第二話 学校のパソコン
処分が発表されてから、2週間が経過した。学校の雰囲気が元に戻ってきた。
俺は何も変わらない・・・と、思ったが、学校での仕事が増えた。ストレスが溜まっていく。
生徒会の仕事は、ルーチンワークになってきているので、それほど苦痛ではない。部活連の仕事は、会頭が生徒会に入って回しているので大きな混乱はなかった。反発はものすごかった。部活に関する申請を、部活連から生徒会に変わるだけで何が問題なのか解らなかった。
「篠崎」
作業をしていた。元部活連の会頭である十倉さんが俺に話しかけてきた。
「はい?」
「部活連のやり方が正しいとは言わないが、生徒会のやり方も面倒だ」
「それは以前にも話しました。二重のチェックは必須です」
「それは解っている」
「それに、誰が抜けても同じ結果にならなければ、仕組みを作る意味がありません」
「それも解っているが・・・」
「十倉さん
「お前は厳しいな」
「いえ、違います。俺は、”楽がしたい”ただそれだけです。書類の形式を揃えるだけでも、手間は省けます。良からぬ事を考えている人たちは、どこかに嘘が入ります」
「わかった。わかった。俺が悪かった。でも、パソコンでの申請とかに切り替えられないのか?」
「もちろん、可能です?でも、やりません」
「なぜだ?」
「楽になってしまうからです」
「ん?意味がわからないぞ?」
「十倉さん。申請がパソコンからできるようになったら、簡単に申請を行いますよね?」
「そうだな」
「今よりも、申請を行う頻度があがります」
「あぁ」
「面倒だって事もありますが、それ以上に、部活内でのコンセンサスを取る作業を怠るようになると思いませんか?部活連の末期には、それこそ”部内で使うSDカードが足りない”だけで審査を通していましたよね?誰が、何に使って、何枚が必要なのか?各部の部長の許可が取られていない物もありました」
本当は、十倉さんの問題でもあった。
副会頭に権限を渡すのはいいけど、決済書類くらいには目を通して居れば問題はもっと早期に解決していた可能性だってある。
「そうだな。でも、部活では急に必要になる場合だってあるだろう?」
「ありません。特に運動部で、何が急に必要になるのですか?道具ですか?場所ですか?」
「道具が壊れる事もあるだろう?」
「他の道具を使えばいい。個人で思い入れがあるのなら、個人で買うべきだ。学校の予算で用意するのなら、しっかりと管理すべきなのです」
「篠崎。それでは、実績を残している奴らがやる気を無くす」
「実績?なんですか?運動部は、必ずと言っていいほど、実績を言いますが、学校に何か帰依しているのですか?」
「篠崎。それは、どういう意味だ?」
十倉さんの期限が悪くなるが気にしないで続ける。
実績とかいう曖昧な物で、不正を放置してきているのが我慢できない。
「だから、県大会で入賞した。全国大会で入賞した。俺から言わせたら”だからどうした”以外に言葉が出てきません。個人的には、”おめでとう”や”頑張ったね”や”よかったね”とは思いますが、実績を残したから”予算を上げろ”は意味がわかりません。入賞出来ない部は、頑張っていないのですか?予算を割り当てる意味が無いのですか?」
「それは違う。学校の名前を有名にしたり、感動を与えたり、恩恵があるだろう?」
「え?学校の名前を有名にするのが目的なのですか?入賞しないで頑張っている部は、感動を与えないのですか?マラソンとかで、足が早い人だけが感動を与えるのですか?」
「有名になれば、次の年に入学が増えたりするだろう?」
「誰か、統計を作成したのですか?実績がある部があるから入学する?そりゃぁすごいですね。でも上限が決まっていますよね?十倉さん。うちのここ数年の倍率は知っていますか?軒並み1倍を越えていますよ?これは、部活の実績があるからですか?違いますよね?」
「・・・」
「この際だから言っておきます。部活連が実績を元にとか言っているのは、声が大きな部活が勝手をするための方便です。華道部が全国大会に出たのを知っていますか?入賞はしませんでしたが、特別賞を貰っています。しかし、割り当てられている予算は、野球部の1/5以下です。それで、野球部は県大会で何位でしたか?一回戦に勝てましたか?」
「それは部員数が違うから・・・」
「華道部の部員数は、12名です。野球部は37名です。実績をベースに考えるなら、華道部は大幅にアップして、野球部は華道部以下ですね」
「それでは、野球部の遠征や練習が・・・」
「華道部は、自ら近くの花屋やスーパに赴いて、捨ててしまうような花を貰ってきたり、花の扱いを学ぶためにバイトを申請してきたり、自分たちでなんとかしています。全国大会の為に必要になるお金を作るために部費には手を付けないでやりくりしています。野球部はどうですか?遠征の度に部費を使っています。足りなければ、OBにまで集ります。野球部も華道部と同じようにできますよね?野球やサッカーだけが特別に予算を割り当てられているのが、俺には理解できません」
「・・・」
「十倉さん。せっかくだから考えてください。部活連は、文化部を完全に下に見ていましたよね?違うとは言わせません。違うのなら、文化部から予算を吸い上げる様な仕組みを作りません。今までの生徒会が全面的に正しかったとは言いません。ぬるかったのは認めます。予算の配分から逃げていたのでしょう。そこを、部活連に転がされたのでしょう。どうしたら、予算をうまく配分できるのか?実績なんて曖昧で不確かな物ではなく、皆が納得するしかない方法で決められませんか?」
十倉さんは何も言えなくなってしまった。
当然だ、何か反論する為の数字を把握していないのだ。
「篠崎は、何か考えがあるのか?」
「簡単な方法がわかりやすいとおもうのです。部活連と生徒会の予算が一つになりますよね?」
「そうだな」
「今年度はもう無理ですが、来年からは5月時点での部員数で頭割りした金額を予算とします。そのときに、3年生は0.8。2年生は1.2。一年生は1.0で計算します。学校から出てくる予算は毎年違いますので、全予算の半分を部活に割り振り。残りは、申請してきた部活に予算として割り振っていく」
「それはわかりやすいな」
「はい。ですが、幽霊部員の存在や、部の掛け持ちをどうすべきか、考えなければならない事は多いと思います」
「そうだな。篠崎。その作業を俺にやらせてもらえないか?最終的な確認は、お前や生徒会の役員に任せるが、草案は俺が準備したい」
「ありがとうございます。現場を知っている十倉さんならもう少しいいアイディアが出せると思います」
「おぉ任せておけ」
どうなるかわからないが、全部を俺が行う必要はない。
予算の配分も問題だが、湯水のように使っていた予算で購入していた、機材が行方不明になっている物が多すぎる。運動部だけではなく、文化部も同じだ。資材管理が出来ていない。電脳部に管理用のサイトを作ってもらっているが、購入を含めて生徒会で管理を行うしか方法がないのかも知れない。小物はどうするのかを含めて考えなければならない。
「そういえば、篠崎。今度、学校のパソコンが一新されるのだろう?」
「えぇそうらしいですね」
「古いパソコンを、各部に配布すると聞いたが?」
「はい。同好会までは無理ですが、部には支給されます。同好会には、誰でも使えるパソコンを数台は用意する予定です」
「それで、急にパソコンが新しくなるのだ?」
「え?あぁ。セキュリティ大会で、電脳部が優勝したので、スポンサーさんが学校にパソコンを導入してくれるらしいですよ」
「え?そりゃぁ本当なのか?」
「えぇスポンサーというか、学校が県に申請して許可されたらしいですよ。実際には、スポンサーが付いたのも本当です」
「でも、それなら電脳部が勝ち得た物だろう?いいのか?」
「何台もあっても困りますからね。今は、部活連やパソコン倶楽部がめちゃくちゃにした、サーバやパソコンの修復で手一杯ですからね」
「そっそうか・・・。でも、確かに、各部にパソコンが配れるのはいいな」
「はい」
「ネットも使えるのだろう?」
「その予定です」
問題は発生するだろうが、電脳部が決定して、戸松先生だけではなく、他の先生方も賛成した。
学校のネットワークとは直接は繋がらない。電脳部が用意した、ルータを通して繋がる仕組みになっている。他にもいろいろ計画をしているようだ。