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シュウカツ、始めます!

 カルドナ家は王都の貴族街の中でも公爵家らしく大きな建物だ。
 鉄の門が開き馬車は中庭を通り玄関の前で止まった。
 玄関の前にはメイド達が左右に並んで立っている。
「旦那様、お嬢様お帰りなさいませ」
「うむ、私は執務室にいるからルシーアは自室にいなさい」
「わかりました」
「お嬢様、お疲れでしょう。お部屋までご案内致します」
 私はお父様と別れメイドに連れられ自室へと戻って来た。
「あぁ~、疲れたぁ······」
 私はそのままベッドにダイブした。
 貴族としてははしたないけど誰も見てないし構わない。
 それにもう公爵令嬢『らしい』事は止めると決意したのだ。
 社交パーティーにも出ないしお茶会にも参加しない。
「これからは自由な時間が増えるわね、何をしようかしら、本を読み漁るのも良いし、庭いじりもしたいわね。いっその事、実家に戻ろうかしら?」
 王都にあるこの家は別宅であり本家は王都から離れた自然に囲まれた場所にある。
 小さい頃はよく遊びに行き森や川で遊んだものだ。
 小さい頃の私は兄が2人いる影響からか男っぽい性格だった。
 兄達と一緒に泥だらけになって遊んだ。
 それが成長するに連れて貴族令嬢らしくなっていって······。
「あの頃に戻りたいわ······」
 そんな思いに浸っているとコンコンとノックがした。
 慌てて私はベッドから離れた。
「お嬢様、部屋着を持って参りました。それと軽食にサンドイッチをご用意致しました」
 そういえばパーティーの時はジュースばっかり飲んでいて食事はしてなかったわね。
「ありがとう、気が利くわね」
「お嬢様のメイドですから。因みに今夜の社交パーティーで何があった事も知っております」
「もう知ってるのっ!?」
「メイドネットワークを舐めないで頂きたい」
 舐める、というかちょっと怖いわよ。
「じゃあ、本音を話した方が良いわね。私ね、もう貴族とか公爵とかどうでもよくなったのよ。努力しても報われない事がある、て初めて知ったわ。何か全てが馬鹿馬鹿しくなっちゃったわ」
「そうですか······」
「いっその事、一生表舞台には出ないつもり。私はひっそりと何処かでのんびりと暮らしたいわ」
 サンドイッチを食べながら私は喋った。
「それでしたらお嬢様、『シュウカツ』を始めてみたらいかがでしょうか?」
「シュウカツ?」
「貴族を辞める為の『終活』、そして貴族を病めた後の『就活』という意味です」
 なるほど、行動に移さずにただ愚痴っていても仕方がないわね······。

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