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「軍師キバ、貴様をドラゴニア王国から追放するものとする」
キバは国王に唐突にそう告げられた。
まさに青天の霹靂だった。
キバ・アトラスは大陸一番の国、ドラゴニア王国の軍師だ。
召喚によって呼び出され、この国の軍師として戦略やその他軍運営を一手に担っていた。
それが、突然“追放”だと言われたのだ。
「なんの冗談ですか……?」
キバが聞き返すと、国王は答える。
「冗談なんかじゃない。お前はもはや不要だと言っているんだ」
「そんな……」
「召喚者だからと期待したが、お前の命令と言えば、敵軍を包囲しろとか、まとまって突撃しろだとか、サルでも思いつく当たり前のものばかりじゃないか」
それは確かに事実だけど、でも、それがベストだからそうしているだけなのに……
「腕力はその辺のガキにも負けるし、魔力はゼロときた」
「そりゃ俺は軍師なんで、知能にステータス全振りなんですよ……」
「その戦略が大したことないって話だ」
「……そんな」
「戦士としても、魔法使いとしても、軍師としても、なんの特別な力も持っていないお前に指図されてムカつくと言う兵士も多かったんだ。じゃ、そう言うことで」
そう言った次の瞬間、国王はキバの腹めがけて蹴りを飛ばしてきた。キバは避ける間も無く、後ろに吹き飛ばされる。
「痛ッ……」
「ほら、失せろ!」
キバは痛みと涙をこらえながら、王宮を後にした。
城門を出て、城下町の通りに出ると、周囲の町人たちがキバをみてあざ笑う。
「でた無能軍師!」
「進め!しかいわねぇ穀潰しじゃねぇか!」
「相変わらずチビだなぁ!」
民衆たちはキバをみて嘲笑う。
……チビは余計だ……
キバは足早に、街を後にした。
「ああ……どうしようかな……」
貯金は決して多くないが、それでもなんとか国を出て新しい家を借りるくらいはあるか……
しかし、問題はどこに行くかだ。
七王国時代――
この世界には、ドラゴニア以外に6つの大国あるが、そのいずれも昨日までの敵だった。
七王国のなかで最大の規模を誇るドラゴニア王国の軍師だった人間が、他の七王国に足を踏み入れれば、身が危ない。
戦国の世の武将たちと言ったら、血気盛んだからな……
となると、よし辺境の地に向かおう。ドラゴニア王国の外れにある、アルザス国くらいがいいか……。資源も全くなく、交通の要所という訳でもない国で、あまりに価値がなさすぎて誰も攻める気にならないがゆえに生き残っている弱小国だ。
辺境の地でまったり余生を送るのも悪くはないか……