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帰還の門

 管理者がモンシューアを飼い始めてから随分と時が流れた。
 あれから新しいペットは増えていない。ほとんどが予兆止まり。しかし、中には形になる存在も居たのが、それらは管理者に飼われる事を是とはせず、あっさりと消されていった。毎回ラオーネ達のように上手くいくとは限らないという事だろう。
 それに、最近は外の世界の拡張が速くなってきたからか、内部を満たしている力の充填の方が追い付いていない。おかげで全体的に力が薄くなってしまっている。その影響か、誕生する存在は少し弱くなってしまっていた。そのせいで上手く彼我の差を理解しきれないのかもしれない。
 現状に管理者は、これならば漂流物の受け入れは必要なかったのではないかと考えた事があったが、しかし、あの当時はああしていなければ外の世界は崩壊していただろう。
 では今はというと、むしろ漂流物が外の世界には必要なのではないかとも思う。しかし、創造主は何も言ってこないし何もやらないので、管理者はそのまま受け入れている。
 そんなある日のこと。管理者は何かがやってきた、というよりも持ち込まれた事を察知し、そこに赴く。
 管理者が向かったのは、居住区画から少し離れた平原の一角。
「……………………」
 そこに在った見知らぬモノを見て、管理者は僅かに考える。そして導き出した結論は、創造主が勝手に配置していった。というもの。
 管理者の眼前に在るのは、一枚のおそらく扉。格調高く感じる美しい紫色のその扉だが、何故だが目の前にはその外枠しかなかった。
 これは何だろうかと思い、管理者はその外枠を調べてみる。
 見たところ外枠以外には何も無く、回って反対側から見てもやはり外枠があるのみ。
 それでいてしっかりと立っているのだから不思議なものだが、妙な力を感じるので不思議でもないのかもしれない。
 その妙な力が創造主由来なので、この外枠を創造主が勝手に置いていったものだと断定したのだが、管理者は一通り観察を済ませた後にどんな力を有しているのか調べてみる。
「……………………」
 その結果に、管理者は何とも言えない気分になった。
 管理者がその外枠を調べて分かった事は、それが帰還の門と名付けられた道具である事。つまり、この外枠に放り込めば漂着物は元の世界に戻れるということらしい。
 見た目は扉ぐらいの大きさではあるが、漂着物を近づければ必要な大きさに拡張するようだ。
 試しに、居住区画に並べた建物の一つと一緒にやってきたぬいぐるみを持ってきて、門を通過するように放り投げてみる。そうすると、外枠の中には反対側の景色がちゃんと映っているというのに、放り込んだぬいぐるみはその門を通過すると何処かへと消えていってしまった。
 管理者がぬいぐるみの行方を追ってみると、ちゃんと元の世界に戻っていた。それを確認して、管理者は考える。わざわざ外の世界に流れた漂流物をこの世界で受け入れなくとも、この扉を設置した小さな世界でも用意すればよかったのではないかと。
 そして、流れをこの扉へと流す事で、漂流物だけを元の世界へと返却する。それで万事解決したのではないかと。そうすれば、管理者が創造主の尻拭いをしなくてもよかったのではないかと。
「……………………」
 今更そんな事を考えてもしょうがないので、今度はベッドを持ってきて扉に向かって横向きで投げつける。どう考えても外枠の幅の方が狭いので、本来ならばそれに引っ掛かるはずなのだが、横向きで投げつけたベッドは外枠に触れた瞬間に消えてしまう。すぐさま行方を追ってみると、こちらも元の世界に戻っていた。
 管理者は考える。この扉を使えば、全ての漂着物を元の世界に返せることだろう。多少面倒ではあるが、それで全ては解決する。まだ外の世界の流れは変っていないので、また新しい漂着物が来るのだろうが、それでもこの扉を使えば直ぐに返すことが可能であった。
 そこまで考えて、管理者は思う。それでいいのかと。
 創造主が何を考えてこの扉を送り込んできたのかは分からないが、それでもこのままこの扉を使用すれば、今までの苦労が無意味になるような気がした。何より、あまりにも身勝手な創造主の意のままというのも何だか癪だった。
 そのため、管理者は考えた結果、扉を隠すことにする。破壊しても構わないのだが、創造主の意図が分からないためにそれは止めておいた。
 さて、それで扉を何処に隠すかだ。隠すので簡単に見つからないような場所が望ましいが、何処かにそんな場所があっただろうか。
「……………………」
 しばし考えた管理者は、そういえばよさそうな場所があったなと思い出す。それは足下に広がる地下迷宮。元々王族の墓だっただけに、財宝の隠し場所としては最適だろう。それに複雑に入り組んだ道に罠の数々が出迎えてくれるので簡単には辿り着けない。それだけの難所を越えた先のご褒美として考えれば、ちょっとした遊びにもなりそうだ。
 そう考えたところで、まず管理者はその地下迷宮の最奥に新しい部屋を造る。地下迷宮自体が漂着物なので、扉をそのまま設置するのは躊躇われた。
 そうしてサクッと最奥に新しい部屋を追加したところで、目の前の扉をそちらに移す。創造主の置いていったものだろうと、管理者にとっては大した物ではないので、移設は直ぐに終わった。
 その後、そうなると地下への入り口を分かりやすくした方がいいだろうかと考えた管理者は、元々王家の墓だった事を考慮して、石造りの神殿みたいなものを地上に築いていく。
 地下迷宮への入り口はその神殿内に在り、それはまるで陽の光の下を生きる者達を闇へと誘っているかのような、そんな怪しい雰囲気を漂わせた入り口であった。

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