とある世界の終焉
「………………おや?」
れいがそう声を発したのはハードゥスではなく、れいの本体が管理している世界。その中心。創造して直ぐの頃のような真っ白な部屋に、れいは一人で佇んでいる。
その場所から世界を管理し、人知れず支えているれいだが、自身の分身体を大量に生み出してあらゆる世界を監視しているので、本体は動くことなくあらゆる世界の情報を収集できた。
そのあらゆる世界に張り巡らせた情報網の中から、今し方とある世界が消滅した事が流れてきた。とはいえ、世界の消滅は多くは無いが珍しいというモノでもない。無数に世界が存在するようになったのだから、その中から管理者が上手く管理できなかった世界が出てくるのは必定。管理者にだって個性はあるのだから。
例えば、怠け者の管理者。世界をろくに管理しない管理者が管理する世界が長続きする道理はない。
例えば、管理を放棄した管理者。怠け者以上に管理しようとしていないのだから、長続きどころかそんな世界は直ぐに消滅する。
例えば、相手の話を聞かない管理者。これは管理する分だけ比較的まともだが、しかし自分以外の意見を聞かないので、何か大きな問題が起きれば対処しきれずに自滅して世界が消滅する。
管理業務はそんな簡単なモノではない。一からの手探りなのに一人で完璧に管理してみせた管理者などれい以外には存在しない。その成果が、他の管理者が参考にしている管理方法の基礎なのだから。
そういう訳で、世界の消滅は珍しくはない。頻繁に起きるわけではないが、それでも今までに幾度も起きた事だ。特に最近は若い世代の管理者の世界が消滅することが多い。
今回はその中の一つである、若い世代の管理している世界が今までの世界よりも消滅する頻度が増したという、その原因の最も大きな部分を占める要因を作った世界。
つまりは、特殊な力を世界に満たすという方法を行った最初の世界。その世界が消滅した原因は珍しく、いやこれまでで初めての案件だった。なにせ、管理者が斃されるなどという間抜けな結果だったのだから。
しかも、管理補佐による反逆の結果などではなく、自身が創造した存在に牙を剥かれた結果。そんなもの、間抜け以外に何と言えばいいのか。
「………………危惧した通りですか。まさか愉しむために何人か強化して競い合わせるとは、あまりにも愚かしい」
元々、世界を満たす特殊な力とそれを扱う力のバランスがおかしかったので、れいはいずれ管理補佐ぐらいには届く個体が現れてもおかしくはないと考えていた。しかし、その後に管理者はあろうことか、個体を強化して更に強くしてしまうという愚行をしでかす。
もっとも、強化されたといっても最終的には管理補佐を超えるぐらいで、管理者までは届かないはずだった。だったのだが、そこに想定外の存在が現れる。
それは、捕食した相手の力を奪うという存在だった。その存在が、強化された個体をまだ育っていない段階で捕食してしまったのだ。そして、その強化された力を奪ってしまう。
それからもそれは成長を続け、最終的には管理者が強化した個体の多くはそれに食べられてしまう。管理者は愚かにもそれを娯楽として放置した。
この話がそこで終われば、確かに娯楽という事になったのだろう。しかし、その個体は更に世界に牙を剥く。
強くなりすぎたその個体は、ある日偶然出会ってしまったのだ、世界の管理補佐の一人に。その結果として管理補佐を捕食したそれは、更なる高みに至ってしまう。
そして、管理補佐を捕食した事で神域とでも言えばいいのか、管理者達が世界を管理している空間に侵入出来るようになってしまった。
その後は簡単な話だ。管理空間に侵入したそれは、片っ端からその場にいた管理補佐を喰らい、遂には管理者を超えた存在にまで育ってしまう。
そこまで来て、やっと管理者も自身の失態に気づくも、もう手遅れだった。気づいた時にはそれが目の前に居たのだから。
管理者を失った世界は、管理が行われなくなる。世界の管理というのはかなり繊細で難しい。そして、常に管理していなければ世界に綻びが生まれ続けてしまう。
そして、あっという間に世界は破綻した。力が在ってもそう易々と管理は出来ないのだ。管理者が世界を管理出来るのは、管理者がはじめから世界を管理する存在として創られているから。
世界の消滅と共に、管理者を捕食した存在も消滅した。消滅前に管理者の力を使って他の世界に移動しようとしていたみたいだったが、それは監視していたれいが許さなかった。どんなに強くなろうとも、れいにとっては他と大差ない。れいから見れば、それは生まれた頃から全く成長していないようなものだった。
この事態は直ぐに他の管理者にも伝わる事だろう。だが、それでも同じように管理者が斃れて世界が終わるという結末が今後も起こるのだろうなと、れいは思った。世に愚か者が尽きる事はない。
「………………これを教訓としてくれればいいのですが」
しかし、愚かな管理者は他にも居る。
「………………さて、どう対処しましょうか? とはいえ、これは私の関知するところではないと思いますが」
最近、一部の管理者達が他の世界から資源を奪うという自体が発生している。大抵は人だが、それも大事な資源だ。
元々は交換留学とか、細かな取り決めの下で互いの資源を交換したりなどしていたようだが、それが巡り巡って暴走した結果らしい。
とはいえ、それに関してれいは何の責任もないのだ。監視しているが、今のところ介入するつもりはない。それに、既に管理者の教育や管理は第二世代以降の者達に任せている。まずはそちらが動くのが先だろう。
「………………動いてはいるようですが、まだ大人しい」
取り締まるために水面下で着実に足場を固めているようだが、れいにしてみればそこまで必要だとは思えなかった。今回は直ぐに動いても問題ない案件だとは思うが、口を出さない事にしているので、今まで通りに沈黙を選ぶ。
「………………それにしても、本当に若い世代は話題に事欠きませんね、これも指導による結果ですかね」
そう言って、れいは小さく笑う。なにせ、交流場でれいに直接喧嘩を売るような愚か者達が生まれた世代なのだから。