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年の初めのご挨拶よぉ その1

 僕が元いた世界では正月三が日とかいって、年始3日くらいまではのんびりしているところが多かったように思うのですが……まぁ、それでもコンビニなんかはどこも年中無休で24時間営業していたし、サービス業はどこもそんな感じではあったんですけどね。
 で、この世界ですが、年末年始にあたるトゥエの月の30日とオネの月の1日の2日間だけがお休みで、オネの2日になるとみんないつものように働き始めています。
 コンビニおもてなしもそれにならって2日から営業を再開して、すでに通常営業モードに移行しています。
 新年最初の営業になったオネの月の2日は、テトテ集落の皆さんに本店まで来てもらって餅つきの実演をしてもらいましたけど、特別なことといえばそれくらいですね。

 僕が元いた世界では、コンビニっていえば年中無休24時間営業が当たり前でした。
 で、僕もそんな例に漏れることなくコンビニおもてなしを24時間営業していました。
 とはいえ、あの頃は正直すっごくきつかったです。
 24時間営業しようと思ったら相応に店員を確保しなければなりません。
 ですが、当時のコンビニおもてなしは店員を雇えるほど儲かっていませんでしたので、常にバイトでなんとかシフトをまかなっていた感じです……で、足りないところには常に僕が入ってですね……最長で128時間連続勤務なんてことも経験しましたけど……ははは(乾いた笑い

 その点、この世界はいい意味でメリハリがついています。
 週に一度は街中の店がお休みになりますので、コンビニおもてなしもそれに習っていますし、夜は魔獣達が出てきかねないためほとんどの都市民が家に籠もって出歩きませんからほとんどの店が夜は閉まっています。例外は酒場くらいなもんですね。で、コンビニおもてなしもそれにならって夜間営業はしていません。おもてなし酒場だけは別途営業していますけどね。念のために用心棒役のイエロとセーテンが店員兼務で常駐していますので魔獣対策もばっちりです、はい。
 おもてなし酒場以外にも、本店の巨木の家の上部にある昆虫人相手の昆虫ゼリー販売所は明け方まで営業していますし、週一のお休みどころか昼夜もお構いなしな生活サイクルで研究に没頭している魔法使い達が集まっている魔法使い集落内では、魔法使い達が日時に関係なく押し寄せてきていますので、そんな奥悪達に合わせて営業している3号店は24時間年中無休なわけです、はい。
 3号店に関しては、店員が全員木人形だからこそそれに対応可能なんですけどね。
 この木人形って魔力で動く、文字通り木の人形なんです……ただ、木の人形といいましても、店長をしているエレなんかは表情もありますし、言葉も話せます。
 エレによると
「木人形も長年稼働していますと感情を有していく場合もありまして……幸い私はそれを有することが出来たようですわ」
 とのことだった。
 僕が元いた世界でいうところの付喪神みたいなもんなのなのでしょうか?
 で、このエレを筆頭にした、3号店で勤務を続けている木人形達5人は、スアが定期的に魔力を補充してくれています。

 ……しかし、こうして考えてみると、スアってホントにすごいな、と、改めて実感します。
 3号店の5人の木人形に魔力を定期的に補充し、本店と各地の支店をつないでいる転移ドアを魔力を消費しながら常時展開し、別世界に使い魔達が住まうための使い魔の森を作り出してそれを魔力を消費しながら維持し続けていて、で、毎日のように新薬の研究に勤しんでいたり、で、夜は夫である僕の相手をゲフンゲフン……
 っていうか、ホントにスア大明神様ばりに崇め奉っておかないと申し訳ない気持ちになってきちゃうほど、スアってばコンビニおもてなしのためにあれこれ頑張ってくれているんですよね。
 で、僕がそれをスアに伝えると、スアは思いっきり頭を左右に振りました。
「……旦那様のためなら、これくらい当たり前、よ」
 スアってば、そう言いながら頬を赤く染めて僕に抱きついて来ました。
 えぇ、もうホント、僕には出来すぎた嫁さんなわけです、はい。

◇◇

 で、そんなラブラブな僕とスアはこの日もいつものように大きなベッドの上で並んで寝ていました。
 ベッドの足元の方から見て、

 僕
 パラナミオ
 リョータ
 スア

 の順番です。
 で、パラナミオは僕に抱きついて寝るのがデフォルトになっていますので、傍目には三本川状態ではあるんですよね。
 で、僕はそんなパラナミオを抱っこするような格好で寝ているのですが。

 今日は、なんかおかしいです。

 前だけでなく、なんか後ろにも温度を感じるといいますか、何かが僕の背中に抱きついている……そんな気がしてなりません。
 スアとのいつものウフフな時間を過ごした後ベッドにそっと戻った僕とスア。
 で、そんな僕にパラナミオは寝たまま条件反射で僕に抱きついて来たわけですが……その時にはそんな気配はありませんでした。
 ですが、今は確実に気配があります。
 何かが僕の背に抱きついています。

 スアが甘えてきたのかな……とも思ったのですが、スアは僕の視線の真正面……リョータの向こうで寝息をたてています。

(……じゃ、この背中の気配は誰だ?)
 僕は首を回して背後へ視線を向けたのですが、室内が真っ暗なのでよくわかりません。
 しかも、僕の背中に抱きついている人物って、どうもかなり小柄みたいでして……僕が肩越しに振り向いたくらいじゃあ視界に捕らえることが出来そうにありません。
 起き上がろうにも、パラナミオが僕に抱きついたまま気持ちよさそうに寝ていますし、下手に動いて起こしてしまうのもはばかられるわけです。

……さて、どうしたもんでしょう

 僕がそんな感じで悩んでいるとですね……なんか僕の背中に抱きついている何物かがモソモソ動き始めました。
 意図的に何かしようというよりも、なんか寝ぼけて動いている……そんな感じです。
 で、その人物の手がですね……僕の腰の辺りをモソモソしながらだんだん前に回ってきて……あ、こら、やめなさい、何をする……
 いきなり股間に延びてきたその手を、僕はパラナミオを起こさないように気をつけながら片手でガードしていたのですが、その手は僕に排除されまくりながらもくじけずに突き進んできます……いや、マジ勘弁してってば……
 で、僕が焦っていると、そんな僕の後方から寝ぼけた声が聞こえてきました。
「むにゃ……あなたぁ……ステルちゃんに弟か妹をぉ……もう一回頑張ってくださいねぇ……うふふぅ……」

 ……うん……確信しました。

 僕の背後から抱きついている人……お義母さんです。
 スアママこと、リテール・アムさんで間違いありません。
(お義母さん、起きてください!僕はリョウイチです!)
 小声で必死に語りかける僕。
 ですが
「うふふ~量いっぱいですかぁ……うふふぅ」
 リテールさん……なんて聞き間違いしているんですか!?ちょっと勘弁してください、マジで。
 リテールさんってば、全然起きる気配もないままに、その手をアグレッシブに僕の下半身に伸ばしてくるわけです。
 えぇい、こんちくしょう!どうすりゃいいんだ、これ?
 で、まぁ、どう考えてもパラナミオには悪いけどここは起き上がるしか……
 僕がそう思った……まさにその時です。

「……そこの泥棒猫……人の旦那様に何してる、の? あ?」
 まるで地獄の底から響いてくるような声が室内に響きわたりました。
 で、僕の視線の先……リョータの向こうにですね、上半身だけをむくりと起こしたスアの姿があったのですが……その目だけが異常に輝いていましてですね……

 で、僕がそんなスアの目をみた次の瞬間


 ドンガラガッシャ~ン……


 室内にすさまじい音響が響きわたりました。
 同時に、僕の背後の気配もなくなりました。
 で、僕の後方の壁の方からですね
「は~れ~……」
 なんか、リテールさんらしき女性の断末魔の叫び声が聞こえたような……

◇◇

 で、スアの魔法で壁まで吹き飛ばされたリテールさんをお姫様抱っこしてリビングまで連れて来た僕ですが、まぁさすがスアママといいますか、スアの魔法をくらったにもかかわらずかすり傷ひとつおっていませんでした。
「ごめんねステルちゃん。年末のすっごい忙しいのがやっと終わったからぁ、すぐに遊びに来たんだけど、みんな寝てたからさぁ……せっかくだから家族水入らずで一緒に寝させてもらおうって思ったんだけどぉ……なんか、亡くなったパパの夢をみちゃって、ついつい……ねぇ」
 リテールさんは、リビングのイスに座ってそんなことを言っていますが、その真正面に座っているスアは僕に抱きついたまま
「……とにかく、この人は私の! 手を出したらダメ、よ!」
 かなりの剣幕で怒っているわけです。

 なんと言いますか、

 前に苦笑しているお義母さん
 横に僕に抱きつきながら怒りまくってる奥さん
 あ、背後には寝ぼけながらも僕に抱きついているパラナミオもいるんですけど……なんで正月早々こんな修羅場になってるんですかね、我が家ってば。

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