ふと振り返り思う今
時というのは直ぐに流れていく。
子が育ち、孫が出来た頃には、新しい村が出来ていた。いや、あれは既に町だろう。まだこちらの町よりは小さいけれど、人も随分と増えたので、今でも拡張し続けている。
こちらの町には時折突如として建物が増えることがあるので、あまり手を加えられない。それでもこちらの方が中心ではある。
向こう側の町は妹が取りまとめているが、そろそろ木材の心配をしないといけないかもしれない。れい様が用意してくださった森も、町一つ分ともなるとかなり減ってしまった。
周囲の森からとなると、危険もあるからな。メイマネ様には報告しているが、どうなるかはまだ聞いていない。近いうちに何か変化があるだろう。
町にはどちらも防護柵のようなものは存在しない。拡張の邪魔になるからというのもあるが、最大の理由はメイマネ様達管理補佐の方々が平原に出てきた魔物は倒してくださっているから。なので、柵がなくとも問題にはなっていない。
管理補佐と言えば、新たに二人メイマネ様の補佐として送られてきた。そして、元々メイマネ様の補佐をしていた一人は、妹が取りまとめている町の方の管理者として派遣された。
新しい補佐二人に関しては、メイマネ様が基本的な部分を教えた後、一人は妹の取りまとめている町の方に補佐として向かうらしい。その話を聞いた際に、何事も勉強だとメイマネ様が仰っていたので、新しい管理者としての勉強の一環として、補佐を育てる経験をさせるのだろう。
まぁ、妹に取りまとめさせているとはいえ俺達も町づくりに手を貸したので、何と言うか、俺達みんなで造った町といった感じが強い。こちらの町は元々用意されていた町だったからな。
もっとも、それに不満があるわけではない。衣食住は揃っているし、割と自由に過ごせる。不満があるとすれば娯楽が少ないことだろうが、その辺りの時間は訓練や森の探索に割けば暇は無くなる。
そういえば、れい様から頂いた加護にすっかり慣れたおかげで、今では地下迷宮の最初の層ぐらいなら探索出来るようになった。油断は出来ないが、これは結構大きい。元々俺は、地下迷宮上部に建っている神殿にさえ辿り着けるか怪しかったからな。
歳を大分取ったが、それでも肉体は若々しいまま。これも俺は加護のおかげだと思っている。
そういえば、地下迷宮で幾つか宝箱を見つけた。武器や防具だけではなく、薬まで入っているのだから実に不思議なものだ。
武器や防具はちゃんとしたものだし、薬もメイマネ様に調べていただいたが、服用しても問題ないらしい。
この地下迷宮をダンジョンと呼んでいる者達に言わせれば、これは普通なんだとか。ああちなみに、出てきた装備は良いものではあったが、メイマネ様が貸与してくださる装備の方が性能は上であった。
この辺りも、ダンジョンと呼ぶ者達曰く、階層を下りれば性能が高いものになっていくらしい。あ、薬は回復薬とかいう胡散臭い代物だった。小さな傷なら直ぐに治るという信じられない性能だが、ダンジョンと呼ぶ者達は普通の物として扱っていて驚いた。それは文字通り住んでいた世界が違うのだというのを実感出来た出来事だったのは言うまでもない。
さて、町の方はとりあえず平穏なままだが、昔を思い出すと、随分と規模が拡がったと思わざるを得ない。妹と二人だけしか住民が居なかった日は今でも思い出せる。
本当に時の流れは早い。通りを走る子供を見てそう思う。だって、あの子供達はこの世界で生まれた子供達なのだから。それどころか、この世界で生まれた子供の子供もいるほど。まぁ、つまりは俺の孫なのだが。そりゃあ時も流れているというものだ。
今でもたまにあの日、この世界に来る直前のことを夢に見る時があるが、あれのおかげでこの世界に来られたのだと思うと、あれは良い出来事だったのかもしれないと、今なら思える。
通りを眺めながら庭を弄っていたが、振り返って我が家を見上げる。そこには立派な城が聳えていた。
「まさかこんな家に住む日がくるとはね」
元の世界に居た時は考えたこともなかった。自分の家が持てることもだが、その家が城だなど誰が想像出来るか。
「人生ってのは分からないものだ」
まだまだ現役のつもりでも、もう結構な高齢だ。俺の居た世界だと、四十を超えれば年寄り扱いだったからな。五十を超えれば結構な長寿だ。
年齢をしっかりと数えていたわけではないが、俺はまだ五十にはなっていないと思う。しかし、もうそろそろそのぐらいだろう。本当に、人生は何が起きるか分からないものだな。
立派な我が家に入りながら、俺はもう一度そう思うのだった。