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第6章-3 時空境界突破。交渉。そして冒険

「ふぅう・・・。中々に疲れる交渉だった」
 大きく息を吐き、蒼空はチェアーの背もたれに体を預けた。
 蒼空に対して同時に4人が、敬愛の念を込めた挨拶と、礼儀正しく深々とお辞儀する。
「「「「お疲れ様でした」」」」
 新開グループは、ルリタテハ王国内で売上順位で第31位、経常利益では第9位の巨大企業グループである。機械、エナジー、量子、化学など科学分野の企業に偏っているが、それでもグループ内には様々な分野の会社が存在する。
 彼らは4人とも新開グループの社員で、各々は法律、交渉、情報、軍事のスペシャリストである。
 4人は蒼空と同じく、新開グループの正装に身を包んでいるが、5人目は新開グループの作業服を着ている。
「ありがとうございました、お祖父様。これで空人もレポートを提出する頻度が増えるでしょう。ボクは研究に戻ります」
 ジンとの交渉時とは全く異なる穏やかな表情で、蒼空は孫に返事をする。
「ああ、頼んだ」
「頼まれました。任せてください、お祖父様」
 空人の父親である優空は、颯爽と部屋から退出していった。

 蒼空との交渉を終え、感情と表情の連動を戻したジンがコンバットオペレーションルームに入った。
「どうなされました、ジン様。交渉が不調に終わったのでしょうか?」
 盛大に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていたのだ。ジンは渋々ながらも、不機嫌な声音で事実を告げる。
「3勝だったな」
 ジン専用の通信ルームからのデータ通信の傍受は、ユキヒョウ内からでも不可能な仕様となっている。戦略戦術コンピューターをハッキングしても無駄である。通信を傍受するにはユキヒョウの全システムを統括し、最上位権限を持つ限定人工知能をハッキングせなばならない。
 ユキヒョウの限定人工知能への命令権限を所持しているのは、ジンと風姫だけであり、複数の生体認証が必要となっている。その情報とAIの判断基準は、データ書き換え不可能なモジュールとして、量子コンピューター内部に実装されているのだ。
 それゆえ彩香には、交渉がどうなったのかをジンから直接訊くしかなく、恐る恐る尋ねる。
「それでは・・・」
 彩香の台詞を遮り、ジンは言葉を継ぐ。
「しかし、11敗したのだ」
 長い沈黙の後、ジンは蒼空との交渉過程と、その時の様子を語り始めた。それは、彩香に聴かせるため・・・ではなく、交渉過程を再度辿り、交渉結果を整理するためだった。そして整理が終われば、対策を検討せねばならないのだ。

 宝船の見学ツアーが20時間を超えようとしていた時、突如として宇宙戦艦3隻が同時にワープアウトしてきた。
 1隻の宇宙戦艦が完全にワープアウトした。その船体を纏っていた超エナジーは、繭を解くように薄れていく。その宇宙戦艦の全容が、顕れ始める。船体は黒一色で塗装されていて、船籍コードを発信していない。
 次の瞬間。
 ユキヒョウからダークエナジーを含んだレーザービーム”幽谷”が、正体不明の宇宙戦艦に突き刺さる。しかし突き抜ける程ではなく、与えた損害は小破であった。
 少し遅れて、宝船のレーザービームも船体中央に命中する。宇宙戦艦の装甲を何とか貫ぬくが、爆発は起きなかった。
 だが宝船は、レーザービームだけでなくミサイルも発射していた。
「いきなり攻撃するのかよっ!」
『先手必勝だ』
「当たり前だわ」
『ユキヒョウと遭遇するとは、運がない宇宙戦艦ですね』
 他人事のように言っていたが、オレは彩香が幽谷を操作しているのを今も目撃している。幽谷を発射したのは、間違いなく彩香だ。そして今なお苛烈な攻撃を続けている。
 ユキヒョウ乗務員の中で唯一人、史帆は声を出していなかった。ただ、その表情は凍りつき、立ち竦んでいる。
 取り乱したり、叫び出したりしないだけマシか。
 前もって、ユキヒョウが戦闘した時の映像を見ていた成果なんだろうな。
 宝船から発射したミサイルが、宇宙戦艦に命中し装甲を傷つける。それでも、装甲を穿つことは出来ない。
 しかし、その中の1発が、宝船のレーザービームで空けた装甲の穴に吸い込まれる。
 宇宙戦艦が大破したのだった。
 それを見て、ジンが真顔でゴウと翔太を褒める。
『宝船の船長ゴウよ。良い判断だ。それに翔太。良い腕だ』
 オレにとって、違和感が半端ないジンの言葉だった。
 ジンが他人を褒めてるのもそうだが、ゴウの後先考えてないような行動が褒めらている。
「・・・なあ、オレの感覚がおかしいのか? まずは、オープンチャネルによる交信じゃねぇーかな」
 輝く繭が完全に消えた。船体を晒した宇宙戦艦に、TheWOCブランドを顕す紋章が両舷に描かれていた。
「通信チャネルが繋がった瞬間に、私たちは宇宙の塵になるわ」
『そうですよ、アキト。一瞬の判断が命取りになるのが戦場です』
「・・・ここは、戦場じゃねーぜ。それにTheWOCって民間企業だよなぁあ」
 ツッコミにキレがないのは自覚あるぜ。頭では理解してるんだけどな・・・。この宙域でオレ達を護れるのは、オレ達だけだ。オレが甘いのだろう。
『宇宙戦艦が他国の領域に侵犯してきたのだ。その時点で、そこは既に戦場だ』
 これがルリタテハ王国で神と崇められ、現ロボ神となった男の所業か?
 それよりオレはトレジャーハンター。
 いや、今はエレメンツハンターか・・・。
 エレメンツハンティングは、オレの冒険は、いつになったら始まるのか?
「このままじゃ、戦闘が本職になっちまうぜ」
 アキトは思わず口から愚痴を零した。
「人が死ぬ・・・」
 未だに立ち竦んでいる史帆は寒々しく呟いた。
 しかし寒々しい雰囲気は、彼女を中心に10センチぐらいの空間だけだった。
 しゃーねーなっ。ユキヒョウ乗務員の先輩として、一言だけアドバイスしてやるぜ。
「気にしたら負けだぜ。いや、気にしてたらテメーが死ぬな。あれは、ジンと彩香は通常運転中なんだぜ。そう、追走してくしかねーんだぜ」
 呆然としている史帆を置き去りに戦闘は続き、ヘルが有益ではない情報を呟く。
「おぉおおおおおーーー。あれはぁー、ブリンディジ級宇宙戦艦・・・なんと完成していのかぁあああ。素晴らしいぃいいいーーー」
『ヘルよ、格納庫とハッチの位置を知っているか?』
「いや知らんな・・・素晴らしいぃいいい。なんと素晴らしいことか。どうやら後継艦のようじゃーないかぁああああ」
「うるさいぞ、シュテファン・ヘル。後継艦なら基本設計は一緒だろう。さっさと知識を寄越すんだ。戦闘中なんだぞっ!」
『うむ、そこの筋肉ダルマの言う通りだ。さっさと図示せよ』
 ユキヒョウの戦略戦術コンピューターで、ジンはブリンディジ級宇宙戦艦の3D図面を完成させていた。
「しかし、ジン。我輩が知っているのはブリンディジ級宇宙戦艦の仕様であぁぁぁるぅぅう」
「ユキヒョウからデータが転送されてきたぞ。宇宙戦艦の3D図に格納庫とハッチの位置を示せ」
 ブリンディジ級の後継、ターラント級宇宙戦艦が同時に3隻ワープアウトしてきたのだ。1隻は宝船のミサイルにより轟沈したが、2隻は未だ健在。敵も当然攻撃してきている。
 宇宙戦艦の攻撃。しかも、民主主義国連合で最新シリーズであるターラント級宇宙戦艦である。激しい戦闘の最中、暢気に議論している場合ではなく、ゴウですら、真剣に宝船を操船している。
「そうそう、アキト。攻撃を変わってくれないかい」
「そういうのは、了承を得てからするもんだぜ」
 宝船の攻撃システムのコントロール権限を、ルーラーリング越しに譲渡されたのだ。
 翔太は軽い身のこなしで、オペレーションルームの中で1段高くなっている攻撃システムの端末席から飛び降りた。翔太が床に足をつけるとほぼ同時に、アキトは反対側から端末席に飛び乗った。
 翔太は宝船の甲板へと駆ける。
 アキトは譲渡された攻撃システムを瞬時に把握し、宇宙戦艦に攻撃を加える。
「彼は、何をするのかしら?」
「マルチアジャストを有効活用する気だぜ」
「翔太が最もスキルを活かせるだよ~」
 風姫は必死に推理するが、見当もつかなかった。
「・・・まるで分からないわね。教えてくれるかしら?」
 宇宙戦艦を誘導するのに精一杯で、アキトは風姫に返答する余裕がない。
 史帆が自分の推理を話す。
「毘沙門天?」
 宇宙戦艦1隻を相手にしているのだ。戦闘力が高いといっても宝船は民間船である。宇宙戦艦とは比べるまでもない。ヘルが示した位置を・・・ハッチを・・・狙うために全神経を注いで誘導しているのだ。
「え~っとね、全部なの。七福神ロボ全部だよ~」
 レーザービームでハッチに穴をあけ、ミサイルをハッチ内に誘導し格納庫を破壊した。だがブリンディジ級宇宙戦艦には、7つのハッチと3つの格納庫がある。格納庫は早めに潰さないと、戦闘機と人型兵器が発艦してしまう。
「それは・・・ダメだったわよね? アキト1人にも勝てなかったのに、軍隊相手に勝てるかしら? それに民主主義国連合の人型兵器は1機じゃないわ」
 そんな危機的状況にも関わらず、千沙は落ち着いて宝船のレーダーなどのオペレーションを完璧にこなしている。その上、風姫とも喋りながら・・・。オレには不可能だぜ。これは女性脳と男性脳の違いか? それとも翔太と同様、特殊スキル持ちか?
「七福神ロボ・モード1で戦うんだよ~。それにね・・・翔太が操縦席で直接コントロールするから、タイムラグもないの~」
 風姫の相手をしてもらってるんで有難いんだが、一つだけ千沙に文句を言いたい。
 戦闘中に緩い雰囲気を漂わせないで欲しいぜ。

 七福神ロボ・モード1が戦場に投入されてからは、圧倒的優位な展開となった。宇宙戦艦と比べて遥かに機動性能の高い人型兵器が、宝船に匹敵するレーザービーム砲を携えて攻撃しているのだ。しかも攻撃対象は、ユキヒョウと宝船から狙えない位置にあるハッチである。
「ジン様の特訓で、翔太君は成長したようですね」
 舞姫システムで手打鉦を縦横無尽に動かし、宝船と七福神ロボまで護り、戦況を把握しながら話している。
「どうやら、完全勝利になりそうです」
 彩香の言う完全勝利とは、修理せずとも航行に支障なく、ミサイルなどの消耗品だけで戦いが終ることである。
「・・・ジン様?」
 攻撃担当のジンは、ディスプレイにミサイルの残弾と、幽谷の砲身の状態を表示させている。
「民主主義連合国の艦隊単位は11隻だ。ここのワープポイントは、宇宙戦艦なら同時3隻が最大数なのだ。学習状況はどうだ?」
 戦略戦術コンピューターに搭載されている人工知能の学習状況を、ジンは彩香に確認したのだ。
 艦隊単位が11隻という言葉でジンの懸念を共有した彩香は、戦闘継続のための情報も添えて答える。
「ある程度なら戦略戦術コンピューターに任せても、防御が破綻することはありません。手打鉦の損耗率は3割です。うち6割がダーク手打鉦になります」
 ジンの刹那の苦悩で、ユキヒョウの攻撃が乱れた。
 想定よりも、手打鉦の損耗率が高いな。これまで同様、宝船と七福神ロボを護りながらだと、敵艦を戦闘不能にするより先に手打鉦が全滅する。
 現状ダークマターのみの手打鉦は、攻撃に回している。潰せていない敵艦のミサイル孔とハッチに配置している。高々全長400メートルにも満たない2隻の民間船が全長1000メートルを超える敵の宇宙戦艦3隻相手に対抗できている。その主たる理由は、敵が混乱しているからだ。
 宇宙戦艦が発射した直後に、ミサイルは突如として爆発する。
 ハッチから発艦しようとした人型兵器が押し止められている。その間にレーザーで貫き人型兵器を破壊する。次にダーク手打鉦をハッチ周辺から退避させ、格納庫内を幽谷で破壊しつくしているのだ。
 ダーク手打鉦を防御に回すと、この危うい均衡状態が崩れるな。
 ユキヒョウだけなら、ある程度敵艦を行動不能にして、最大戦速で離脱可能か? 敵艦も大破した自軍の宇宙戦艦の救助活動を優先する。しかし8隻程度は大破させないと、追撃を受けるだろうな。
「防御は戦略戦術コンピューターに任せろ。攻撃は彩香に一任する」
 彩香はスムーズにジンから攻撃システムを引き継ぐ。しかし、ジン程効果的な攻撃ができていない。というより、ジンが苦悩した刹那よりも攻撃力が落ちている。
 幽谷は突き刺さり、ミサイルは悉く命中しているが、敵艦は健在なのである。何故なら、ジンと比較すると精度が悪く、宇宙戦艦のウィークポイントを外しているからだ。
 彩香は必死に対応しているが、次の3隻がワープアウトしてきたら、長くはもたんだろうな。
 この貴重な時間で、打開策を導き出さねば・・・。
「ジン様。少しは希望的な予測が欲しいのですが? わたくしの棺桶として、ユキヒョウは豪勢なので、不服は全然ありま・・・せん・・・」
 敵艦の攻撃が苛烈になってきたから、彩香は一旦台詞を中断し、舞姫システムにも介入して戦術的優位を取り戻す。
「ただし、風姫様とジン様と運命を共にするのは、遠慮させて頂きたいですね。あの世では・・・存在すればですけど・・・平穏に暮らしたいと考えています。お2人のトラブル収拾は、他の人に担当してもらいたいですね」
「まだ、この世を愉しみ尽くしてないだろう。それにだな、風姫には彩香が必要なのだ」
 軽口を叩きながらも、ジンはユキヒョウの最上位権限の限定人工知能であり、最大の演算能力を持つ量子コンピューターでシミュレーションを繰り返している。
「そうですね。わたくしがいなく・・・なると、アキトが頭にのりますしね。お嬢様の傍で、わたくしがアキトの動向を、しっかりと監視する必要がありま・・・」
 彩香はジン程に余裕はないようで、時々言葉に詰まる。
「では、ジン様。チャキチャキと解決策を提示し・・・てください。風姫様の安全が最優先です。時間もありませんので、騙し討ちでも・・・悪知恵でも良いですよ」
 ワープポイントの揺らぎが収まりつつある。つまり、次の宇宙戦艦が安全にワープアウトできる状態になるのだ。
「物言いが、昔に戻りかけてるようだが?」
「それは失礼しました。なにぶんジン様との掛け合いは、生前の方が長かったものですから」
 我は生前、風姫に悪影響を与える危険人物として扱われていたからな。
 満足のいくシミュレーション結果が、漸く導き出せたジンは、通信レベル最優先で宝船に連絡する。
「ゴウ、時空境界を顕現させる。翔太は宝船に戻るのだ」
『意味が分からぬぞ』
「宝船で惑星ヒメジャノメに先に往くのだ。我は後から往く。アキト、今から詳細データを送る。3分で突破準備を調えよ。5分後から10秒間、時空境界が顕現するのだ。出来るな?」
『愚問だぜ・・・ジンはどうすんだ?』
 データに眼を通しながらも、的確な質問を投げかけてくる。こういところは蒼空に似ていて小癪すぎる。
「我は限界に挑戦せねばならない。良いか・・・ユキヒョウによる宇宙戦艦撃沈数の更新だ」
『俺たちお宝屋も協力してやるぞ』
「我の所業の邪魔をするなっ! 良いか、ゴウ。目的と手段を違えるな。汝の目的はなんだ?」
『ゴウ、翔太、ジンの言う通りにしろや。ジンは戦争のプロで、デスホワイトだ。オレたちは邪魔にしかなってねーぜ』
《いやいや、アキト。それはないよね》
『翔太、説明は後でしてやるぜ。時空境界顕現まで2分を切ったんだ。ジン、惑星ヒメジャノメで待ってればイイんだな?』
「安心せよ。我はルリタテハ王国の唯一神である」
『ゴウッ!! 翔太は早く宝船に乗るんだ。七福神ロボ内にいると突破時に肉体が影響を受ける』
 アキトめ・・・やはり知ってるのだな。
 ヒヒイロカネ合金は、境界突破する際に発生する様々な波長の重力波を吸収し、人体への負荷を軽減できるのだ。
『うんうん、僕はアキトを信用するさ』
『分かった・・・借りておくぞ、ジン』
「宝船を突破させる境界は、10秒しか顕現できぬ。往け」
『ジン、彩香。惑星ヒメジャノメで待っているわ』
 七福神ロボが帰還し、モード1の状態のまま宝船の甲板に固定される。翔太は素早く宝船の格納庫に入り、オペレーションルームに報告した。
「お嬢様、大蛇の生肉を食べてはいけませんよ」
『私はアキトじゃないわ』
 操船、攻撃以外のオペレーションを一手に引き受けている千沙は、サブディスプレイにワープ可能状態と表示した。
 時空境界突破可能の表示がないため、ワープと表現しているのだが、アキトとゴウは理解していた。
『一々話にオチをつける必要はねーんだぜ。・・・突っ込め、ゴウォオオオ!』
 ユキヒョウから送信されてきたデータに基づいた設定を終え、アキトはゴウに向かって指示を出した。
『ふっはっはっははーーー。突っ込むぞぉおおお!』
 ユキヒョウから送られてきた時空境界の顕現宙域を千沙が示し、ゴウは一切躊躇せず時空の境界へと宝船を突っ込ませたのだ。

 宝船は、惑星ヒメジャノメの朝になったばかりの大地に着陸した。そこは草原で、森が近くにあるトレジャーハンティングのベースには最適な場所だった。
 宝船に乗船していた全員が草原へと降り立ち、青く輝くヒメジャノメ星系の恒星からの朝日を浴びる。
「ユキヒョウ・・・大丈夫かな」
 史帆の呟きに風姫とアキトが、答えになっていない答えを口にする。
「そうね。ドレスルームは大丈夫かしら・・・急いで着替えて宝船に乗ったから固定まではしてないのよ。心配だわ・・・」
「オレの作業道具・・・壊れないと良いけどなぁー。オレも調整道具を固定まではしてないんだよな。最悪、調整道具の道具の調整から始めることになるぜ」
「ねぇ・・・どうして、ジンさんと彩香さんの心配をしないの?」
「無駄だぜ」
「そう・・・なの」
「そうよ。心配するだけ損だわ」
「・・・えっ、無事ってこと?」
「もちろんだわ」
 凛とした声音で言い切った風姫だが、表情には自信と不安を同居させていた。それを吹っ切るように、風姫は笑顔でアキトに尋ねる。
「それで、何をしようかしら?」
「決まってるぜ」
「うむ、決まり切ってるぞ」
「僕たちは、お宝屋・・・」
 翔太の台詞を、アキトは即座に否定する。
「いや、違う」
「まあまあ、アキト。ここは合わせるべきじゃないかな?」
「あたしとアキトくんの2人の生活が始ま・・・」
 周囲を見渡しながら、アキトは否定する。
「それも違う」
「ふっはっはっははーーー。良いぞ良いぞ、この感覚。行くぞぉおおおおおお」
 アキトと翔太は、ゴウにつられ絶叫する。
「やるぜ。トレジャーハンティングだぁああああーーー」
「そうそう、そしてぇええ、冒険さぁああああ」
 3人を醒めた視線で風姫が眺め、千沙は幸せに包まれているかのような笑顔で見ている。
 アキトの中にあるトレジャーハンターとしてのアイデンティティーが刺激されていた。アキトは久しぶりのトレジャーハンティングに、冒険に、興奮を隠せなかった。
 それに隠す気もない。
 自分の気持ちと感覚の赴くままに、今すぐにも飛び出そうとしているのだった。

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