました。
「アルト、君はまだ赤ちゃんなんだからね。そこまで気を使う必要はないんだよ。のんびりゆっくり、そして元気に成長していってくれればいいんだからさ」
そう言って、僕は笑みを浮かべました。
すると、アルトってば、なんか感動しまくったような顔をしてですね、
『お父様……な、なんてお優しいのでしょうか……このアルトごときにもったいなさすぎるお言葉でございますわ……』
なんか、感涙流し始めたんですけど……だ、だから大げさだってば。
で、僕がですね、イスに座ってアルトとそんな思念波の会話を交わしていると、そんな僕の足元にリョータがとことこと歩み寄って来ました。
「ん? どうしたリョータ?」
『パパ、僕もですね、アルトの兄として、アルトにまけないくらいもっともっと頑張りますよ』
リョータは僕を見上げながら、そんな思念波を送ってきました。
僕はですね、右腕でアルトを抱っこしたまま、リョータを左腕で抱き上げました。
「リョータもアルトもさ、無理しなくていいんだよ。元気に成長してくれればそれでいいんだよ」
僕は、2人を交互に見つめながらそう声をかけていきました。
すると、リョータは
『パパ……本当に優しくて素敵です』
そう言って、僕に抱きついて来ました。
そして、アルトも
『お父様、お慕い申しておりますわ』
そう言って、僕に抱きついて来ました。
子供2人に抱きつかれてですね、至福この上ない僕だったわけです、はい。
で、普通な赤ちゃんのムツキは、一日の大半を寝て過ごしています。
っていうか、ホント起きている時間がほとんどないくらい寝続けているんですよね。 でもまぁ、リョータやアルトが規格外でしたし、これくらいが普通なのかも……僕はそんな事を思いながらベッドの上で気持ちよさそうに眠り続けているムツキの頭を撫でていき……ん?
「……この匂いは……」
……えぇ……眠っていても出る物は出るわけで……僕は慌ててムツキのおむつを交換していきました。
◇◇
そんな赤ちゃん達の相手をしながらも、当然コンビニおもてなしの営業もこなしていかなければなりません。
えぇ、張り切っていきますよ!
こんにちは赤ちゃんフェアを継続している関係で、コンビニおもてなしは相変わらずいつも以上のお客様でごった返しています。
フェアのお客様も確かに多いのですが、スイーツを求めてやってくるお客様も確実に増加しています。
昨年トゥエの月の25日にですね、クリスマスケーキならぬパルマ聖祭ケーキを作って販売したんですけど、これをパルマケーキとして売り出していまして、これがすごく評判がいいんですよ。
ショートケーキ状態にカットした物を2個セットにして店頭販売しているんですけど、コンビニおもてなし全店でですね、昼までに完売してしまっているんですよ。
ちなみに、ホールケーキは完全予約制で、かつ1日30個限定で販売しているんですけど、これもすでにオネの月末まで予約でいっぱいなんですよね。
このショートケーキは、魔法使い集落にあるコンビニおもてなし3号店でも非常に売れ行きが好調でして、毎朝品物が入荷する時間が近づくと、それを目当てにした魔法使いや魔法使いの使い魔達が列を成して順番待ちしているそうです。
で、そんな状態なもんですから、スイーツ担当のヤルメキスがパンク寸前になっているんですよ。
僕も手伝ってはいるんですけど、その程度ではおっつかないほどの作業量になっているんです。
「い、い、い、いえいえいえ、店長様、このヤルメキス、新婚だからこそ気合いをいれていくでおじゃりまする」
そう言って頑張ってくれてるヤルメキスなんですけどねぇ……
そんなヤルメキスをフォローするために、お菓子職人募集の告知を出しているんですけど、お菓子職人ゆえにある程度の経験者希望って一文加えたせいか、問い合わせは何件かあったんですけど、実際に面接に来てくれた人はいない状態なんですよね。
そんなわけで、頭を悩ませていた僕なんですけど、そんな時ある方が僕を訪ねて来ました。
「店長ちゃん、ちょっといいかしらね、おばちゃま、店長ちゃんにお願いがあるの」
そう……オルモーリのおばちゃまです。
ヤルメキスの義理のお婆さんです。
オルモーリのおばちゃまはですね、いつも引き連れているヤルメキス親衛隊のおばさまの中の2人を連れてきていました。
「店長ちゃん、この2人ね、双子の姉妹なんだけどね、とってもお菓子を作るのが上手なの。もしよかったらね、ヤルちゃまのお手伝いをね、おばちゃま、させてあげてほしいなと思うのよ」
「姉のキョルンですわ」
「妹のミュカンですわ」
なんか、妙にゴージャスな雰囲気を醸し出してるお2人……すさまじいボンキュッボンな上に、露出の激しい服装しています。
で、かなり濃いお化粧をなさってるんですよね……なんか、香水の匂いもしていたんですけど、
「作業の際は、この化粧も香水もすべて取り払いますわ。ねぇミュカンさん」
「えぇ、お任せくださいですわ、キョルンお姉様」
2人はそう言いました。
で、まぁ、せっかくのオルモーリのおばちゃまの推薦ですし、
「じゃあ、とりあえず試験をさせてもらってもいいですか」
僕はそう言って、2人を厨房に案内することにしました。
で、
2人はですね
「では、準備してまいりますわ。行きますわよミュカンさん」
「えぇ、わかりましたわ、キョルンお姉様」
そう言いながら、店の奥にある店員休養室に異動していきました。
待つこと30分
出て来た2人はですね、顔にマスクを被っていました。
風邪の時に口を覆うマスクじゃありません……プロレスのマスクマンが被るような、そんなマスクです。
キョルンさんは、どこかミ○マス○ラスのような……
ミュカンさんは、どこかド○カ○スのような……
そんなマスクで顔を完全に隠している2人はですね、体も全身タイツで覆っています。
一応肌は出ていないのですが、どこかSMの女王様……いえ、なんでもありません。
と、まぁ、すごい格好の2人ですけど……
お菓子を作る腕前はかなりのものでした。
ヤルメキスと一緒にパルマケーキを試作してもらったのですが、なかなかな手際の良さです。
さすがに、ヤルメキスには劣りますが、ヤルメキスの補佐をするのには十分な技量を兼ね備えていると言えました。
格好はともかく……うん、これは思わぬ掘り出し物といえるでしょう。
てなわけで、キョルンさんとミュカンさんには早速明日から来てもらうことにしました。
「急なお願いですけど、大丈夫ですか?」
「えぇ、おまかせください。ねぇ、ミュカンさん」
「はい、問題ありませんわ、キョルンお姉様」
2人は腰に手をあてて、どこか妖艶なポーズをとりながらそう言ってくれました。
……これで、顔がマスクでなくて、体がSMチックな衣装でなかったら、かなりの破壊力だといえるでしょう。
◇◇
そんなわけで、お菓子職人にも目処がつき、安堵した僕は、夕食を済ませると、のんびりお風呂に浸かっていきました。
赤ちゃん達は、スアママのリテールさんがわざわざ会社から転移してきてお風呂にいれてくれました。
忙しい方なんですけど、隙間時間を見つけては、我が家にやって来てくれてるんですよね。
で、長居しようとすると、すぐに魔女魔法出版のダンダリンダがやってきて連れ戻していくのが定番になっていまして……
で、僕がのんびりお風呂に入っていると
「パパ、パラナミオも一緒にはいります!」
そう言うが早いか、風呂の中に裸のパラナミオが乱入してきました。
パラナミオは、体を洗ってから、僕が入っている湯船に入って来ました。
「パパ、赤ちゃん達、みんな可愛いですね。パラナミオも嬉しいです」
そう言いながら、パラナミオは僕に寄り添って来ました。
そして、
「……赤ちゃん達、可愛いですよね……」
再度そう言ったんですけど……ちょっと様子がおかしいです。
僕が、パラナミオの方を見ると、パラナミオも僕を見つめていました。
パラナミオは、いつものように笑顔を浮かべてはいるんですけど……気のせいか、どこか寂しそうな感じがします……
あ……ひょっとして……
僕は、パラナミオをそっと抱き寄せました。
「赤ちゃん達も可愛いけど、パラナミオもとっても可愛いよ」
僕がそう言いながらパラナミオを抱きしめていると、パラナミオは、ようやくいつもの元気な笑顔に戻りました。
多分、あれです。
みんなが赤ちゃんを構うもんですから、さすがのパラナミオもですね、自分のことも構って欲しくなったんじゃないかなって……
パラナミオは、僕に抱きついたまま
「パパ、ありがとうございます。パラナミオ、元気でました。もう大丈夫です」
そう言うと、僕に向かっていつものように目を閉じました。
で、僕も、いつものようにパラナミオの頬にキスしてあげようとしたんですが……パラナミオは、そんな僕の顔を両手で掴むと、いきなり僕の口にぶちゅっと、自分の唇を押しつけてきました。
「……えへへ、パパ、ごめんなさい」
パラナミオは、照れ笑いを浮かべながら、頬を赤く染めていました……まったく、困ったおませさんです。
……でもまぁ、今日は特別ですかね。
僕は苦笑すると、
「……今日だけだよ、ママが怒るからね」
そう言いました。
お姉ちゃんとはいえ、パラナミオもまだ甘えたい盛りですからね。
赤ちゃん達と同じくらい、パラナミオのこともかまってあげないと……僕は、改めてそう思いました。